EXTRA第六話 クラウンはピエロとして参加者側に混ぜ入れられた
そうして彼女、お嬢様はある日、舞台を整えた上で、社長室に呼び出したクラウンに尋ねてみた。
「へぃ、何でしょうか、お嬢様。また禄でもないこと考えたりしてあせんよねぇ。あぁ、何かそんな感じ致しあすねぇ。何か改まった呼び出しだったんで大丈夫かと思ったんですがぁねぇ。やっぱりあんたは、クソお嬢様だ」
彼女は思う。当たっている、大方。だから、やはりこの者の能力は極めて高い。だがこの者はそれをそうだと思ってはいない。もっと使える奴にしてやりたい、と。
だからお嬢様はいつもならぷんぷんするそのような言われようをスルーし、彼を呼び出した目的を伝える。
「第二十四回『24時間耐久アルバイト』。ほら、不定期にやってるいつものやつね。それの参加者のリストがこの中に入っているわ。ほら、見てみなさいな」
そう言って彼女は、クラウンに一台の起動済みであり、何やら文字と写真と個人に関する情報の書かれた小型のノートPCを手渡す。
「へぇ、随分な数集めあしたねぇ。万越えとはねぇ。で、これをあっしに見せて何をさせたいんですかぃねぇ?」
男は受け取ったPCの表示画面をスクロールさせたりして目を通しながら彼女にそう面倒くさそうに尋ねる。
「今回はねぇ、ウチ単独でやるの。他の会社の仕事の請負いじゃなくて」
彼女はそうやって、無い胸を張りながら言う。
「へぃ、そうですかい。初めてのパターンですねぃ」
相変わらずクラウンはそれに対して冷めている。
「目的、何だと思う? クラウン。貴方の考え、聞かせてみなさいな」
「ほぅ、そうですねぃ、俺はこれは、お嬢様のタチの悪いお遊びの類ではないかと思いあすが。何か、もやもやがあって、解消する為に行うってとこですかぃねぇ。ああ、それとですがぁ、このリストの中にヤバァい奴や、嘘塗れの情報書いてる感じの奴はぁ、いやせんねぇ。よくこんな奴らぁ、集められあしたねぇ」
彼女はそれを聞いて、ニヤリと笑う。やはり、この者は他に変え難い能力を持っている、と。だから何としても、この企画は成功させなくては、と。今回で駄目なら、次回で。それでも駄目なら次々回で。それでも駄目なら次々々回で。
このとき彼女は、自身の手掛けたそのビジネスが粉々に砕け散ろうとも、彼をより優れた存在にできる可能性を試せるなら構いはしない、と心に決めたのだった。
「その中から、貴方が自分の仕事のパートナーにしたいと思える者を、挙げれるだけ挙げなさいな。パートナーに値する者がいないというなら、貴方の部下にしたいかなぁ、程度の奴でも構わないわ」
彼女がそう言うと、
「……」
男は口を紡いで、PCの画面を真剣な面持ちで凝視する。
それは数秒で終わらず、数十秒でも終わらず、数分でも終わらず、数十分経ったところで、お嬢様は待ちきれなくなり、
「未だ、なのぉおおお! クラァウゥンンン!」
いつものようにぎゃあぎゃあ喚いた。
「……」
それでもクラウンは反応を示さない。普段の彼であればそれはあり得ないことである。彼は、人との関わりに特化した人材である。心を絶対に掴まないといけない相手がいた場合、任せるのは常に彼。そんな人材であった。
だから、彼がこれまでに見せたことのない、明らかな無視、いや、それどころか、眼中に無いというかのような反応をするなんてことは、想像すらしていなかったのだ。
だから彼女は察した。これは、このまま放置して待っておいた方がいいな、と。
数時間後。
うとうとしていたお嬢様は、クラウンにゆすり起こされる。
「むにゃむにゃ、なぁに、クラウン。決まったの、かしらぁ、ふぅ、ふぁぅあぁぁぁぁ。なら、聞かせなさいな」
欠伸をして眠気を吐き捨てた彼女は、まだ半分霞んだ目でクラウンに尋ねる。すると、
「ふふ、はは、はははははははははははは! お嬢様、あんたに、俺はぁ、初めて、心の奥底からぁ、感謝することになるかぁも知れませんよぉおお!」
気持ち悪いくらいに高いテンションで、普段絶対に見せないような高笑いをして、何か妙に存在そのものが光輝いているかのようで、普段の気怠さ、独特なへりくだりの態度、道化っぽさはなりをひそめ、その顔は心の奥底から笑っていて、希望に満ち溢れているかのようだった。
「貴方の目に叶ったパートナー候補、見せて頂戴!」
そうしてクラウンは、PCを操作し、スクロールし、ある画面を表示させた。
「俺にゃぁ、この人しかいませんねぇ。間違いなく」
【登録No.SY3546S】
顔写真などはない。登録番号が付いている以外は、男が登録した際の入力フォームそのままの画面でしかないのだから。
そんな僅かな情報からも、選別眼を、いや、もうそんな域を越えた決して外すことのない神掛かった勘を発揮するのが、このクラウンである。
