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緋色の魔王の建国物語  作者: 御子柴
序章
3/46

第三話 覇道の為に

これにて序章は終了です。

 フレアがこの世界にやって来てから三日が経った。あれからまずフレアは自身が召喚されたこの場所を己の生誕地とし、此処を拠点に活動をしていた。しかし、活動と言ってもまだ人間の街や他の魔族との接触は出来ない。


 まだ己の力に自信がないのだ。

 確かにこの三日で大分己の能力を磨く事は出来たが、それでも出来る事はかなり限られてくる。

 フレアの能力は【炎熱操作】。文字通り炎と熱を操る能力だ。

 現在この能力で出来る事は木を一本丸々焼き尽くす事と、料理が冷めないように保温する事だけである。

 使い方には慣れたが、これで魔王だの爆炎の巫女姫だのと名乗るのは少しばかり恥ずかしい。せめてもう少しやれる事を増やしたいところだ。


 そんな彼女は今、相棒を抱いて自分用に作らせたハンモックにて揺らされている。二メートル程の感覚で立っている木を見つけ、私専用の寛ぎスペースが欲しいと駄々をこねたのだ。

 そうして揺れに揺られているわけだが、これがまた中々に心地良い。まるで波に揺らされているかのような感覚にミケのモフモフの保温感。目蓋が見えない力にて強制的に降ろされそうになる。


「フレア様! 取ってきたっス! 今日はリンゴの他に鳥も取れたっス!」


「ん……ご苦労……」


 余程眠かったのであろう、自慢のクリッとした大きめの目は目蓋に侵食されて半分程閉じられている。しかしあまりに寝てばかりいると太る。それだけは嫌なので状態を起こしてハンモックの端を持ち、反動を利用して器用に飛び降りる。

 念の為にと知性の無い魔物の襲撃を避ける為、高さ三メートルの位置に作られたハンモックからことも無げに飛び降りる辺りフレアの身体能力は中々のものと言える。

 これも肉体が人間のものとは異なり、魔族としての肉体だからこそなのだろうと彼女は解釈している。ちなみにやろうと思えばリンゴを握り潰すのはわけないくらいには強化されている。


「ん……ん?ジンギはまだ戻ってないのか?」


 頭の上にミケを乗せ、目を擦りながら辺りを見渡してジンギがいない事に気が付いた。別に老齢の鬼に用事はないのだがこの三日、ジンギとジン太は基本行動を共にしていたのでふと気になったのだ。


「お師匠っスか!? お師匠は森の中で中型の死喰鳥しくいどり見付けたーって走ってきましたっス!」


「ふーん……中型ねぇ」


 ジン太の力で伐採した丸太に人喰い草の分厚い葉を敷いて作られた彼女専用の椅子に腰を掛け、同じく何処からか運んでジン太が運んで来た切り株のテーブルに寄り掛かりながら考える。


(中型ねぇ……しかも死喰鳥ってネーミングからしてやばそうだし、ジンギ弱そうだし逆に捕獲されてなきゃいいけどな)


 ジンギは仮にも己の従僕である。それでいてこの世界に召喚してきた張本人であるが故、恨みはあれど感謝はない。が、それでも従僕を、手下を、部下を護るのは王たる私の役目だろうと重い腰をあげる。


 別に相手が小型だろうが中型だろうが鳥は鳥、所詮は獣である。ならば炎を見操る私の敵ではない。そう思っているのだろう。

 事実この三日で既に四回は獣型の魔物に襲われているが、その全てをフレアの炎で撃退している。


「てなわけでジンギを迎えに行ってくる。ミケを頼んだぞ」


 相手が知能を持たぬ獣程度ならもう何も問題は無いと、ジン太にミケを見るように言い聞かせてから森に入る。まだ拠点からは一歩も出た事はないが、そこは魔族になった事で強化された感覚器に頼れば迷う事はないだろう。


