35話
遅くなってすみません。
ナーシャに案内をしてもらい、レイアと一緒に飲み物とお菓子を貰った俺たちはレイアと談笑しながらナーシャにお菓子を分けたりしながらテントに戻ると、アギルさんたちが胴上げをされていた。
…どういう状況?
「ユリウス、戻ってきたか」
ナーシャと一緒に目の前の状況に首を傾げていると、レイウスさんが話し掛けてきた。
「レイウスさん、これは?」
「あぁ、アギルが結局皆に捕まってな。それで、胴上げされてからキスをさせられるところだ」
「…毎回そうなのか?」
「いや、前回では告白に失敗してたから慰められるだけだったが、前々回ではそうだったな」
…うん、住民が仲良しでノリがいいのは良いことだしな。気にしないことにしよう。
「ちょっ、お母さん!何も見えないよ!」といいながらニーニャに目隠しをされて引きずられていくナーシャと顔を赤くしてリリーアさんのところまで走っていくレイアを見ながらそう思った。
『えー、それでは休憩も終わり、次の競技に移りたいと思います』
そう放送が流れて、レイウスさんが皆を集めて、次の競技に出る人を言った。
「次の競技にはユリウスに出てもらうつもりだ」
「俺でいいのか?」
「あぁ、ユリウスに出てもらう。それで、その次の競技にはレイアとリリーアだ。…他の皆もそれで大丈夫か?」
レイウスさんがそう言って、皆の顔を見渡して、異論が無いかを確認する。
そして異論はなかった。…多分だが、それだけレイウスさんが信頼されているのだろう。
まぁ、次は俺が出るから頑張ろうとは思う。
『それでは、オブスタクルマジックレースを始めますので、出場者と応援される方はラグナベル大草原にお越し下さい』
そう指示があり、テントに居た全員がラグナベル大草原に向かって出ていった。
ラグナベル大草原に来ると、マイクを持ったシェリーさんと魔法使いらしき人達が数名待ち構えていて、
『はいはーい、ラグナベル大草原へようこそ!オブスタクルマジックレースの出場者は私のところまで来て下さい。そして応援される方々は出場者の邪魔にならないように少し離れてください』
俺と、他のチームの出場者がシェリーさんの近くまで行くと、俺たちの顔を見渡してからオブスタクルマジックレースのルール説明を始めた。
『オブスタクルマジックレースのルールは簡単です、ここにいる宮廷魔術師の方々が放つ魔法と、あらかじめ設置しておいたトラップを回避しながら500メートル離れたゴールを目指します』
なるほど、運動会の障害物リレーのようなものか。というか距離が長いな。
納得しながら説明を聞き終えて、体が当たらないように離れてスタートラインにそれぞれつく。ゴールは500メートル離れた一本の大きな木。
そしてその出場者たちを挟むように等間隔開けて、宮廷魔術師の人達が立っていた。
今回は、俺の知り合いは出てきてない。
他の出場者をそう思いながら見ていると、レイウスさんやリリーアさん、そしてレイアとナーシャとそのほか同じチームの人の応援が聞こえてきた。
…こんなに多くの人から応援されたのは初めてだが悪くないものだな。背中は少しむず痒くなるけど。
皆からの応援にそう思いながら頬を少し緩めていると、シェリーさんの『それでは、始めます』と言う声が聞こえてきた為、気を引き締め直す。
『よーい、ドン』
その掛け声と共に一斉に走り出し、俺が先頭に出た。
先頭を走っていると、横から水の玉と風の玉が飛んで来るのが分かり、それぞれトップスピードに乗ったまま体を捻ったりと、風の玉は少し見にくかったが最小限の動きだけで全てかわす。
じいちゃんの特訓しているときの指示で、何処か忘れたが山をトップスピードのままで木と仕掛けられていた罠を全て避けながら頂上まで来いという無茶ぶりをされたからそれに比べたらこれぐらい避けるのは造作も無い。
全てかわしきって、200メートルぐらい走った所で地面が一瞬にして固くなったのを感じとり、バク宙の要領で後ろに飛んでその場から離れると、さっきまで居た所から五メートル位の土の壁が出てきた。
