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第三幕 愚者《ぐしゃ》どもが“ざまぁ”の後――略して“愚ザマ”


 最初にお詫びします。

三話を予定していましたが、長くなったのでもう一話にわけました。



 タイトルから察する事ができるでしょうか?


 R15、残酷な描写あり、タグが大活躍。

 流血シーン、その他ございます。


 一幕、二幕と違って笑いは少な目です。





 ◇◇◇



 案内されたのは、「城内にこんなのなかった!」扉。大聖堂の入口よりも立派なんだけど。


「わっ! えええぇぇ〜〜!?」


 中に一歩足を踏み入れると、自然に声が出た。空だ! 外だ! 今、夜なのに青空……いい天気だ!

 大聖堂のステンドグラスや天井画のように、天空に雲の階層があるみたい。かなり高く、全体の把握はできそうにないな。


「ここは神界でございます」


 声を掛けられて、女性達の方を見てビビった。私の着替えを手伝ってくれた皆さん、羽生えてます、羽。天使です! 更に驚く事に、入ってきた扉は消えていて、足場……よく見たら雲じゃん、コレ。雲がスゥ〜っと動いて移動します。


 着いた先は巨大な雲の浮島。白亜の豪邸に広いお庭、噴水もあって虹がキレイです。そしていました、東屋に。大人気! 黄金甲冑さんです。


『それは嬉しいな』


 うん。幻聴の正体が彼だって気付いてたよ。

 黄金甲冑は立ち上がると、かぶとを外した。中から現れたのは、いつかどこかで見た美丈夫イケメン……。


「太陽神ルグ様」


「そうだ」


 ルグ様は、一瞬透き通るような姿になったかと思うと、鎧からすり抜けて現れた。こうして見ると大聖堂の彫刻にそっくりで、甲冑よりもかなり体格がいい。先程の能力を使えば、自由自在に調節できるのだろう。

 彫刻は白一色だったけど、今は生身のヒトに近い。光を放つ眩い金髪に、この神界のように澄み渡る青空のような瞳。

 色だけならデズモンドも似ていたけど、全くの別格と言っていいほどに美しく、目が離せない。


「私の本質はヒトの姿ではない。ただ、グロリアにはあの像のカタチが馴染むようだから、今はこの格好をとっているだけだ」


「それで、この度私をお招きして頂いたのは、何故ですか」


「今から説明しよう。まずは掛けなさい。歓迎のしるしにこれを飲むといい」


 差し出された盃は、香りからするとお酒かな。大丈夫、中身も体も成人年齢は越えてるから。


「……美味しい!!」


 これは素晴らしい! ちょっと甘くて、飲むと体にすっと活力が満ちる。花か果物か、とにかく初めて触れたけど鼻を抜ける香りもかぐわしい。甘露ってのはこんなのをいうのかな? さすがは神界。


「これは神酒だ。その中でも特別のものだが」


 ルグ様はそう言いながら、私の手から盃を取って残りを飲み干した後、笑みを浮かべた。


「グロリアよ。これを飲んだそなたはもう、人ではないぞ」


「へ?」


 何それ? 私、騙された!? ちょっ……そういう注意事項は先に言っておくものでしょう〜。


「儀に必要なのだ、すまぬな。更に、そちらの流儀にも合わせよう」


 ルグ様が視線を向けると、昼間さんざんお世話になった大神官が、両腕を天使に支えられて現れた。


「彼は今、半分眠っているような状態だ。特別に招いたのだから」


 大神官はルグ様の前に書類を差し出した。それは昼に、新婦の欄に私の名前だけを記入した結婚宣誓書。

 ルグ様は新郎の欄に自らの名前を署名し――金色こんじきに光を発する、ありがたみ満載の特殊インクで――大神官に書類を戻した。

 え? いや、なにしてらっしゃるの?


「ご苦労だった。グロリアは私の妻となる。地上に戻ってそう伝えてくれ」


 ちょっ!? 待てや、自分! と、私は慌てて大神官を止めようとするが、ルグ様にそれを阻まれた。口を挟む間もなく、横抱きにされてしまった。せ、説明ぷりーず。


「この口付けは、なかなか気が利いていて良かったが――」


 ルグ様は微笑みを浮かべながら、衣の裾を持ち上げる。口紅の跡がバッチリ残っていた。


「グロリアに興味を持った。ちゃんと、唇と唇で誓いのキスをしたいと思う程には」


 ルグ様は身をかがめて、「チュッ」と唇をあわせてきた。え!? そんな急に……


「あの男にやりたくないと思うくらいに、私もグロリアを妻としたくなった」


 何ででしょう? 体が動かないよ、再び。神酒に酔ったか、相手が神だからか。

 皆の者、私はもう戻れないっぽい。くには頼んだ!


