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緋色の魔王の建国物語  作者: 御子柴
第二章 死闘
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第三十四話 裏切り

「……は? 元人間? アンタが?」


 素っ頓狂な声をあげたのはクレアだ。場所は城塞都市国家ダムドのエスカトリーナ邸の客室、いるのは黄金騎士クレアとこのエスカトリーナ家の居候である神崎博之、そして爆炎の巫女姫ことフレアの三名だ。

 現在三名はフレアについて話している。彼女がどう言った経緯でこの世界で生まれ、どう言った経緯で人間を嫌いになったのか。クレアを確実に味方に引き入れるためにフレアは隠す事なく己の過去を語っている。


 此処とは別の世界の事、魔王となるべくこの世界に召喚された事、人間嫌いになったきっかけ……この城塞都市国家の城門で起こった事件、彼女の住む町の事、そして神崎博之もフレアと同郷なのだという事。別に話してはいけない事ないのだから、包み隠さず全てを話した。

 ……いや、カンパネラとの因縁は一部だけは隠している。それはあの日辱められた怒りの記憶。


 カンパネラの事を思い出し、フレアはその身を僅かに震わせる。別に怖いわけではない。戦闘になれば勝てるかはわからないが、負ける気もしない。

 ただ、あの日付けられた心の傷が未だに癒えず、ずっと彼女の心を蝕んでいる。


「ま、つまり、理由はさておきアンタもカンパネラに狙われていて、それで私の力が必要だって事なのね?」


「その認識で間違いはない。私は民を守る王として優秀な部下が必要だからな」


「さりげなく私を手下にしようとするんじゃないわよ……ったく、仲間よ仲間。アンタが元人間ってわかったら疑う気なんて欠片も無くなったわ。だから今からは目的を、倒すべき敵の一致する仲間よ。私達はね」


 ゴロンと体を大の字にベットに横たわるクレア。久々のベッドだと嬉しそうに破顔させて柔らかいその感触を楽しんでいる。この客室にあるベッドは二つ。以前泡影と泊まった部屋とは違う部屋である。

 そんな美少女達の泊まる部屋、もう冬であるが為にクレアは暖かそうな生地の厚いパジャマを用意してもらってるが、フレアに関しては相変わらずのネグリジェ。前にフレアの家に泊まった時もそうだったのだが、この赤毛はどうにもその辺の管理意識が低い。

 年頃の男の目の前でその格好はどうなのかと、クレアも言ってくれてはいたのだが、この格好の方が涼しいんだと一向に聞かないのだ。


「そもそも前もお前が町に来た時も私はこの格好じゃないか。今更気にするな。気になるんなら見なきゃいいだけだろ?」


「そういう問題か?」


「違うのか?」


「……いや、それでいいよもう」


 もうそれは諦め。フレアは俺を信用してそんな格好しているんだろうから、なら俺はそれに応えようと、その決意とは裏腹にガックリと項垂れる。

 確かにフレアは神崎博之に対して絶大な信頼を寄せている。それはカンパネラの事件の時、神崎博之と共に奴隷商に捕まった時だ。神崎博之はカンパネラの呪いを解く為にフレアの胸に直に触れている。その時に神崎博之は少しもおかしな真似はしなかった。故にフレアは神崎博之なら大丈夫だ、と思っている。


 実際、神崎博之にしてみればそんなのはただの生殺しでしかなく、かなり酷い事なのだがそんな知識など持たぬフレアにはわからない。


「……アンタ達さ、夫婦漫才もいいけど私の存在忘れないでよね?」


 と、そんなただただ初々しい二人をクレアは生暖かい目で見守ることしか出来なかった。




 翌朝、そんな楽しかった昨夜とは打って変わり、このエスカトリーナ邸内には複数の憲兵が押し寄せている。何事かとフレアは様子を伺おうとするも、屋敷のメイド達に止められる。


「ダメです。今は出てはいけません」


 必死の形相で前日フレアを着せ替え人形にしていたメイドさんはそう口にする。その魔王を人魚扱いする恐るべきメイドさんが言うにはどうやら昨夜、この街のちょうどこの屋敷のある区域で殺人事件が起きたとの事だ。

