第一幕 ムチャぶりアドリブ劇場
20160322
レビューをいただきました!
初めての事なので、作法がわかりません。この場でお礼を申し上げます。
また、レビューで興味を持って読み始めて下さった読者の方、たまたまたどり着いた読者の方、何度でも笑いたいという読者の方……皆様にも感謝を。
ありがとうございます!
主人公の言葉遣いが若干乱れ気味です。ご注意下さい。
この時――今までの私とその前の『私』が急激に統合し、新たな――私は決めたのだった。
『私、ヴォーン王国第一王子デズモンドは、長らく婚約関係にあったヘネシー公爵家令嬢のグロリアに……』
ここで、ちらりと私の方を見て嘲笑ってきた金髪碧眼の彼。人形に貼り付けられている幻影だというのに、さんざん人の事を貶めてくれた性格・人格の悪さが良く滲み出ていて、なかなか芸が細かい。
うん。これなら私の方も、一切の躊躇を捨てられるだろう。いざ! 今こそ唱えよう。“ざまぁ”を引き寄せる、究極の『がんぼうのじゅもん』を!!
私の胸の内を知ってか知らずか、フイッと視線を逸らして再び喋りだす幻影。臆したか? あぁん!?
『――グロリアには欠片たりとも興味を持てない。あくまでも政略上の婚約者だ。以前の、皆にとって都合のいい王子だったら「そんなもの」として、結婚式の会場に私自身が立っていた事だろう。だがしかし、今の私は違う。私にとっての真実の愛――レノン子爵家令嬢エンマに出逢ってしまったのだ』
(……もげず、もげたり、もぐ。もぐとき、もげども……)
私は心の中で『じゅもん』をつむぐ。そして、「カッ!」と目を見開いて、止めの言葉を魂いっぱいで叫んだ。
(――もげよ!!)
『私は目醒めたのだ。グロリアなど、お飾りの王妃に据えるのも口惜しく、おぞましい。よって、その場にいる適当な男を見繕い、結婚でも何でもするがよい。私の妃にならないのであれば、勝手にしてよいのだ。グロリアにとっても悪い話ではないだろう? では、後はそれなりに誤魔化しておけ。今まで教育を受けさせてやったのだ。それくらいの恩に報いるくらいはしろ』
会場のざわめきが一段と大きくなる。まァ、ムリもないよねー、私も現実逃避したー……ってヲイ! どうしたんだ王子人形。頭から煙出てんぞ、煙。実はロボだったんデスカー、ナンテコッター……。
『ハァーイ! たった今デズモンド様に熱烈な公開告白いただきましたー、愛されヒロイン・エンマよ。ヨロシクね! なお、この動画配信サービスは自動的に――』
見た目と音声は性格破綻王子、口調は“自称・電波系ヒロイン”に、さぶいぼ全開になりながら、私は一を歩踏み出した。後始末の為に。
◇◇◇
私ことヘネシー公爵の長女グロリアは、ヴォーン王国で宰相を勤める父を持つ、高位貴族家の娘として生まれ育った。母親譲りの銀髪と、父方の血筋に多い赤みの強い紫の瞳。幼い頃は『ごっこ遊びの好きな、空想力豊かな子供』だと思われていた。
夜寝る度にみる不思議な夢。コンクリートジャングル、デンキで動く金属の箱、一日中暗闇に落ちる事のない光の街、蠢くと言いたくなるほどのたくさんの人・人・人……。そこでは、『私』を含めて黒髪・黒目が大多数だった。そう、夢の中の『私』は『ニホン人』として生まれ育っていたのだ。
両親や乳母や使用人達にそれとなく聞いてみたけれど、皆はそんな夢をみないらしい。調べても『ニホン』については一切わからない。「変なの」と思い、「自分だけ……」という事実に不安を覚えて悩む日々。けど、悪い事ばかりではなかった。夢の中の『私』はヴォーン王国より遥かに高度な教育を受けていて、夢を通じて学んだ私も、家庭教師の課題や学園での勉強を余裕でこなしていた。褒められる事に気を良くした私は、不思議な夢のおかげだと感謝をして、ある意味で二重生活を楽しむようになっていた。
七歳の頃、家庭教師に薦められて、貴族家出身の女子のみが入学を許可される、全寮制の学園で学び始めた。常に優秀な成績を修めていた事から、将来国王になると目されてた第一王子の婚約者に内定。厳しいお妃教育を施され、何とか身に付けていった結果、正式に婚約を交わした。
