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今日は私の誕生日

_____________











 小さなベッドで目を覚ましたルーシーは、ぱちぱちと瞬きをして、窓に顔を向けました。

 真っ暗だった空は、ルーシーの目と同じ、きれいな青でいっぱいになっています。


「朝になったのなら、今日は私の誕生日だわ!」


 今日のルーシーは、世界で一番幸せな女の子なのでした。

 誕生日にはたくさんのお祝いの言葉にプレゼント、それに御馳走が待っているのです。

 幸せにならないわけがありません。


 ベッドから降りたルーシーは、いそいそとパジャマから着替えます。


「今日は全部完璧にしなくちゃいけないの。

 スカートも、三つ編みも、靴下も」


 今日はなんといってもルーシーの誕生日。それにふさわしい格好にならなければいけません。

 誕生日にほつれた服を着る女の子なんて!

 ぶるると身震いして、ルーシーは着替えを終わらせました。


 アイロンをかけたチェックのスカート。しわひとつありません。

 昨日の夜からたくさん梳かしておいたブロンドの髪。カールもばっちりです。

 今日のために取っておいた新しい靴下。ミルクみたいに真っ白です。


 準備はここまで。これでお母さんに髪を結んでもらえば、かわいいルーシーの出来上がりです。


「あら。私ったら、大切なものを忘れていたわ」


 かわいらしいレースのハンカチを思い出して、ルーシーは引き出しを開けました。


 去年の誕生日にお母さんがくれたこのハンカチは、ルーシーの宝物のひとつです。

 だれかの誕生日やクリスマス、お祝いごとの日には、必ずこのハンカチを使っていました。

 お父さんがくれた誕生日プレゼントも、それはもう素敵なのですが、全身を映す大きな鏡なんて、ルーシーには持ち歩けません。

 それに、ルーシーの鏡なのに、ルーシーじゃないだれかを映すなんて、それはもう反則なのです。


 今度こそ身支度を済ませて部屋から出ます。

 お母さんはキッチンで朝食を作っていました。


 コトコトと音を立てる鍋には、ルーシーの大好きなブイヨンスープがたくさん詰まっています。

 おいしそうな匂いに、ルーシーはつま先立ちになってしまいます。


「おはよう、ママ。

 今日はなんの日か知っていて?」


 もったいぶって尋ねると、お母さんはにっこり笑ってルーシーの頬にキスをしました。


「おはよう、ルーシー。

 今日は私のお姫様が目を開けた大切な日よ」


 それは大正解なのでした。

 今日のルーシーはきっと、お城のお姫様に負けないくらいかわいいのです。

 いつもなら眠たがって嫌がる着替えもちゃんと自分で済ませましたし、顔だって自分で洗いました。

 きちんとお行儀よく椅子に座っていると、なんだかいい子でいられそうな気がしてきます。

 今なら嫌いな味のキャンディをもらっても、笑顔でお礼を言えるでしょう。


「ママ。私、最高の気分なのよ。今ならなんでも出来そう」

「そうね、なんでもできるわね。もう八歳になるんだもの」


 昨日までは七歳だったのに、今日のルーシーはもう八歳です。

 お隣のおうちのカルロフと二歳違いになりますし、仲良しのロミリアと同い年に戻ります。

 もうそれだけで、ニコニコが止まらないのです。

 お隣のカルロフもカルロフのお母さんとお父さんも、ロミリアもエルダもシャルルも、もう招待しています。

 いつもは家に来てくれないおばあちゃんも、今日ばかりは話が違います。


「ねえ、ママ。今日の誕生日パーティーは、最高のものにしなくてはいけないわ」


 七歳の誕生日はまだ子供だったので、ルーシーは見ているだけでしたが、今年は違います。

 最高のパーティーにするために、目を光らせていなければなりません。


「グラスはみんなの分そろってる? 去年は、エルダがスカートを引っ掛けて割っちゃったわ」


 グラスがなかったら、だれか一人が乾杯に参加できなくなってしまいます。


「新しいのを用意したから大丈夫よ」

「プティングは? ママのプディングは美味しいから、すぐなくなっちゃうの」


 最後の一切れになってしまったら、だれかに譲らなくてはいけなくなってしまいます。


「あら、大変。食いしん坊のクマが来ても大丈夫なくらい作らなくちゃ」

「あとね、ケーキの苺をもっといっぱいにして? 一口でなくなっちゃったら、つまらないもの」


 最後にひっそりとお願い事をすると、お母さんは初めて顔を曇らせました。


「あらあら。そんなにたくさんの苺は用意してないのよ。

 これからパーティーの準備をするから、もう買いに行けないし」


 お母さんが困った顔でルーシーを見つめます。

 もっと前に言えばよかったのでしょうが、昨日までのルーシーは七歳だったので、そんなこと、考えもしなかったのです。

 でも、八歳のルーシーは、どうすればいいかもちゃんとわかっていました。


「私が苺をもらってくるわ。

 苺を作ってる人を知ってるのよ。」


 おばあちゃんの家の近くに苺を作っている農家さんがいると、前にカルロフに聞いたことがあるのです。

 畑で苺をたくさん育てているのなら、ルーシーにも少しは分けてくれるでしょう。


 お母さんは少し考えていましたが、ルーシーの自信満々の顔を見て、コインを取り出しました。

 お父さんの頑張った証だからと、ルーシーはまだあまり触らせてもらったことがありません。


「それなら、お願いしようかしら。苺をもらってきてくれる?」

「任せてちょうだい、ママ。他にもできることはある?」


 やっぱり今日のルーシーは別人です。

 お父さんが見たら、びっくりして腰を抜かすかもしれません。


 お母さんはもう大丈夫だと言いましたが、ルーシーがあまりにも熱心だったので、いくつかのおつかいを任せてくれました。


 お隣のカルロフのお母さんに、パーティーの開始時間を伝えにいくお仕事。

 おばあちゃんを迎えに行くお仕事。

 ルーシーも仲良しのおじいさんに、卵と牛乳をもらってくるお仕事。


 こんなに仕事を任されるなんて、生まれて初めてです。


「大丈夫よ。だって、今日は私の誕生日。何も怖いことなんてないわ」


 ルーシーは自信満々に繰り返しました。

 はたしてルーシーは、すべてのお仕事を終わらせることができるでしょうか。

















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