 ……婚約者に裏切られたら、太陽神ルグ様と結婚する事になりました!



 ◇◇◇



 どうも。目を覚ましたら視界に映った髪の毛が虹色に輝いていて、マジビビったグロリア(人妻)です。アレ? 神妻って言うべきかしら?

 もう! 驚き過ぎて天井実況ができなかったじゃないの。異世界転生・鉄板ネタだというのに。二度寝してでもやるべきか悩んでいたら、身の回りの世話をしてくれる天使達が現れて、更に驚愕きょうがくの事実を教えてくれた。


 私は、太陽神ルグ様とねやを共にした後、ルグ様の指示で、数日間眠り続けていたらしい。しかもここ神界は、時の流れというものが一言で言い表せない程に複雑怪奇ふくざつかいきで……。つまり何が言いたいのかというと、地上では数ヶ月経っていて、ヴォーン王国のゴタゴタは粗方終わっているとな。……それって、どうなの? アリなの!?


 慌てて飛び起きようが何しようが、事後である。後の祭りである。それでも何も知らないまま、この先神界で生活し続けるのは何なので説明を求めたら、案内されたのは庭園の噴水。ここの水面を通じて、下界(地上)の様子を見る事ができるんだって。もちろん過去に起こった出来事も。飲み物に軽食も用意されて、気分はなんだか映画鑑賞である。



 ◇◇◇



 まずは舞踏会。うん、あれだね。一言で言い表すと、酷い。ガッツリR指定モノだ。


 当然の事ながら吊し上げを食らう、王子デズモンドと子爵令嬢のエンマ。父である国王に王位継承権を剥奪はくだつされそうになって、不敬にも王の言葉を遮ってキレるデズモンド。空気をガン無視して、自分の主張だけを言い張るエンマちゃん。


「私、お腹にデズモンド様との赤ちゃんがいるんです。初孫ですよ。だから結婚を認めて、とっとと王位を譲って、私を贅沢三昧ぜいたくざんまいで暮らせる王妃にしてください」


 大体こんな事を言っていた。意訳してコレ。実際はもっと問題発言しかなかった。で、ぶ厚いツラの皮の持ち主な二人は、“キャッキャッウフフ”を始めようとしたところ、


「ちょっと待ってくれ。お腹の子の父親は私だと、言っていたではないか」


 そう、名乗り出た貴族――年齢はバラバラ。皆それぞれタイプが違うイケメン揃い――が、一人、二人、三人……と続いた。オイオイオイオイ、どーなってんのエンマちゃん!?

 愛人十人越えるかな? の前に、デズモンドが激昂げっこうして抜剣。お腹の子の父親候補達へ、手当たり次第に切りつけ始めた。

 阿鼻叫喚あびきょうかんの舞踏会・会場、デズモンドを取り囲む兵士達。威嚇いかくの為に魔法を放つデズモンドに周囲が手を出しあぐねていると、一人の男が動いた。


 ダスティン帝国のアンドリュー第二皇子が、兵士の剣で応戦。瞬く間に、デズモンドの両腕を肩口から切り落とし、咽を裂いて声を潰し、倒れしたところで両足の腱を断って、完全に動きを封じた。その上で


「刃先を向けられたので」


 と、シレっとヴォーン王国夫妻に言い放つ始末。ああ、血塗れの愛息子まなむすこに、王妃はとうとう倒れちゃった。

 ……優秀だとは聞いていたけど、実の父親と兄が、彼を怖れるのもわかる気がする。強くて、そつが無い。あえてデズモンドの命を刈り取らないのも、狙いがあるんだろう。


 招待を受けた国の、唯一の王子を害するなど、世が世なら即開戦モノだ。会場に居合わせた諸外国の思惑次第では、世界大戦のきっかけになってもおかしくはない。ただ、そもそもの非がデズモンドとヴォーン王国にある事。王位継承権の剥奪について、王自らの口で言及げんきゅうしていた事。斬り伏せたアンドリュー皇子の、ダスティン帝国の方が強国である事から、事態は膠着こうちゃく