一方、婚約者の第一王子デズモンドはというと、母親にはぐずぐずに甘やかされ、更に耳ざわりのいいおべっかばかりを使う大人達に囲まれたせいか、努力を怠り、学業・その他は凡庸に育っていった。性格は典型的な、ワガママ俺様である。
互いに顔を合わせても、自分を立てる事を口にしない婚約者に、不満を露にするデズモンド。真正面から罵倒された事もあり、私はすぐにキライになった。実りのある会話も成り立たないし、臣下の娘だから我慢していたけれど、会うのが苦痛で仕方がなかった。
支えてくれたのは、夢の中の『私』。
「そういうのってストレスって言うんだよ。DV夫とかサイアクじゃない。別れられないとか、お貴族様も大変なんだね。よし! ストレス発散付き合うよ。パーっといこう」
夢の中は成長が早いようで、私を追い越してあっという間に大人になった『私』。小さい頃は向こうを見ているだけだったのに、いつの間にか悩み相談を聞いてくれるようになっていた。目の色も髪の色も年齢も違うのに同じ私で、でも話ができるのってやっぱり不思議。
ニホンの「パーっといこう」はすごく刺激的だった。街の景色も着ている服のデザインも食べ物も、全然違う。自由恋愛……結婚前にお付き合いを何度してもいいなんて、考えられないわ!
大人になった夢の中の『私』は、何度も舞台に立っていた。まるで道化のような動きとセリフで、たくさんの観客を笑わせる。最初はビックリしたけれど、何度も観ているうちに、私もニホンのお笑いを覚えて、笑いドコロがわかるようになっていったの。いいな、私もこんな風に楽しく生きてみたい……。
公爵家の娘として、果たすべき義務は心得ている。だからこれからも、デズモンド様と顔を合わせる事でしょう。ただ、歩み寄る事もなく恋情の伴わない、無味乾燥な政略結婚になるのは間違いなさそうだった。
◇◇◇
そして、諸外国の王族や使者を含め、多くの賓客を招いて行われる結婚式当日。会場は、王家のシンボルとして信仰されている、太陽神ルグ様を祀る王都の大神殿。すでに千人以上の人々が中で式の始まりを待っている。この日の為に誂えた花嫁衣装を身に纏い、父と腕を組んで、荘厳な音楽に合わせて入場した。
正面最奥の天井付近には、太陽を中心とした神界をイメージしたステンドグラス。そしてそれよりも低めの位置に、白い石から削り出して作られた、人の姿をとった太陽神ルグ様の彫像。その手前に立って、堂内を見守っている大神官様。
今日は花で彩られた演台の他に、夫婦として署名をする為の専用用紙と、筆記具が並べられた台が置いてある。
それと……、礼服姿のデズモンド様。服装などは大変お似合いなのだけれど、何の表情も読み取れないお顔で立っている。ああ、気が重い。私は意図的に新郎から視線を逸らした。
中央の通路を挟んで左右に、式を見届ける為の参列者達の席。最前列の方はもちろん、この国の国王陛下夫妻と、諸外国の賓客。そして、高位貴族家から爵位の低い家へ順番に座っているはずだ。
……自分でも冷静だと思う。これから、今まさに結婚だというのに、胸のトキメキも何もないのだから。夢の『私』の舞台度胸のおかげかしら。
父と通路の途中まで歩く。そろそろ新郎が歩み寄ってきて、花嫁である私を迎えてくれなくては具合が悪いのだけれど……。デズモンド様に動く様子が見られない事に、父と僅かに目を合わせて、仕方なく参列者席の最前列部分まで歩く。それでも新郎は動かない。音楽に不協和音が混ざるように、人々のささめく声が聞こえ出す。
ぐっと力の籠った腕に父の怒りを感じて、「なんとかしてくるわ」と伝えるように指先でトントンと叩いてから、父とは離れる。見ると、国王陛下は困ったように額に手を当てて、王妃様はいつ気を失ってもおかしくない顔色をしていらっしゃる。
どうしようもなく、私はため息と涙を堪えて、残りの道のりを一人で歩く。こんな事は前代未聞であろう。
デズモンド様と並んで立って、私は違和感を覚えた。生きている人間の気配がしないのだ。先程までは入口の方を向いていて、今は大神官様の方を見ている。動いたのは私も横目にしていたのだけれど、とっても不自然たった。目だけで横顔を窺うと……何か、目? 瞳孔がおかしい?