この壁を壊せないことは無いだろうが、失格になったりしたら困るから普通に越えようと判断し、地面に着地したと同時に駆け出して、氣を軽く込めながらジャンプして、3メートルぐらいまで飛び、そこから壁蹴りの要領で壁を蹴って垂直に飛んで壁のふちを掴んで、体を捻って飛び越えた。
飛び越えて、着地と同時に前転をして完全に衝撃をなくしながら一瞬にして立ち上がり駆け出した。
普通に足からも着地は出来たが、直ぐに次の動きを取れそうになかったからこういう方法をとった。
ゴールも残り僅かと言うところで、足元が光り、少し先の空に魔方陣が現れて、そこから先の丸い木製の槍が降ってきた。
立ち止まることも無く、この降ってくる槍の通れそうな道を見極めて、降ってくる槍の隙間を通り抜けてゴールした。
…この降ってくる槍と同じような感じで何回かじいちゃんの特訓があった。あれは、少し難しかったなぁ。
竹槍が同時に100本飛んできた時は思わずかわさずに全部叩き落としてしまったな。
じいちゃんの無茶ぶりを思い出しながら後ろを振り向くとまだ他の出場者は壁を登りきってこっちに降りてくるところだった。
そして、よく見ると応援をしてくれていた人達やシェリーさんがポカンと口を開けて唖然とした表情でこちらをジッと見ていた。
まぁ、確かに他の出場者より速かったがそれはじいちゃんとの特訓があったからだし、慣れていれば誰でもこれぐらいのスピードで来れるとは思うから唖然とするほどではないと思うけど。
それから少しして他の出場者もゴールしてきてが、出場者の皆も俺を唖然とした表情でジッと俺の顔を見つめてきた。
少し気まずくなって俺は視線を逸らした。競技を終えて、シェリーさんのところに戻る最中も他の出場者が何度かチラチラとこちらを見てきていた。
『え、えーっと…全員ゴールしました。そして、ダントツの1位でユリウスさんがゴールしましたが、すごかったですね。あのアースウォールが出てくるとこやエアボールなんて何で分かったんですか?』
シェリーさんにマイクを向けながらそう聞かれて、不思議には思ったが表情には出さず、
「エアボールはよく見ると分かると思いますし、一瞬にして地面が固くなったら何かあると思ってそこから避けると思いますよ?」
『……なるほど、そうですね。よく分かりません』
そうか、なら次に行こう。この事は終わりにして。
何とも言えない微妙な空気に気まずくなりながらそう思った。
『はい、それでは次に行きましょう。最下位の人と……4位の方はこっちに来て下さい』
シェリーさんが気を取り直すように言いながらくじを引いて、4位の人に決まった。
なんかごめんなさい。
『それではまず、最下位の…リファーさんには《恥ずかしかった話》をお願いします』
シェリーさんは、マイクを青髪を短くして無造作に整えて革の鎧を装備している冒険者の格好をしたリファーさんに渡す。
リファーさんは少し頭を掻いてから、
「俺の恥ずかしいなっと思ったのは、当時付き合っていた彼女にからかわれて、友人が見ている所で頬にキスをされた時かな。幸せだったが、せめて友人が見てないところでしてほしかった」
『幸せそうで何よりですね!…ノロケにしか聞こえませんでしたがまぁいいでしょう!それでは……っと、次に4位だったギルさんには《お尻叩き》ですね』
シェリーさんがそう言うと、しゃもじの形をした棒を持った兵士がギルさんの後ろに回り込んだ。
そして、シェリーさんがギルさんに何か言うことはないか聞く。
「皆……介抱は任せたぞ」
その言葉を最後にギルさんはスパァンという音をたてながら尻を叩かれて、少し浮いた。
『ギ、ギルさぁぁぁん!』
罰ゲームを終えて、立ち上がったギルさんはこう語る。
「そこまで痛くなかった」と。
次の競技はユウフスベルに戻ってやるからレイウスさんたちと一緒にユウフスベルに戻ろうと思って、レイウスさんたちの所に行くと笑顔を浮かべていた。
「凄かったな、ユリウス」
「ユリウスさんかっこ良かったですよ」
その他のメンバーからも口々に凄かったと言われて、嬉しいがあまり慣れていないため少し気恥ずかしくなって、俺は話を逸らすことにした。