 帰国の途につくと、道中で襲撃を受けるのは確定しているので、ヴォーン王国滞在延長を願い出るアンドリュー皇子に、二つ返事で応じる王。跡取り息子を傷付けられた事より、戦争回避の交渉役として重用した形だ。


 デズモンドは止血と傷口を塞ぐくらいの治療を受けて、とりあえず生きてはいる、状態で捨て置かれる事になった。状況によってはスケープゴートに処刑すると、本人にわざわざ聞かせた上で、だ。

 エンマちゃん? もちろん拘束された。それで調べたら、妊娠はしていない事が発覚。……あの、はち切れんばかりのウエストは一体?

 関係を持った貴族達に、妊娠と結婚をほのめかして、金品を貢がせていたらしい。結婚するする詐欺師だね。デズモンドが国庫の宝飾品も渡していたようで、窃盗・その他で投獄。犯罪奴隷として、隷属の紋を刻まれる事になった。それは、両手両足と盆の窪の五ヶ所。しかも、全て違う術者が紋を施すというりようだ。エンマちゃんが国を傾けた悪女だから、通常とは異なる扱いにしたのだろうけど、コレ、どういう意味があるのかしら?



 ◇◇◇



 場面が切り替わった。重苦しい曇り空の下、比較的広い平原に集う兵士達。旗はヴォーン王国の物で、総大将は……アンドリュー皇子??

 川を挟んだ向かい側にも、倍以上の規模の軍隊が展開している。旗はヴォーン王国とダスティン帝国と二種類ある。なんぞこれ、どういう状況? 天使の方々が解説をしてくれた。


 跡取りの王子がデズモンドたった一人だったという、問題ありまくりのヴォーン王国国王は、国家の危機にこれといった案も浮かばず。母と宰相の進言を受けて、私の案を形だけ採用する事に決めた。王の姪で、私にとっても親戚にあたる侯爵家の令嬢を養女として迎え、更にアンドリュー皇子を婿にとって王位を譲る、というものだ。

 正直、帝国の出方によっては国ごと潰されかねない、貧乏クジのような王座だろう。それでも起死回生の為、アンドリュー皇子は是として話を進めたようだ。


 ただ、場合によっては、国と共に短命に終わるかもしれないとしても、あっさり他国の人間に王位を譲るのを良しとしない貴族達は、当然いる。

 王の弟の一人が、次期国王の人選に不満のある貴族達を纏めあげ、更に「アンドリュー皇子は排除すべき」と帝国に泣きついて挙兵。結局、想像とは違う形になったけど、帝国の兵士達とコトを構える事態になった。それが、今噴水に映し出されていると。

 ちなみに、王宮の片隅でひっそりと放置されていたデズモンドは、「我らこそ、正統なヴォーン王家の血筋である」と主張する為だけ! に、前線に身柄を移されたらしい。

 ……ああ、うん、いるね。王国と帝国の連合軍側で、御輿みこしに乗せられているね。両脚・腹・胸・首を、がっちりと椅子に拘束された上で担がれているのに、物理的・魔法的防御らしきものが一切見られない。なんというか、いいマトになりそう。守る気ほとんどないっていうか、生きて王位につける価値もないし。連合軍側は生かす気全くないんだろうな。むしろ討ち取られてからが本番、正義を主張! みたいな。

 どうしよう? あと一回『じゅもん』……いや、もうライフはゼロだね。私が噴水から見てても死相が出てる。唇なんか紫だし。うん、こうかはばつぐんすぎた!


 およ? ヴォーン王国軍の後方に、エンマちゃんがいるなぁ。


「もう! ヒロインたる私が犯罪奴隷として娼館に売り飛ばされるなんて、どういうことよ。バグってんの!? でも今がチャンスだわ。アンドリュー皇子をオトしてイッキに王妃よ! あーあ、成り上がりルートがハード過ぎるクソゲーとか。どうせなら、もっとヒロインたる私がちやほやされる、そんな乙女ゲームに転生したかったわ」


 乙女ゲーム? 乙女ゲームってあれだよね。女性向け恋愛ゲーム。

 舞台に出演してくれた人達の何人かが、声優養成所の出身で、オーディション受けたとかそんな話をしていたな。その時の結果は残念だったけど、舞台化した時に参加できる事になったって、ゲームの資料を見せてくれたっけ。確か……『愛と豊穣ほうじょうの女神 ダナン』の巫女に選ばれたヒロインがどうとか。って、私、乙女ゲームはそれしか知らないや。え? この世界がそうなの? 言われてみれば確かに、『女神 ダナン』様の伝承があったけど。ここが乙女ゲームの世界っていうのは、話が飛躍し過ぎじゃない?