儀式を行うにあたり、大神官様が祈りの言葉を捧げて、大聖堂にいる人々の祝福と浄化を願う。そして、太陽神ルグ様の光臨を歓迎した後、儀式の開始を宣言する。
……あ、今までは白い彫像だった太陽神ルグ様の瞳に、オレンジがかった金の光が宿る。今回は本当に光臨されたのだ。
目を閉じて、心の中で日頃の感謝を捧げる。まるで応えてくださっているかのように、ステンドグラスから暖かい陽光が降り注ぎ、包みこまれた。私は感動で胸がいっぱいに……
――ガサッ!
隣に立っているデズモンド様の方から、全てを台無しにするような音が響いてきて、目を開けた。
――ガサッ! ガサガサガサガサッ!
音は激しくなり、その音の発生源であるデズモンド様の動きはもはや、人間のソレではなかった。あちこちから上がるご婦人方の悲鳴。王妃様に至っては、立ち上がろうとしてすぐに足元から崩れ落ちてしまって、陛下にヒタヒタと頬を叩かれている。
デズモンド様に似たナニかは、入口の方を向いて一歩前に踏み出した。足元に展開する魔方陣。警備の兵士達と神官達がこちらに集まってくる。
「光属性の……攻撃魔法ではないな」
この大神官様の言葉が効いたのか、兵士達はやや距離を取った位置で、様子を窺う事にしたようだ。
魔方陣は光の柱を上げてデズモンド様に似たモノを包み込み、幻影を貼り付けた。目に光と力が宿った事で、先程よりも本人に近い印象を受ける。そして、デズモンド様の声で語り出したのだった。
『私、ヴォーン王国第一王子デズモンドは、長らく婚約関係にあったヘネシー公爵家令嬢のグロリアに……』
◇◇◇
婚約者だった男の戯言を聞き流しながら、私――グロリアの思考は加速した。超加速だ! いや、もう走馬灯のようなものがガーッと流れて、唐突に理解した。今まで不思議な夢だと思っていた『ニホン人の私』は、前世の私だったのだと。真実の愛に目醒めた? ああそりゃよござんした。おかげで私も目ぇ覚めたっつーの! というか、こんな状況で『誤魔化しておけ』とかムチャぶりにも程があんだろ!? “ドッキリ”だって仕込みはしてるんだからなー!
『なお、この動画配信サービスは自動的に――』
……ってまたんかオルァァ! どこのスパイ組織のモンだキサマァアァァ!! いやー! なんか煙がシューシューいってる、煙ィ!