あっし、とではなく、俺、と言って、その上で、明らかに言葉としての断定を入れてきた。それほどに、自身の選択に自信を余り持っていない筈の彼が、そんな表現を使ったのだ。
ならば、彼女にできることは、それを信じ切って、ニヤリと頷くだけだ。男性を選んだ、という地点で、クラウンが自身を持つには寄り添う者でも支える者でもない、対等なパートナーが必要であるという自身の目論見が当たっているということを彼女は確信したのだ。今回も彼女は自身の思い通りの結果が齎せられると確信する。
実際はそれに加え、想定外の羞恥が加わるのだが、彼女はそのことに気付けやしない。
「ふぅん。あっそ。じゃ、貴方、第二十四回『24時間アルバイト』に挑戦者側として参加しなさいな。それで、その男性に接触しなさい」
「えぇ、構いあせんが。それだけですかい? 本当に?」
クラウンは訝しむ。そしてそれは当たっている。だから彼女は煙に巻く為に、嘘をつかずに彼を丸め込む。
「貴方の予想通り、これは私の余興。今回は、いつもとは違って、24時間アルバイトは、チラシの内容と全然違うの。やるのはサバイバルゲームみたいなもの。知と暴入り乱れるお金の取り合いよ。だって集まったそいつらさぁ、金に生き汚い奴らよ、きっと。なら、お金で煽ってやれば、きっと素敵な感じの映像を光景を、私に見せてくれる筈よね」
「相変わらずのクソお嬢様っ振りですね。はぁ……、まったく……」
面倒そうに溜め息を吐くクラウンから、疑念の色は見られなかった。そうやってクラウンをやり過ごしたお嬢様は、
「だから、貴方がやることは二つ。一つ。貴方はSY3546Sと合流し、徒党を組むこと。二つ。貴方はSY3546Sと共に、他の挑戦者をいい感じに玩びながら、脱落せずに最後まで、私の伏せる本当の達成条件を果たして、この第二十四回『24時間アルバイト』の達成者となること。はい。それとこれ」
クラウンに指令を出し、一枚の紙片を手渡す。
「はぁ……。そこまでやりあすかい……。仮の家に仮の身分。このバイトの挑戦者としての架空の設定集。まぁ、構いあせんが、あっしの顔、知ってる奴ら、何人運営側として今回参加するんですかぃ?」
「貴方以外だと、鉄壁一人だけよ。心配しなくとももう言い含めてあるから。あとこれ。支給品ね」
ずっしりしたリュックサックを何処からか出し、彼女はクラウンに手渡した。
「成程。奴なら大丈夫ですかぃねぇ。……、いや、待ってつかぁさい。もしかして、もしかしなくとも、あっし、鉄壁さんとやりあわんといけねぇかも知んねぇんですかぁい……? 流石にそれは無茶ですよぉ。あっしなんかがあの人に勝てる訳がねぇ。嫌っすよぉ? 数ヶ月単位の入院生活とか……」
それを背負いながらクラウンは疑問を抱き、不安になってしまう。
「はぁ……、貴方ねぇ……。前にも言ったでしょう。貴方がそれなりにやる気を出して対峙したなら、鉄壁くらいなんとかなる相手だって。そんなに自身のことが貴方は信じられないの?」
だから彼女は、そう発破をかけた。
「……。すいあせん。それだけは、どうしようも……ありあせん……」
この、顕著なクラウンの欠点。これさえ無ければ彼に任せらる仕事の幅は今以上に広がるであろうと彼女は考えている。
それもあってのこれだけの大手間なのだ。
「ったく。最後に湿め臭くなってしまいましたわね。ほら、行きなさいな。もういいから。この瞬間から貴方は、クラウンではなく、唯のピエロ。それでいいですね?」
「へぃ。ですが、当日、あっしのこと見て、クラウンなんて呼び名つけちゃう奴いたらどうしあすかい?」
「いないいない。そんなのいないわ。宮廷道化師の意味のクラウンなんて言い方より、現代人なら貴方を見たら、バカで間抜けなサーカスのピエロ役、ピエロを思い浮かべるでしょうよ。クラウンなんて用法知っている奴がそもそも、こんな下層の人材ばかり集めた企画でいる訳ないでしょう?」
「まあそれもそうですねぇ。それと最後に一ついいですかぃ?」
「何かしら?」
「俺ぇ、このSY3546Sについて、当日まで使える全てを使って詳細に調査したいんですがぁ、構いあせんかぁ?直接接触なんてしぁせんから」
「いいわよ。好きにしなさいな。そんな聞き方するってことは、ウチの人間使って徹底的に調査したいってことよねぇ?」
「へぃ、よくお分かりでぇ」
「貴方に渡した支給品の中にスマートフォンが入っているわ。その中に二つ、アドレスを入れてあるわ。一つは貴方自身用のもの。もう一つが、貴方がウチの力を使う際に使うものよ。じゃあ、また当日、会えればいいわねぇ、ピエロ」
「へぃ。はぁ……。じゃあ、あっしはこれで」
ギィィィ、バタン。




