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緋色の魔王の建国物語  作者: 御子柴
第二章 死闘
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第三十一話 騎士王国サザンドラ

 大草原を中心に城塞都市国家ダムドの北、広大なコーストス帝国の帝国領に隣接する騎士王国サザンドラ。

 騎士王アーストラスを頂点に総数二千の聖騎士団を有する人口三万人の小規模国家である。その少ない人口ながら大陸最強と名高い帝国と同等に渡り合う聖騎士団の力は凄まじく、その一人一人が冒険者ギルドで言うB級に値するまさに選ばれし騎士団である。


 そしてその聖騎士団を纏める者こそが騎士団長である聖騎士アーサー・クロムウェル。世界最強と名高い弱冠二十七歳の青年である。

 氷の大陸に眠る氷龍王と戦い勝利した事や、旧魔都を根城にする魔王種の一角を討ち倒したり、帝国の万の軍勢を単騎で打ち破るなど彼の残した伝説は数え切れない。


 そんな人類最強を配下に持つ騎士王アーストラスは魔物嫌いで有名で、この騎士王国サザンドラは魔族の存在を許さない至上人間主義国家である。


「ふーん、で、お前はそのサザンドラの出身なのな」


「えぇ、サザンドラ領の僻地、小さな村の生まれだけどね」


 フレアと神崎博之を含めたクレアをリーダーとするギルドナイト達は現在サザンドラ領南の古都サリファを抜けてサザンドラ城下町まで後少しの所にいる。今日はもう遅いからと野営する事にしたのだ。

 明日の朝から昼頃まであるけば城下町に着くだろう。後少しの距離なのだが、ギルドナイトや町人達には疲れの色が見えている。折角助かった命、魔物の凶暴化する夜に危険を犯して歩き通す必要はない。


 当然寝袋やテントなどなく、皆が固い地面に雑魚寝である。

 フレアが見張りをしてやると申し出たが為にギルドナイト達と今日の疲れを少しでも癒すべく眠りについている。


 フレアが灯した火を囲うように、三人が寄り集まっている。フレア、神崎博之、クレアの三名だ。

 魔物の襲撃に備えてクレアが寝ずの番をすると言い出し、神崎博之が付き合うといい、何故か流れでフレアまで付き合わされているのだ。


 そこでの話題はクレアの身の上話。別にフレアとしては欠片も興味はなかったのだが、その辺境の町がカンパネラに襲われて壊滅したとの事でフレアの頭に一つの考えが過ぎった。


 コイツは使える。


 フレアにとってカンパネラとは、ゲームやマンガ風に言えばラスボス。いずれ、必ず倒さねばならない宿敵だ。ならば同じようにカンパネラに恨みを抱いているクレアを味方に引き入れるのも有りなのではと考え始めたのだ。

 先ほど助けた時の動きを見る限りでは、近接戦闘においては赤星を上回るかもしれない逸材だ。


 だが、今はまだ正体を明かす時ではない。最悪百名のギルドナイトとの戦闘も……いや、その結果次第では冒険者ギルドそのものを敵に回す可能性があるからだ。仮にこの場所のみでの先頭になったとして、フレアは負ける気など微塵も無いが、神崎博之を守り切る自信も無い。

 故に正体を明かすのはもっと今の状況が落ち着いてから、サザンドラに着いてからクレアと神崎博之と三人で城塞都市国家ダムドに向かう時でいいだろう。クレア一人なら、神崎博之がいれば説得出来る可能性もあるからだ。


 フードを目深に被り、己の耳が見られぬように、口数を減らしてするどい牙を見られぬように、そのように細心の注意を払いながら会話を続けた結果、クレアはフレアを信用した。