ドレスじゃなかったら土手っ腹に蹴りを入れたかったけど、手に持っていたブーケを大神官に押し付けるように投げて、とにかくデズもどきの腕を掴んだ。……軽っ!? 袖口と手袋の隙間から見えたのは、たぶん麦わら。ってカカシなのかよ!? 心の中で全力でツッコんで、とにかく人のいない場所へ向けて、遠心力を利用して放り投げた。
『自動的に消滅します』
デズカカシは中空でその音声を残して、「ポンッ!」と煙に包まれた。
ちょ、オイ!? メラメラ燃えてる燃えてる。近くにカーテンとかなくて良かった〜。床が石の部分で良かった〜。
「火を消してください、早く」
私が声を掛けると、兵士達が慌てて動き出す。おお、何もないところから水球が! 日本人部分が増加したから、魔法とか見るとテンション上がるね。
「おおっ……、どうかお許し下さい。哀れな我らにお導きを」
火が消し止められて、ホッと一息。シーンと静まっていた会場内に、大神官の声がとてもよく響いた。あらら、泣かないで、おじーちゃん。
この声が合図になったのか、大聖堂内は一気に喧騒に包まれた。国王は顔を両手で覆って項垂れて、王妃はそんな王の背中をポカポカと叩いている、泣きわめきながら。
私の家族や、外国の賓客の大多数は「侮られた」と怒りで顔を赤くしている。またそれ以外の一部は、ヴォーン王国の国力の低下をニヤニヤと嗤いながら歓迎していた。
近隣で一番の強国――ダスティン帝国の、確か……アンドリュー第二皇子――に到っては
「兵はどれくらいで揃えられる?」
と、堂々と侵攻の打ち合わせを始めちゃってます。私、近くに立っていたから聞こえちゃったー。ハイ! 亡国フラグ建ちました。対戦国確定も時間のモンダイだネ☆
デズモンド王子とは気が合わないのは知ってた。「だが断……れない!」政略結婚なんて貴族のギムでしょ。諦めてたわ。
メイド(自称・ヒロインのエンマ・レノン)に手ェつけて、
「できちゃった(はぁと)」
って言われて固まってた現場を、何故か片隅から見せ付けられて、エンマにニヤリと鼻で嗤われたっつーの。だから知ってたわ! いつかくる修羅場を。結婚式のど真ん中でぶちかまされるとは、想像を超えてたけどな。言っとくが、褒めてねーからな。覚えとけよ!?
末席近く――恐らくは、自称・ヒロインの実家のレノン子爵家辺り――は掴み合いの喧嘩に発展しそうだ。
こんな時こそ、こう言おう! 「これなんてカオス」と。
◇◇◇
私は、二の腕の中程まである手袋を両手とも外して台に置いた後、掌を合わせた。
――パァン! パァン!
神前なら柏手の、中身・日本人ですが、ナニか? 構造的なもので反響がなかなかすごいぞ、大聖堂。皆ピタリと固まってくれた。
「皆様の驚きはもっともです。他ならぬ私も、このような仕打ちに震えるばかりでございます。ただ、この場にお集まりの聡明な皆様方。冷静になって思い出して下さいませ。私達はもうすでに、太陽神ルグ様を大聖堂内にお招きしているのでございます」
大神官も会場全体も、一様に「ハッ!」と息を呑む。……彫像の瞳がキラーンと輝いた。こうかはばつぐんだ!