 それに自分の不在時に魔物が拠点を襲ったとしてもジン太がいる。

 しかし、ジン太が強いのは意外だった。あれば異世界生活初日の夜、虫型の魔物が数匹拠点に現れたのだが、それをジン太が一人で全て倒したのだ。

 太っているのに素早い動きで相手を翻弄し、持ち前の怪力で叩き潰す。

 腐っても鬼という事なのだろう。


 そうしてジン太からの見送りを受け、フレアは森の奥にまで足を踏み入れようとしていた。

 まだ歩き始めて五分も経っていない。此処からならまだ余裕で迷わずに帰れる。木々の隙間から覗く太陽はやはり憎らしげに此方を照らしている______なのに、


「……これは流石に…………おかしいよな」


 辺りはまるで夜かと言わんばかりの暗さ。上を向けば太陽が出ているのが見えるのに、木々の葉が枝が重なり太陽が隠れているというわけでもない。なのに暗い。森の中とはいえこの暗さは異常だ。


 魔族となり危機察知能力が跳ね上がった彼女の脳が警鐘をならす。早くその場から逃げろ、と。

 しかし、いくら危機察知能力が高くなろうと、フレアは危機そのものを知らない。経験がない。嫌な予感はするが、それが己の身の危険と結びつかないのだ。


 だからだろうか、


「んなっ!?」


【敵】の接近に気が付かなかった……否、気が付いていたのに警戒していたのに接近を許してまったのは。


 突如樹状より一人の男が降って来た。いや、降って来たと言うよりは飛び降りてきた。その手には銀に光るもの五十センチ程の片刄のナイフ。ナイフと言うよりは刀、脇差しや小太刀と似た形状のそれ。それを手にした男が頭上より彼女に迫る。


 あまりに咄嗟の事ではあるものの、何とか身を捻りその一撃を回避、でこぼことした地面を転がるようにしてなんとか二メートル程の距離を取り立ち上がる。

 舗装した地面でもマットの上でもない、石や木の根が体に食い込んだ事により過去に経験した事のない痛みがフレアを襲っている。もし身体能力が人間の頃のままだったならこの不安定な足場だ、足を取られてみっともなく転倒したり足を捻っていた可能性もある。


(……ッ、こればっかりはこの体に感謝だな。と、それよりも……なんだアイツ)


 そもそもこの世界に呼ばれなければこのような危険に遭遇する事もないのだが、今はそれよりも無事であった自分自身を褒め、冷静に努めるべく呼吸を整え己の体に目を落とす。


 スカートが切り裂かれている。ちょうど体の右側、裾が二十センチ程裂かれている。綺麗な切り口だ。痛みは無い事から切られたのはスカートだけだろう。

 次に相対している此方を襲って来た男。中腰の体勢で逆手にその短刀を構え此方の様子を伺っている。

 まるで忍者を彷彿させる真っ黒な装束に顔も頭も頭巾により隠れている中で、ただ殺気の籠るその視線だけがフレアに向けられている。


 怖い。

 それがフレアの今の心境である。この三日、知性のない獣達を相手にして来たものの、知性ある相手に殺意を向けられた事など前の世界にいた時から数えてもあるはずがなく、今彼女は未知の恐怖により体を強張らせている。


(ジン太は……いるはずがない。今はミケを任せているんだ。ジンギもきっと捕まっているかこいつにやられたかだろう。ふむ、どうすべきか……)


 しかし、そんな中でもフレアは冷静だった。否、冷静であるはずがない。冷静に努めようと自分自身を騙しているのだ。

 これは何でもない相手だ。私は仮にも魔王、この程度の相手に遅れをとるわけがないと。


(私の力はジン太よりも弱い。知識はジンギよりも下だ。使えるのは少しばかり高くなった身体能力と練習中の炎熱操作のみか)


 ジリジリと下がり男から距離を取る。いや、男かどうかもわからないのだが、こういう敵は男が相場だと決まっているのだが、相手の身長はフレアより少し高い程度、元から背の低いフレアからしてみれば本当に男なのかと疑わしい程の低身長なのだ。

 しかし、まだこの世界の人間や他の魔族と遭遇していないので基準がわからない。


 と、そんな事を考えている間に気が付けば相手はフレアの眼前にて短刀を振りかぶっている。……が、見える。しっかりと。

 相手が特別な速いわけでもないのか、それともフレアの眼がいいのかはまだ不明だが、それは思ったよりもスローに感じられた。


 そうなれば勿論躱す。自分でも驚くくらいに体が軽く、思った通りに体が動く。気持ちがいい。

 次々と己の体への迫る、当たれば怪我では済まないであろう刃での攻撃の全てを危なげなく躱していく。気持ち的に余裕まで出てきた。


(ふむ、そうか、仮にも魔王として呼ばれたのだから魔王としての力がわたしに備わっていると考えるべきか)