 ヴォーン王国とダスティン帝国の国境にあたる川を挟んで、対峙たいじする両軍。緊張感が高まり、いよいよ武力衝突か……というタイミングで、雲の一部が晴れてヴォーン王国軍にのみ降り注ぐ陽光。


「え? どゆこと!?」


 私ってば、思わず水面に向かって、声を出してしまったじゃないか。

 光の柱の中に光臨した、透き通った姿の太陽神ルグ様。ヴォーン王国はもとより、ダスティン帝国も太陽神ルグ様を祀っている為、彫像などで馴染みのある姿に、場が騒然そうぜんとなる。

 騎乗したままのアンドリュー皇子が前に進み出て、憮然ぶぜんとした表情のまま口を開いた。


「今この場において何の用だ? 花嫁泥棒が」


 太陽神ルグ様に歯向かうセリフを吐いたアンドリュー皇子に、敵味方関係なく顔色をなくす一同。それに対してルグ様は(比喩じゃなく)輝く笑顔を浮かべる。


『時期を読みたがえた男の顔を見に来た』


「……チッ!」


 態度も立ち位置――なんせ中空に浮かんでいる――も上から目線のルグ様に反発するアンドリュー皇子。

 ……ここってアレか。「二人とも、私の為に争わないで……!」って言う為の前フリか? 素面シラフではキッツイなぁ。舞台でなら言った事あるけど。相手? 稼働中の洗濯機と脱水され中の洗濯物。いつも最高のタイミングで「ガッタンガッタン!」暴れるキミタチに、アンケートでも高評価だったキミタチに、私ってばガチで嫉妬してたんだからね!


『妻が愛し、気にかけた生国しょうこくだ。我がいとしい妻の為、夫として、ささやかながら力を貸し与えようと思ってな。なんじ、アンドリュー・ダスティンよ。其方そなたが、大地と人心を守るというのであれば、我の加護を授けようぞ』


 ルグ様の言葉を受けると、アンドリュー皇子はいささかも躊躇ためらわず、馬から降りて膝をくっした。


『そういうところが油断ならぬと、彼女をめとるのを急いだのだ』


 ルグ様が手をかざすと、金色の光に包まれるアンドリュー皇子。神から直々に加護を与えられるのは、早々ある事ではない。ヴォーン王国軍は、「天運は我が陣営にあり」と気焔きえんを吐く。その勢いに触発されたのか、にわかに雷鳴とどろき、バケツをひっくり返すという表現でも足りない程の土砂降りが、連合軍側にのみ、襲い掛かった!

 ……本当にどーなってんの、コレ? と言いたくなるくらい、川を挟んだこちらとあちらは天国と地獄。神様コワーイ……。

 太陽神ルグ様の怒りをおそれて、撤退を始める一部の帝国兵士達。アンドリュー皇子も川の氾濫はんらん危惧きぐして、やや離れた丘の上までの移動を指示。もはや戦争どころではなかった。



 ◇◇◇



 夜半過ぎにようやく雨はあがるも、川の増水で渡河とかは困難の為、大規模な戦闘はないだろうと両軍は至って静か。

 そんな中コソコソ動くのは“自称・ヒロイン”のエンマちゃん。どうやら『夜這よばいでドッキリ!』を敢行の模様。……いやそこさぁ、一応戦地だよ。でもってターゲットは総大将だよ。あ、ホラ、あっさりと捕縛。「エンマ、後ろー!」って言うヒマすらなかったじゃない。