 年の近い気心の知れた女の子同士として、剣と魔法、能力とでの違いはあるが、互いに高レベルの技の使い手として、一人の【人間】としてクレアはフレアを信用した。


 呆れたような安心したような、見た目だけでも仲良くなった二人を傍目に神崎博之は溜め息を吐いた。彼はフレアのその考えを、作戦を知っているから。


「フレア、頼むからあんまり虐めるような真似はするなよ?」


「これからのこの小娘の態度次第だな」


 クレアに気取られぬよう、小声で会話をする二人。神崎博之の問いに対し、帰って来たのはなんとも不安な言葉だった。



 ◇◇◇



「やった! やっと着いた! 助かったんだ!」


 夜も明け、一行は再び歩き始めて遂に今、騎士王国サザンドラの王宮城下町の門の前にやって来ていた。

 感嘆の声をあげるのはクレア達がずっと護衛していた町人達。ギルドナイト達も野の魔物達との連戦で疲れ切っていて、街に着くや嬉しそうに顔を綻ばせている。


 城門は城塞都市国家ダムドの門や城壁と比べれば心許ない店も多く、幾多の帝国との戦いの傷跡が生々しく刻まれている。こんなもので本当に魔物の侵攻を防ぎ、帝国の苛烈な攻撃を防げるのかと疑問にも思う。


「この街はね、防衛用に作られているわけではないの。元々騎士団は数が他国の軍と比べて数が少ないでしょ? この国の軍事力は少数精鋭での正面突破、攻撃に特化しているの」


 その疑問に答えたのはクレアだ。

 彼女曰く、この国は防衛力は殆ど持っていない。今までの戦いのほぼ全てが迎撃戦による勝利なのだと。


「つまり、裏を返せば絶対的な力を相手にした場合、なす術もなく滅ぼされるって事だな」


「いいえ、そうはならないの。そうはならない理由があるのよ」


 クレアは語る。この国には他にはない絶対的な武力がある。その存在こそが人類最強の聖騎士アーサー・クロムウェル。彼がいるだけで他国は、帝国は彼を無視する事は出来ない。人智を超えたその力の前にはどんな策も通用せず、彼を無視してこの国の中枢を攻撃など出来はしない。


「そんなに強いのか? その聖騎士ってのは」


「強いなんてもんじゃないわ。現時点で世界に唯一、勇者と並んで魔王を倒し得る至高の存在よ」


「魔王を……ねぇ」


 現在、この世界にはフレアを含めて数人の魔王を名乗る者達がいる。それは昔に世の全ての魔の者を束ねていた大魔王がその時代の人間の勇者に討ち取られたから。よって今、この世の魔物情勢は群雄割拠の時代を迎えている。

 ジンギがフレアを召喚したのもこの時代を生き抜く為、この時代を治めてくれる治世者を求めたが故だ。


 そうして彼らは街の中へと入っていく。検問はクレアがいたので顔パスで通過出来たのは大きかったと、後にフレアは語る、


「んだこりゃ」


 街の中で見たもの、それは城塞都市国家ダムドのように想像していたファンタジー感あるものではなく、謂わば街そのものが大きな一つの教会かのような宗教感の強い純白の街。石造りの壁に石膏を塗り込み、さらにその上から白く塗装したこの街並みは夏の時期は目がやられそうだと、それが真っ先に出た感想だ。

 街の並びは単純で、門から王宮まで幅三十メートルはある広い大通りを真っ直ぐに、その脇にフレアが見ただけで目が痛くなりそうな白い建物が所狭しと並んでいる。


 が、これで納得もいった。

 この世界にも宗教はいくつもあるが、大きく分けて二種類に分けられる。

 魔物を悪として忌み嫌うものか、ある種の力有る魔物を神として崇めるものの二種類だ。きっとこの国では、国を挙げて宗教に取り組んでいるのだろう。故に魔物は悪、よってその存在は許されない、と。


 そうなればこんな街で、万が一フレアの正体が露見してしまえばどうなるのか。最悪屈強な聖騎士団に囲まれて殺される可能性も有り得る。

 ならばこんな街にいつまでもいられるかと、彼女は神崎博之の袖を引く。神崎博之もフレアのそれには賛成だ。この街は危険過ぎる。早く街から脱出しなければ。いや、先に自分達だけでも街から出よう。


「フレア、貴女をアーサー様に私達を助けてくれた英雄だって紹介したいの……ってちょ、何処に行くのよ!」


 そそくさとその場から逃げ出そうとするフレアと神崎博之手を掴むのはクレア。彼女にしてみれば自分達の恩人をこの国の英雄に紹介する。なにもおかしな事ではなく、人によっては聖騎士アーサーに会えるのだから光栄だとも思うだろう。