「一度お招きしたのにもかかわらず、儀式は始まらずに失態を演ずるばかりでは失礼にあたります。また、こちらからお呼びしたのに、何も示さないままお帰り頂くわけにも参りません。太陽神ルグ様の怒りを万が一にも買うような事があれば、矮小な我々など愛想を尽かされて、天からの恵みに見放されてしまうかもしれません。このまま儀式を始めたいと思います。大神官様、どうぞ神々へ感謝を捧げる祝詞を」
「し、しかし。それでは代理の花婿を立てるのか?」
「いいえ? この度の結婚式は、王家とヘネシー公爵家のもの。私の一存で勝手はできません」
「では?」
「結婚式は私一人でこの場に立ちます。さ、これ以上お待たせしてはなりません。祝詞を! どうか、大神官様」
「お、あ、ああ……」
大神官は私の勢いに呑まれて儀式を始める。最初は神々と精霊と、ありとあらゆる全てへ対する感謝の詞。けっこう長い。今のうちに何かを考える。不敬にあたってはならないと、参列者達も静かに祈っていることだし。
手袋を再び身に付けながら考えるが、特に何か出てくる訳じゃない。儀式を続行させたのも、あらすじは大きく変えない……くらいな気持ちだし。
ヤダよ、代理の花婿なんて。前もって言っとけや、せめて。そしたら仕込んでたよ。その場で舞台に上げるシロウトいじりなんて、こっち(MC)の技量だっているんだよ。
あー……何か考えろ、考えろ。前にもこんな事あった?
グロリアは『ニホン人の私』の事を道化と言っていた。失礼しちゃうわ、私は女優よ! ただし、枕詞に“売れない”が付くけれど。何かで報道されるとしたら、劇団員かアルバイト、と紹介されるんだろうな。
所属していた劇団の方針が、「八割の笑いと、一割のシリアス。そして最後にほんの一つのちょっとイイ話(事)」で、しょっちゅう駆出しのお笑い芸人をゲスト出演させていた。
ある時、稽古に参加していたお笑いコンビが、追い込み直前に急遽ロケの仕事で休むと言ってきた。全国区の生放送のテレビ番組。名を売り出したい気持ちは痛いほどわかったので、もちろん送り出した。移動中にブログかなんかで宣伝してくれれば、会場に来てくれる観客が増えるかも、という下心込みでだ。結果、天候悪化による交通機関の乱れで移動が間に合わず……。ネットのニュースにはなったよ、うん。いる人間で幕を開けた。話の大筋は何とか守ったけど、セリフとかはもうめちゃくちゃ。でも大ウケの観客達。何か神懸っていたあの日の舞台。「もう二度と再現できない、もう二度とやりたくない」が反省会の全てだった。
……ああ。いつもおいしいところ全部持っていっちゃう先輩に、あの日の舞台もやはりもってかれて。打ち上げでキレて、ついでにどっかの血管でも切れて、意識が暗転してそのまま人生退場したんだっけな。辞世のセリフは確か……「酒の味がしねぇ」だったか?
遠い遠い前世の記憶に思いを馳せていたら、目の前にブーケを差し出された。いつの間にか、長い長い祝詞が終わり、大神官がこちらを不安気に見詰めてきた。あ、さっき押し付けちゃったブーケか、と思い出して受け取る。……イカン! 今このシチュエーションについては、全然考えてなかった!
「デズモンドはグロリアを妻として、終生変わらずに愛する事を誓いますか?」
無言(間)。
――シーン。と、音がしそうな程静か。時々、堪えているんだけど出ちゃったよ、的な咳が聞こえてくるけれど。仕方ないよ、人間だもの。……代返とかなくてよかったよ。
「では……。グロリアはデズモンドを夫として、終生変わらずに愛する事を誓いますか?」
「無理です」
大神官の問い掛けに、間髪容れずに断言した。脊髄反射かってくらい、自分でも早いって思ったわ。さっきとは打って変わってザワついた雰囲気になったけど、仕方ないじゃない?
「デズモンドを夫として、終生変わらぬ愛を誓いますか?」
「お断りします」
「誓いますか?」
アレ? これ「YES」か「ハイ」を選ばないと話進まないの? ……って、んなワケあるか! ゲームじゃねぇんだ、現実だろ。
「太陽神ルグ様は偽りを好みません。大神官様のお言葉に肯定の意で答えれば、却ってご不興を買う事になりましょう」
「……。では次に、結婚に同意する署名を。新婦の名前だけで構いません。相応しい新郎は、偉大なる太陽神ルグ様が引き合わせて下さることでしょう」
およ? 長く息を吐き出して首を左右に振った後、大神官は言うべき内容を変えてきた。さてはおヌシ、吹っ切ったな?