 そこまで考え付くともう恐怖はない。次に生まれた感情は恐怖ではなく怒り。明らかな格下であろう相手に対し、なんでこの程度の相手に怖がったのか、自分自身に対する怒りまで湧き上がる。


「クッッソッ!」


 攻撃が当たらぬ事に焦りが生まれ、冷静に攻撃を加えてきていた相手からも声が漏れる。キーの高い、人間であれば女性特有とも言える音域の声。そこで漸く相手が男ではないのだとフレアは確信する。


「で、お前。話をする気はないか?」


「___ッッ!?」


 ビタッと動きを止める黒装束の暗殺者。その眼前に、まさしく己の目よりもほんの数センチ先にピタリとフレアの人差し指。指先には小さな火が灯っている。

 今まで大火力の炎しか操れなかったのだが、仮にも命の危機に瀕したことで能力がレベルアップし、ある程度のコントロールを覚えたというところだろう。


「私は別にお前と争うつもりもないし、寝覚めが悪くなるだろうから殺す気もない。まあお前が望むなら火傷くらいはさせるけどな」



 ◇◇◇



「んで、里を守る為に私を狙ったと?」


「……はい」


 フレアにとってこの世界で初めての戦闘は終わった。勝者は紛れもなくフレアだ。

 そして今、彼女は目の前にて涙目でその場に座り込んでいる少女を見下ろしている。その少女の名は【泡影ほうえい】。フレアを狙った暗殺者だ。漆黒の頭巾を取り、中から出てきたのは真っ白な髪と肌、青い目を持つまだ幼さの残る少女の素顔。

 それを見て怪我をさせなくてよかったとホッとしたのは言うまでもない。


「私は【影人かげびと】と言う一族の者でして、代々この森の奥に住み、この森の神様にお仕えしておりました。しかし一年程前、森の神様がふと姿を消してしまったのです。我ら一族は神様を探しましたが、ついぞ神様を見つける事は叶いませんでした。それからです。我ら影人の住む里を他の魔物が襲い始めたのは。一年前までは百を超える数の影人達が住んでいた里も今では十四人にまで減りました。残ったのは年老いて力を失った者や戦闘や狩りの役には立たぬ子供ばかり、今里で戦闘を行えるのは私一人という現状で___」


「長い。三文字で述べろ」


「へるぷ、です」


「よしわかった」


 何がわかったのだろう。全く理解が及ばぬが、元は人間だが魔族と化して力を手に入れた。それも自分で思っていたよりも強力な力のようだ。ならば思いやりの国である日本、その日本人代表として助けられるのならば助けよう。

 それに王となるのならば臣下が必要だ。目の前の少女が有能かはわからないが、それでも手に入れられるものは手に入れよう。


 そうしてフレアは目の前の少女を連れ一時拠点へと戻りジン太に事の次第を説明する。

 王として、この地に住む者は皆私の民。ならば助けを求められたなら助けるのが道理。


「っス! 了解っス!」


「ンナァーォ」


「よし行くぞ」


 一匹の鬼と一匹の猫、一体の影人を連れてフレアは森の奥地へと出発する。神が住まうと神聖視されていた森の奥へと。


「お待ちくだされフレアさま! ワシも! ワシも行きますじゃ!」


 そこに全身ボロボロで死喰鳥を背負うジンギも合流。


「ジンギか、なんだ生きてたのか」


「ワシも鬼の端くれ、簡単には死にますまいて」


「まあいい、では行くぞ」


 そうして相棒ミケを腕に抱き、今度こそ森の奥地へと歩を進める。


 これが彼女の覇道への第一歩。長い戦いの始まりになるという事を彼女は当然知る由もなかった。

いやー、うん、これから面白くなるんで、これから面白くするよう努力するんでお付き合いお願いしますm(_ _)m

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