子供っぽい愚痴だってことは分かってる。
名前はあんまり好きじゃないから割愛。こんな名前にした親を恨む。
24歳。
A型。
趣味、カラオケとか買い物。
自己紹介するとしたら大体こんな感じ。
当たり障りないでしょ?でも大抵はこれで十分なんだな。変に頑張って悪目立ちしたくないし。
友達は、多くはないけど少なくもないと思う。そう、普通。人並み。
私自身も普通、だと思う。そう、普通。
けど正直言うと、街を歩いていてすれ違うそこらへんの人たちよりは可愛いと思うし、美人だと思う。
めちゃくちゃスタイルがいいかって言われると、そこまでじゃないけど、でもデブって訳じゃないし、普通にイイ線いってると思う。
だからここまでの話をまとめると、私という人間は、普通ではあるけど、そこらへんの人よりはちょっと上ってコト。
でもそれは、実はこっそりダイエット頑張ってたりとか、自分に合うメイクを研究してたりとか、男女ともに敵を作らないファッションや流行に気を遣っているからだと思う。
私は胡坐をかいてる訳じゃない。見えないところでちゃんと努力をしているのだ。
だから、努力しないで何かを手に入れる人間は大嫌い。
同性は特に。
もちろん、そんな事、誰にも言わないけど。好感度下がっちゃうからね。
「あいちゃーん」
待ち合わせ場所に、甘ったるくキンキンした声が響く。あいちゃんって呼ぶな。しかも煩い。周りの人が見てるだろうが。お前の声はアニメ声で無駄に響くんだよ。
「ごめんねぇ、待った?」
「ううん。」
「じゃ、行こっかぁ」
そう言って手を取って歩き出す。ちょっとやめてよ。女同士で手を繋ぐとかどんなに可愛くても許されるのは高校生までなんだけど。でも自分からは手を振り払えない。だって感じ悪いじゃん。
この子は、友達?多分、カテゴリー的には友達。自分としてはかなり浅い付き合いの。
名前は美咲子。親が「美しく咲く花のように、綺麗な女の子になって欲しいから」と名付けたそうだ。美しく、咲く、ねぇ(笑)
彼女は高校を卒業してから太り始め、今はお世辞でも可愛いとは言えない。てゆうか隣を歩かれるのが若干恥ずかしいレベル。
顔の造形はそんなに悪くなかったのに、太ったせいで台無しだ。メイクも上手とは言えない。せめて眉毛くらい整えろよ。
中学の頃からの同級生だったけど、正直そんなに仲良くしているつもりはなかった。
ただ、好きなバンドが同じだったのでその繋がりで知り合いになり、今日までなんだかんだ付き合っている。私としては嫌々ね。むこうが誘ってくるから渋々付き合ってる感じ。
趣味の友達が居ないから、仕方なくよ。
けど、こいつは私の一番嫌いなタイプだ。
そう。努力しなくても周りが助けてくれて、なんだかんだ甘やかされてきた人間。
「あいちゃんは最近どお?彼氏さんとは上手くいってる?」
「あー、まあまあかな。そっちは?」
「それがね!聞いてよぉー!ゆうくんがねぇ―…」
まずは恋愛方面における彼女のイラッとするところ。
ゆうくん。こいつの彼氏。
これが中々イケメンなのだ。こんなに手入れされてる私じゃなくて、なんでこのデブと?と何度思ったか分からない。それくらい普通にしてたらカッコイイ。正直、私の彼氏よりも。
こんな、見た目は着ている服の値段分しか価値の無い女のことを「好きだ」と言ってくれるらしい。さらにデートの度に「ミサはそのままで十分可愛いよ」「ミサが笑ってると俺も幸せ」等とのたまうらしい。頭がおかしいか金目当てなんじゃないだろうか。でもその割にはプレゼントも色々くれるみたいだし、デートは全額彼氏持ちらしい。
そんな彼とさっさと結婚するのかと思いきや、美咲子の親がかなりの子離れできてないバカ親で、美咲子が29歳になるまでは家から出さない!と結婚を許可しないらしい。29歳っていうのは自分たちが結婚した歳なのだとか。
これが2つ目のイラッとするところ。
親。
遅くに出来た一人娘ということもあってか、彼女の両親は彼女が可愛くて可愛くて仕方ないらしく、溺愛していると言っても過言ではない。