私は大神官の言葉に従って、用紙に自分の名前だけを書き記す。見ようによっては寂しいが、今はこれが最善だろうて。
「次に……誓いのキスを」
……おっつ、これはちと難易度高い? どうする?
A.自分で自分をギュッと抱き締めて、唇を「んむぅー」って突き出す?
……って、コントやギャグ漫画じゃあるまいし、何でだよ! 痛々し過ぎるわ! プリーズ、突っ込み。大神官のおじーちゃんにアドリブで求めるのは酷じゃね?
B.じゃあ、全方位に投げチッス、しちゃう?
……ソレナンテ、八方びっち? 慎みに欠けるから却下。
ステンドグラスが人型のシルエットでも作り出してくれたら、影と影で口付けとか……
あ! なんだよ、もー。こんなにいいものがあるじゃないか。私は「選択肢D.」を選び、ドレスを摘まんで歩き出す。
固唾を飲んで見守っていた参列者達に大神官は、「ギョッ」として驚いたように身を捩る。
通常、大神官や神官よりも大聖堂の奥に足を踏み入れる事はない。私は美丈夫な太陽神ルグ様の彫像の足元まで歩いて行って、背伸びをして、衣の裾にキスをした。あ、口紅付いちゃった。後でキレイにしてもらわないと。
参列者達は、声にならない声で「おおっ!」と感心したような雰囲気に満たされた。
ふふっ……。深く考えればアホな婚約者の裏切りのせいで破綻しまくりなんだけど、こう、とんちを効かせて印象操作に成功、みたいな? やったよ、座長。「そして最後にほんの一つのちょっとイイ事」の教えで、乗り切れそうだよ。
私はそんな事を思いながら、再び大神官の前に立った。大神官はこちらを見て一つ頷いてから、締めの言葉を口にする。
「我がヴォーン王国では行われていませんが、他の地域では、太陽神ルグ様をお手伝いする巫女を定め、その際には今のように、花嫁だけの擬似的な結婚式を行う場合もあります。――グロリアは、太陽神ルグ様のお導きの元に成長し、斯様に素晴らしい女人の気質を示した。彼女は将来、誉れある花嫁・妻・母となり、国を助ける力となるだろう」
なんか難しい言い方した風だけど、国家予算を動かして人を集めて、花嫁の御披露目とか正直どうよ?
だがもういい。式次第に則り、花嫁退場。オツカレっしたー!
何故か起こる拍手。まあこれも、式次第のうちか。なんか視線を感じるけど、これも当然っちゃあ当然だな。
この後は大神官が、感謝と太陽神ルグ様の帰還を願って詞を口にしたら、儀式はひとまず終了。
ムチャぶりアドリブ劇場も一幕終了。この後も修羅場だろうけど。
私は舞台袖を目指して歩く。大聖堂の扉から出て曲がる時に、チラリと視線を向けると、太陽神ルグ様の輝く瞳とバッチリ目が合ったのは……気のせい?
読んで下さって、ありがとうございます。
“ざまぁ”を引き寄せる『がんぼうのじゅもん』。その正体は……
『もぐ』の下二段活用・ナンチャッテ風です。
正しいかどうかは、保証致しません。
高校の時の部活の顧問の先生が、同僚の先生から聞いた話をしてくれました。
「古文の授業中『ゴキブリ』を活用していた生徒がいたそうだ」
……。
ごきぶらず、
ごきぶりたり、
ごきぶる。
ごきぶるとき、
ごきぶれども、
ごきぶれよ。
……テストにはでません。入試にはもっとでません。そもそもあの虫は、動詞じゃない(笑)
口に出したり書いて発表したりして、怒られたり恥をかいたとしても、当方は責任を負いません。
あらかじめご承知下さい。
ちなみに、本文中の
「投げチッス」
は、わざとです。誤字ではありません。