 警戒中の為に眠りが浅かったのか。騒ぎを耳にしたアンドリュー皇子がテントから姿を現し、地面に頭を押し付けられているエンマを鋭くにらみ付けた。

 そして、アンドリュー皇子の口から明かされる、五ヶ所の隷属の紋の秘密。


 エンマちゃんはどうやら、生来の【魅了】持ちみたい。封印が困難だった為、何故か逆の方向に呪いをかけたらしい。

 術者・もしくは各紋ごとに設定された主人の命令、または彼らが命を落とした場合、対応する紋の刻まれた部位の身体機能を奪う変わりに【魅了】がパワーアップ! ……なんでやねん。え? ヤンデレに処理を任せるとか、その発想がコワイわ! この国? 世界? の為政者達の振舞いはどこかオカシイ。

 ちなみに盆の窪の主人は、現・ヴォーン王国国王で、術者達より年上。王に万が一の事があった直後、エンマちゃんの首から下は動かなくなる、永遠に……。そして強化された【魅了】で、より一層強く囚われた相手から(自主規制)。


「――ヒッ!」


 我が身の現状を漸く思い知って、恐れおののくエンマちゃん。


「今、俺自身とヴォーン王国軍は、太陽神ルグ様の加護により【魅了】は効かないようだ。エンマ・レノンよ、チャンスをくれてやろう。言っておくが、お前が政治には全く興味のない、ただの愚かな女だからこそのチャンスだ。その点は誇れ。今、この場は見逃してやろう。川を渡り、帝国軍に取り入れ。デズモンドをだぶらかしたように、皇帝や跡取りの皇子達を手玉に取って、紋を刻んだ術者達や、主人であるヴォーン王国国王を集めてもらえ。他にお前が無事でいられる方法はないぞ? ただし気を付けろ。身内である俺が言うのもなんだが、阿呆どもばかりだ。おねだりの仕方を間違えると、むくろに変えられてしまうかもな。――行け! 行ってせいぜい帝国を引っ掻き回してこい。お前達。夜明け近くになったら、川岸付近でその女を捨ててこい」


『はっ!』


 体の両側を兵士に引きられて、夜の暗闇に消えていったエンマちゃん。


 翌朝。豪雨の前までは、戦力的にかなり上回っていた連合軍の陣営に、変化が見られた。川の傍にデズモンドの御輿を掲げた、ヴォーン王国王弟派の軍勢。その後方に帝国軍と、昨日とは異なりハッキリと別れていた。


 太陽が地平線からすっかり顔を出した頃、投降するように勧告するアンドリュー皇子。遮るかたちで王弟派から遠距離攻撃が放たれて、戦端が開かれる。

 戦況は一方的だった。王弟派から、アンドリュー皇子率いるヴォーン王国軍への攻撃は、そのことごとくが外れてしまうのだ、太陽神ルグ様の加護によって。

 当初、様子を見ていた帝国軍はそれにより、ついに決断。王弟派を排除する為に攻撃を開始。寝返りにより、挟み撃ち状態に陥った王弟派はいくばくもなく壊滅した。

 川岸の岩に引っ掛かっているのは、デズモンドがくくり付けられていた御輿の残骸の一部。デズモンド自身や、エンマの姿はどこにも見つけられなかった……。



 ◇◇◇


 それからは次々と情景が移り変わって、天使達の補足をちょこちょこ耳にしていく。

 帝国軍側の代表は、その場で停戦を申し入れて撤退。元々アンドリュー皇子を慕っていた人みたい。えて彼を任命して討伐させようとするとか、帝国も本当に腐ってやがる。

 正式な休戦、国と国同士で同盟や条約締結に向けて互いに使者を出そうという話になった。

 しかし、帝都の皇帝やアンドリュー皇子の兄弟達は、「完膚かんぷ無きまで叩き潰してやる!」とえて、戦争の準備を本格化させた。が、その牙がヴォーン王国に向けられる事はなかった。

 一人の女をめぐって、皇帝一族の男どもが骨肉の争いを始め、各地で内乱が勃発ぼっぱつ。そのすきに乗じて複数の属国が反旗をひるがえしたり、周辺国が連合を組んで帝国に攻めいった為だ。


 太陽神ルグ様の神罰を怖れたのか、ヴォーン王国は台風の目のように戦乱とは無縁になり、アンドリュー皇子を王として、新たな国づくりを進めていく事になった。




 読んで下さって、ありがとうございます。


 一幕・二幕で主演を張っていたグロリアが表舞台から退場した為、調子がちょっと変わりましたね。



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