25話
それぞれ頼んだ物を食べながらフリーデ達と談笑をして、お金を払って店から出て、フリーデ達と別れた。
フリーデたちはこの後、アルト達と合流してレベル上げをするらしい。
フリーデ達と別れた後、俺はナーシャとニーニャを愚者の住む森に素材を集めるついでに一緒に行くことにした。
「それじゃあ、ナーシャ。私は帰るけど頑張ってね。それとユリウス、ありがとうね」
「お礼を言うのはこっちだけどな。ニーニャのお陰でレイアたちを救えたわけだからな」
「私は何もしていないけどね」
そう言って、苦笑をするニーニャ。そこにナーシャが何も言わずに近づいて、抱き付いた。
まぁ、まだ子供だし寂しいのは仕方ないか。俺はそんな事を思いながら、抱き付いてきたナーシャの頭を優しく撫でるニーニャたちを見て、そっとその場から離れることにした。
ニーニャたちから離れた俺はハイポーションに使う素材を隠密をしながら探して、ある程度採れたからユウフスベルに戻って一旦ログアウトすることにした。
しかし、ユウフスベルに戻る途中でナーシャに出会った。
「ユウお兄ちゃん」
「ナーシャか、どうかしたのか?」
そう聞くと、ナーシャは何も言わずに俺に近づいてきて、
「お母さんがユウお兄ちゃんに渡してって」
そう言って、ナーシャが渡してきたのは、メダルのようなものだった。これは?
ナーシャに聞くと、どうやらバンビーナ族との友好の証で通行証でもある。
俺に渡してからナーシャは、「いつでも来てね」と言って、手を振りながら走り去っていった。
おい、前見て走らないと転けるぞ。
俺がそう注意するよりも先に出っ張っていた木の根に足を取られてナーシャは転けてしまった。
少し呆れながら助ける為にナーシャの所にいこうとするがそれよりも早くナーシャは起き上がって、何事も無かったかのように走っていった。
…見なかったことにするか。
そう思いながらユウフスベルに戻った。
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ユウフスベルに戻ってきた俺はすぐにログアウトをして、ヘッドギアを外してからベッドから降りて、時計を見ると13時を少し過ぎたぐらいだった。
それから一階に降りると、リビングで母さんはテレビを付けたまま寝てしまっていた。
そんな母さんを見て俺は起こすのも悪いと思い、俺は気配を消してそっと毛布を掛けてから自分の部屋に戻って出掛ける準備をしてから家から出た。
何処でご飯を食べるか少し考えてから、近くにある喫茶店に寄ることにした。
歩くこと10分、ノスタルジックで落ち着いた雰囲気のある喫茶店『エイデン』に着いた。
扉を開けるとチリンチリーンと鈴が店内に鳴り響き、奥からこの店のオーナーである高梨さんが出てきた。
「いらっしゃ…あら、冬冴くんじゃない」
「はい、高梨さん。こんにちは」
挨拶をかわしてカウンター席に座ると高梨さんが「いつものでいい?」と聞いてきて、俺は頷いた。
それから少しして、高梨さんがナポリタンをトレーに乗せて持ってきてくれた。
俺は早速フォークで麺を巻いて、息を吹き掛けて少し冷ましてから口に入れて咀嚼する。
うん、相変わらずおいしい。これで500円もしないのだから驚きだ。
そんな俺を見ながらニコニコしていた高梨さんだが、ふと思い出したかのように、
「今日は珍しく外食なんだね?」
「ええ、まぁ。母さんが寝ていたから、起こすのも悪いし外で食べようと思ったので」
「へー、そっか」と言いながら、コーヒーを淹れてくれる高梨さん。
俺がナポリタンを食べ終えたら高梨さんが食器を下げて、代わりにさっき淹れたコーヒーを出してきた。
俺はそれをお礼を言ってから受け取り、一口啜る。ふぅ、落ち着く。
コーヒーを飲み、一息ついてから店内を見渡す。ビックリするぐらい客がいない。
まぁ、これは俺が初めてこの店に来たときからそうだったが。
俺が初めてこの店に来たのは3ヶ月前で、その時は母さんが体調を崩していて、ご飯を作るのが無理そうだった為外食することにして、良いところをないか探しているところにこの店を見つけて、中に入ってこの落ち着いた雰囲気を気に入って、今となってはよく来るようになっていた。