 だが、魔族でしかも魔王を自称するフレアにとっては今後立ちはだかるであろう敵でしかなく、いくら強くなろうとも自身が最強だとは自惚れていない身としては決して会いたくもない相手である。


 なのにこの小娘は何故に私を引き留める。コイツは私を殺す気なのかと恨みがましい目で見つめるも、とうぜんその意図は伝わらず、逆に伝われば騒ぎにしかならない。


「私は別にアーサーなんぞとやらに興味は欠片もない。だから離せ。私はお前に話があったからお前を助けたんだ。アーサーなんぞに話はない……から離せ小娘が!」


「アーサーなんぞって何よ! アーサー様は偉大なお方なんだから! てか誰が小娘よ誰が! アンタの方がチビじゃないのよ!」


「チビ……だと? 人が気にしている事をよくも抜け抜けと……燃やすぞ小娘が!」


「やれるもんななりなさいよ! 逆にお灸据えてあげるわよ!」


 今にも掴みかかりそうな剣幕で啀み合う両者。此処での騒ぎはまずい。下手に騒いで聖騎士団、もといアーサーが駆け付けては洒落にならない。故に神崎博之は二人を宥めようとするも_____


「神崎博之、私の方が可愛いしスタイルもいいよな?」


「ヒロユキ、アンタなら私の美しさの価値に気付いているでしょう? この女にズバッと言ってやって」


(もうやだ今すぐ帰りたい)


 天下の往来でこの馬鹿共は何をしているのか。ただでさえ百人以上の団体で、黄金騎士クレアがいるためにかなり目立っていると言うのに……。

 野次馬はかなりの数だ。フレアの顔はフードを深く被っている為に見えはしないが、それでも口元は肌からかなりの美人だとわかるのだろう。既に人集りは清純系なクレア派とミステリアスな風貌のフレア派に分かれている。


 が、この時にすでにフレアは気付くべきだった。魔物として他者の気配に敏感な彼女なら気付けたはずだったのだ。すぐ側に迫っている圧倒的な強者の気配に。


 本来のフレアと似た年代の少女と言い争うが楽しいのもまだわかる。それでもフレアは油断し過ぎであった。……いや、油断はしていなかったのかも知れない。その強者があまりにも強過ぎて、目の前の壁紙大き過ぎてその全体を知れないのと同じように、今のフレアのレベルでは感じる事さえ許されなかったのかも知れない。


「こんのアーサー様の偉大さもわからない鈍感女!」


 クレアはフレアを突き飛ばすかのような形ですその肩を押した。ほんの軽くだ。クレアとてこのやり取りを心の何処かで楽しんでいる。己を【黄金騎士様】と呼ばない、力の種類こそ違うものの、己と同等以上の力を持つその存在が嬉しいから。

 まだ出会って二日目だが、その気さくな性格から彼女の中ではもうフレアは友達と呼べる存在に近い所にいるから。

 それはフレアにとっても似たようなものだったのであろう。こんなじゃれ合いは泡影では絶対に相手になってくれないから。


 そして押された事により少しだけバランスを崩して足をよろめかせるフレア。


 そんな彼女を一人の背の高い男が抱き留めた。


「クレア、こんな道のど真ん中で何をやっているんだ?」


 それはフレアと似たようなフードを被っている。

 それはごく一般の者達と変わらない出で立ちをしている。

 それは服の上からでもその肉体がとても鍛えられていると言うことがわかる。

 それは、他の者では真似出来ないであろう強者の風格をその身に纏っている。

 それは、それは__________


「あ……アーサー様!?」


「やあクレア、半年振り……かな? 元気にしていたか?」


 それはサザンドラ国聖騎士団長の、人類最後の希望、人類最強、奇跡の男、剣聖、星の生んだ英雄、等様々な異名を持ち、幾つもの戦いで勝利し、過去には何体もの魔王をも打ち倒した男。


 聖騎士アーサー・クロムウェル。

 その者であった。

アーサーって名前、使いやすいですよね。

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