「そんなことより、次はレイアとリリーアさんが出るのだろう?早くユウフスベルの中に戻ろう」
「ふふ、そうだな。戻ろうか」
レイウスさんは少し笑うだけで何も言わなかったが、ナーシャが「ユウお兄ちゃん、照れてる~」って言いながら体を突っついてきたから帽子の上から乱暴に頭を撫でてやった。
乱暴に撫でられたナーシャは楽しそうに笑うだけだった。
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自分達のテントに戻ってきて少ししてからレイアさんとリリーアさんが次の競技の為にシェリーさんの所に向かって行った。
『それでは次の競技…プロクレに移りたいと思いますが、その前にルール説明をします。プロクレは二人で1チームとなり、まずこのバトンを持った一人目の人が課題が書かれている紙があそこの箱の中にあるのでそれを取り出して、書かれた課題をこなして次の人にバトンを渡し、二人目の人が私たちが出題するクイズを解いてもらってそれでゴールとなります』
シェリーさんがルール説明をして、それぞれの位置に着いた。まず、一人目で課題をこなすのはレイアだ。クイズに答えるのがリリーアさんとなる。
今回が初出場となるレイアは緊張しているのか、少し震えているのがここからでも分かった。レイアの所には行けないがここから俺は声を出して応援をする。
「レイア!頑張れよ」
俺の声が聞こえたのか、レイアは俺の方を見て少し頷いた。震えはもう止まっていた。
…これなら大丈夫そうだな。
『それでは始めます。よーい、ドン』
掛け声と共に駆け出したが、レイアは後ろから3番目を走っている。
そして、レイアを応援しているのは俺たちだけではない。他のチームの人、レイアを知っているユウフスベルの住民全員がレイアを応援していた。
レイアを応援していないのはレイアをよく知らないプレイヤーだけで組まれたチームだけだ。
レイアが箱の置かれている机のところまで来て、箱の中に手を入れて、紙を1枚取り出して開いた。
その次の瞬間、レイアは動かなくなってしまい、少ししてから一気に顔を真っ赤に染めた。
どうしたのだろうか…と思っているとレイアが顔を真っ赤にしたまま俺の所に走ってきた。
「どうした?レイア」
「おおおお兄ちゃん、わ、私をお姫様抱っこしてくだひゃい」
緊張してしまっているレイアを落ち着かせる。
「とりあえず落ち着いてくれ。それで、レイアをお姫様抱っこは課題で出たのか?」
「う、うん」
目を逸らしながら頷くレイア。…まぁ、言いたく無いのならそれでもいいだろう。
レイアに近付いて、言われた通りお姫様抱っこをした。
「これでいいか?」
「………うん、良いです」
「そうか。なら、リリーアさんにバトンを渡しに行くか」
顔を赤くしたまま、俺の服に顔を埋めてしまっているレイアに「振り落とされるなよ」と言って、レイアに負担が掛からないようにリリーアさんの所に向かって走り出した。
俺がレイアを抱き上げたあたりからレイアへの応援がピタリと止まって、何故か暖かい眼差しで見守られた。
…結構恥ずかしいから止めてほしいのだが。
リリーアさんの所まで来た俺はレイアを降ろすと、レイアは顔を赤くしたままで、役目を終えて戻ろうとする俺の服を軽く引っ張る。
「あ、頭を撫でながら誉めて?」
「……それも課題の1つか?」
「うん、そうです」
相当恥ずかしいのか顔を赤くしたまま、涙目になりながらぷるぷると震えている。
まぁ、仕方ないか。
レイアの頭に手を置いて不慣れな手つきで優しく撫でながら、
「よく頑張ったな、レイア」
震えが止まり、 落ち着いた表情で頭を撫でられて居た。それから、少ししてから撫でるのを止めて、テントに戻ろうとする俺をリリーアさんとレイアが止めてきて、結局リリーアさんがクイズを全問正解してゴールするまでずっと一緒にいた。
それと、結果は2位だった。
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