そんな事を考えながら、ふと今更な事を高梨さんに聞いてみた。
「高梨さん、失礼を承知で聞くのですが…大丈夫なんですか?」
俺がそう聞くと、高梨さんは俺が言いたいことを察したのか、笑いながら、
「えぇ、大丈夫だよ。これも趣味の範囲内で副業みたいなものだからね。ちゃんと自分とこの店の経営を出来るくらいは稼いでいるよ」
「そうですか…いえ、すみません。失礼な事を聞いてしまって」
「ふふふ、いいのよ。冬冴くんはこの店の大切な常連さんだからね。潰れてしまわないか心配してくれるのは嬉しいよ」
「…俺の手伝えることがあったら言ってください。手伝うので」
「えぇ、その時はお願いするわ」そう言って、微笑む高梨さん。
俺はその後、高梨さんと話をしながらコーヒーを飲み干して、代金を支払って店から出た。
このまま家に帰るのもいいが少し考えて、散策してから家に帰ることにした。
俺は家とは反対方向に歩き始めた。
俺が住んでいる所はのどかで、昼だというのに人通りも少ない。 やはり、良いところだな。そう思いながらあてもなくブラブラと歩く。
ゲームの中とはいえ忙しくて、騒がしかったからな。
嫌いでは無いけど、今みたいに落ち着いた時間もたまにはあっていいと思う。
それから少し遠くまで歩いてきたな、そう思いそろそろ帰るかと考えていると、女性と男性が言い争う声が聞こえてきた。
ケンカか?そう思いながら声がした方向を見ると、二人の女性を囲むように柄の悪そうな男たちが四人くらいで囲んでいた。
…何でこう、俺の行く先で面倒事が起こるわけ?せっかくさっきまでいい気分だったのに台無しじゃないか。
まぁ、助けるんだけどな。知り合いだし。
助けるために近付き、二人の女性…中学の時の同級生で浜口と西條が俺に気付いた。
浜口は男勝りな性格で誰にたいしてもフレンドリーに接する。その反対で西條は内気でいつも一緒にいる浜口の後ろに隠れたりしている。
「浜口に西條、何やってんだ?」
「笹崎くん」
「あ?何だお前は?」
俺が声をかけて不良たちが俺に気付いた。俺は、不良たちに聞いた。
「こいつらは俺の知り合いなんだ。遊ぶ約束でもしていたのか?」
「そんなわけないでしょ。ナンパよナンパ」
俺が不良たちに聞くと、後ろにいる浜口が呆れたように言った。
「まぁそうだろうけど、一応聞いてみただけだ」そう浜口に言ってから不良たちに、
「嫌がってるんだから諦めて他の奴にしな」
「うるせぇよ。しゃしゃり出てくんなや」
一番前にいた不良が殴りかかってきた。いきなりだな。
俺はかわすことも防ぐこともせずにワザと殴られる。
拳が俺の顔に叩き込まれて、後ろにいる浜口が驚いたように俺の名前を言って心配そうにしているが、
「うぐぁっ」
俺を殴ったはずの不良が手を押さえて踞ってしまった。
俺はじいちゃんに鍛えられたおかげで、体は堅いんだ。
そして、俺は不良たちを威圧しながら、
「もう一度だけ言う。諦めてよそに行け」
踞っている仲間を起こして、そそくさと離れていく不良を見ていると、浜口と西條がお礼を言ってきた。
「ありがとね、笹崎くん。アイツラしつこくてさ」
「あ、あありがとうございます」
「気にしないでくれ、たまたま通りかかっただけだからな」
そう言って、その場から離れようとするが、服を掴まれる。
…離してくれ。俺は帰るんだ。
「何かお礼をしたいからついてきて」
「いや、いい。俺は帰る」
「まぁまぁ、そう言わずにさ。行くよ、麻佑」
「う、うん」
有無を言わさずそう言って、俺は浜口に無理矢理引っ張られ、その後ろから西條が後を追うように歩き始めた。
…わかったから、ついていくから手を離してくれ。
それから歩くこと数分、最近出来たというショッピングモールに来た。
へぇー、こんなところに出来ていたんだ。
まぁ浜口に何か言ったところで帰してもらえないだろうし、ここまで来てしまったし、諦めて最後まで付き合おうか。