実を言うと、彼女は不登校気味だった。親に大事にされ過ぎた温室育ちで内気な彼女は、集団の中では自分の意見をはっきり言うことが出来ず、いつもオドオドしていた。そのせいか彼女は同性からの反感を買うようで、しょっちゅういじめられていた。
彼女が耐えられなくなって親に泣きつく度、両親が学校に行き、彼女の居たクラスではクラス会が開かれた。正直、誰が見てもいじめられていた美咲子側に問題があるように思えるのに、そこに親が出ていくって相当うざい。
てなわけで、いじめっ子たちも本心から反省するはずもなく、彼女が高校を卒業するまで似たようなことが度々あった。だから彼女は大学には行っていない。おうちで大事にされて花嫁修業まがいのことをやっていたようである。
どんだけ甘やかされてんだか。うちなんて、学生の頃はバイトしないと遊ぶ金も手に入らなかったし、体育会系の一家だったから、ちょっと落ち込むことがあっても「悩む暇があるなら家の手伝いして体動かしなさい!」と一蹴されて終わりなのに。
「…―でね、ゆうくん仕事が入っちゃって、今度のデートダメになっちゃったんだよぉ?ひどいよね?わたしすっごく楽しみにしてたのにぃ~」
「あー、まあ、仕方ないんじゃない?仕事だもん。」
「そうだけど、わたしだってそのために予定空けて楽しみにしてたのにぃー」
「でも美咲子仕事してないじゃん」
「最近バイト始めたんだよー!すごいでしょ!まだ働き始めて1週間だけどね~」
「へー。今度は続きそう?」
「んー、なんか人間関係がちょっと大変そうなんだよね。しんどくなったらいつでも辞めなよって、お母さんやゆうくんには言われてる。みんな優しいよねぇ、ありがたい。」
「へー…よかったねー羨ましいわー」
「あっ!でもあいちゃんも仕事とかでしんどいことあったら言ってね!!わたしいつでも聞くよ!」
「あー、ありがと。」
これこれ!3つ目。こういうところ!
ちゃんと正社員やったことねー、しかもバイトやパートをフラフラしてて、同じところに1年以上務めたことないヤツに言われても嬉しくねーし、そもそも相談なんてしないっつーの!
ほんと、バカじゃないの?
こいつと話してると、時々どうしようもなくイライラさせられる。私が悪いのか?いや、悪いのはこいつだ。意外と無神経で、自分なりに人の気持ちを考えてるつもりなのかもしれないけどポイントがズレまくってるこいつがおかしいんだ。
そろそろ縁切った方がいいのかな。
好きだったバンドも解散しちゃって、今はこいつと遊ぶって言っても、そのバンド縛りのカラオケするか一緒に買い物するだけだもんな。
そんなことを考えながら休日にこいつと遊ぶ。私は何が楽しくてこいつと付き合っているんだろう。完全に惰性な気がする。もっと有意義な時間の使い方があるだろ自分。
「今更、価値観の相違とかを理由にお別れ出来ないからじゃね?恋人じゃなくて、友達だからね」と、頭のどこかから返答が返ってきた気がした。なにそれ。どゆこと。
家に帰って美咲子のTwitterを見ると「あいちゃんとおデート(⋈◍>◡<◍)。✧♡めっちゃたのしかったぁ」とこれまたイラつく顔文字付きで今日の写真が投稿されていた。あーあ、いくら画像加工アプリ使ったって顎の肉は隠し切れないよー。
てゆうかデブがこんな女子っぽい顔文字使ってて引かれないかな、とかちょっとは気にしろよな。はー、なんかもー、全てがムカつくわ。
私の方が、仕事だって真面目に頑張ってるし、身なりにだって気を遣ってるし、人間関係も円滑にいくように努力してるのに。
なんで、あいつが。
どうしてあいつばっかり甘やかされんのよ。周りもあいつのこと甘やかすのよ。
あー、あー、あー、あー!
世の中間違ってんじゃないの!
腹を立てたまま、ヤツからの「今日は楽しかったね(>ω<)」というテンション高めのメッセージに適当なスタンプだけ返して私の休日は終わった。