 被害者は十代の女性、無残にも体を、四肢をバラバラに切り刻まれていたらしい。が、それだけなら別にフレアにはなんら関係はないのだが、問題はその犯人の目撃情報だ。


「赤毛の魔族……? ってフレア、アンタいつの間にそんな事しでかしたのよ」


「おいこら、ピンポイントで私と決め付けるな。そもそも私にはアリバイがあるだろうが。疑われる筋合いはないぞ」


 目撃情報によれば犯人は赤毛の魔族。しかし、赤毛など探せばいくらでもいる上、フレアは昨夜はずっとクレアや神崎博之、また目の前のこのメイドに着せ替え人形にされていたのだ。そんな暇はなかった。

 故に私は大丈夫だ、と言っているのだが、フレアはわかっていない。


 ここには科学捜査などという便利なものは存在しないのだと。憲兵による真面目な操作も行われるが、今回の事件は【魔族】が【人間】を殺害したのだ。

 その意味をフレアは考えるべきだった。それを考えていればこんな事にはならなかっただろう。


「いたぞ! 赤毛の魔族だ!」


 数名の憲兵がまるでフレアの事を親の仇かのように睨み、詰め寄ってくる。しかしフレアは腕を組み堂々と。

 別に取り調べくらいなら受けてやる。今回はこのエスカトリーナ家からの正式な滞在許可証ももらっている。犯人でもなければやましい事など一つもない。逆に謝らせてやるよ。と。


 だが、上で述べたように、フレアは逃げるべきだったのだ。


「……は?」


 ガンッ、と鈍い音がした。頭に鈍い痛みが。


「取り押さえろ!」


 次々にその憲兵達はフレアに襲い掛かり、手にした警棒で、まさに殺す気かと思える程の勢いと形相で殴り掛かる。

 ……理解が追い付かない。何故今自分が殴られているのか、何故こんな目にあっているのか。理解が追い付くその前に、彼女の首元からガチャリと無機質な、何かが嵌められるような音がした。その瞬間、彼女はようやく我に返った。


「クレア、お前は逃げろ! この事を神崎博之に告げて一緒にわたしの町に行け!」


 この首に着けられたのは【魔封じの首輪】。装着者の魔力の流れを塞き止めて魔法、魔術、能力の行使を制限する物である。しかし、能力が使えなくとも彼女の身体能力は魔人級。今さらこんな首輪を着けられた所で人間程度に遅れは取らない。


 故に此方を助けようと動いていたクレアを制止し、此処から脱出するように指示を出す。このままこの屋敷にいてはいけない。この事件、犯人はこの国の公爵、この家の当主であるグラン・エスカトリーナだとフレアは睨んでいるからだ。

 でなければ何故この憲兵共は国の超が付く程上の位にいる公爵家に土足で踏み入り、そして犯人と容姿が似ているという事だけで私にこうも執拗な暴力を震えるのか。


(大方……私の野望、国造りを子供の遊びに軽く手を加えるくらいの気持ちで見てたんだろうな。だが、神崎博之から話を聞いて、私の能力が魔人を優に超えていると知る……そりゃ脅威だよな。排除したくもなる)


 一人で納得し、迫る憲兵達を蹴り倒しながらクレアが逃げるまでの時間を作る。此処で一緒に逃げるのは簡単だが、何処に逃げればいいのか? 最悪町まで尾行されて軍を送り込まれる可能性もある。ならば此処で彼らの目的であるフレアが残って目を引き、その隙にクレアと神崎博之に町まで逃げてもらおうと。


 そしてそれは言葉にしなくてもクレアには伝わった。


「フレア……アンタも早く来なさいよね?」


「わかってる、あの馬鹿を頼んだぞクレア」


「おい、一人逃げたぞ!」


「構うな! 魔族を捕らえろ!」


 そうしてクレアはフレアの作った隙により屋敷を脱出、街のどこかをうろついているであろう神崎博之を捜し街を駆け出した。

 その場に残されたのはフレアと、まだ現状を飲み込めていないメイド達。

 流石にメイド達には手を出さないだろうとは思うが……


「何やってんだお前ら……」


「なにって、お仕事ですよ? フレア様は我が屋敷の大切なお客様です。お客様を守るのは屋敷仕えとして当然のお仕事で……ていっ」


 ものの見事に椅子を振り回す暴力メイド達。おかげで守る対象が増えてしまったとクレアは溜め息を吐いた。



 ◇◇◇



 クレアは駆けている。神崎博之を見つけるために。

 あの少年はクレアの町に移住する為、世話になった人達への挨拶をしてくると言って今朝に屋敷を出て行った。彼が世話になったであろう人達の事は知らないが、こうして走っていればあの少年の事だ。


「ちょ、おっちゃん、最後なんだし負けてくれてもいいんじゃねぇ!?」


 ほら、すぐ見つかった。お茶屋の軒先でそこの主人と楽しそうにチェスを嗜んでいる。こっちはこんなに必死なのに気楽なもんだなと文句を言いたいが、今はそんな暇はない。


「ヒロユキ、すぐに出るわよ、急いで!」


「ん? クレア? ……ってどうしたイキナリ?」


「説明は後! すぐに街を出るわよ!」


「すぐにって……俺まだこの後も用事が____」


「そんな暇ないの! 早くしないとフレアがっっ!」


 そこまで言ったところで神崎博之の表情が変わった。


「おっちゃん、ごめん。もう行かなきゃならないみたいだ。またいつか今日のリベンジするからな。じゃあな!」


「あ、ああ、なんかよくわからんが、またなヒロ坊」


 最後の挨拶を軽く終え、神崎博之はクレアと共に街の外へと向けて走り出した。事情は全くわからない。しかし、此処にフレアがいない事とクレアのこの必死の形相、ただ事ではないのは理解出来る。。


 しかし、街と外とを繋ぐ門、検問所には既に多くの憲兵が待ち構えている。クレアの力を持ってすれば問題なく突破出来るだろうが……


「クレア、いいんだな?」


「もちろんよ。友達の為だもの」


 そう言いクレアは腰の剣に手を掛け、己の持つ魔力を剣へと送る。


「光栄に思いなさい、黄金騎士の絶技をその身に受けられるのだからね」


 クレアが剣を横薙ぎに一線。その軌道に合わせ剣より龍を象った水が出生み出され検問所の憲兵達を一掃、文字通り綺麗に掃除した。

 力の加減はしているのだろう、誰も死んだ様子はない。大した怪我もしていない。まさに活殺自在、これがギルドA級の力。


 そうして門を通り彼女達は街の外へ、大草原を城塞都市国家ダムドが見えなくなるくらいの距離を駆け、そこにある大岩の陰に身を隠す。

 かなりの距離を走った。クレアも神崎博之も疲労困憊といった様子で、かなり辛そうに肩を上下に揺らしている。


「んで、教えてくれ……フレアはどうしたんだ?」


「ふぅ、ふぅ……多分、捕まったわ。魔物による人間殺害の容疑でね」


「……は?」


「待って、言いたい事もわかるけど、まずは落ち着いて、それで聞いて」


 フレアが捕まったと聞き顔色を変える神崎博之。フレアがそんな事するわけないだろうと、そんな馬鹿な話があるかと怒りに染まる。


「フレアがそんな奴じゃないってのは俺が一番知ってる。……そうだグランさんは? グランさんに相談はしたのか?」


「いや、駄目よ。そもそもね、エスカトリーナ家の屋敷に居て憲兵に押し入られたのよ? この意味わかるでしょ?」


「……くそ、なんでだよグランさん……」


 神崎博之はグラン・エスカトリーナを信頼していた。彼がこの世界に来て、右も左もわからぬ時に手を差し伸べてくれたのがグランだったのだ。

 フレアにも優しく接してくれていた。なのに何故……。


「そんな事は私は知らないわ。ただ、エスカトリーナ家でこの事件は起きた。そうなると一番疑わしいのはグラン氏ってだけよ」


「……フレアはなんて言ってた?」


「ヒロユキと一緒に私の町に行け、と」


「フレアの身柄を確保……無事なのか?」


「わからないわ。でも、急いだ方がいいのは確実ね」


「……わかった。まずはフレアの町に、緋色の町に行こう。そこで町の皆に相談して力を借りよう」


 そうと決まれば居ても立っても居られない。一刻も早くフレアを助け出す。その為に神崎博之は立ち上がった。


「クレア、急ごう」


「……フレアの為なら疲れも感じないってわけね。妬けるわねまったく」


 クレアも立ち上がった。

 フレアを助け出すため、二人は再び大草原を駆け出したのであった。

なんか、フレアばっかりこんな目に(笑)

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