23話
大変遅くなってすみません。
ノエルとも別れて、さてユウフスベルに帰ろうと思っていると、ナーシャが俺に話しかけてきた。
「ちょっと待って、ユウお兄ちゃん」
「何かあるのか?」
そう聞くとナーシャは頷いてから、
「うん、ユウお兄ちゃんについていってもいいかお母さんに聞いてみるから待って」
まぁ、そうだよな。俺が無理を言っているんだから、親に聞かないといけないわな。
あぁ、いいぞとナーシャに言うと、ナーシャは額を指で2回叩いて、「コール」と呟いた。
それから少しの間無言になるナーシャ。俺はその間ステータスを確認したりしていた。
あまりレベルは上がっていなかった。まぁ、仕方ないか。
ステータス確認を終えて少ししてからナーシャも終わったのか、ため息をついていた。
「終わったのか?」
「うん、終わったのは終わったのだけど…」
なにやら言いにくそうにしているナーシャ。何かあったのだろうか?
面倒事なら嫌なんだが。
「何かあるのか?」
「それが…」
ナーシャが何か言うより前に後ろから飛んできたナイフを俺は掴んだ。
誰だ?
「驚いた。反応できないと思ったんだけど」
「お前がこれを投げたのか?」
「えぇ、そうよ」
声がした方向に顔を向けると、そこにはナーシャと似たようなローブを着た中学生くらいの少女だった。
…ナーシャに少し似ているな。姉か?
「お母さん!」
…お母さんか。まったくそうは見えないが、まぁいいか。俺の母さんも似たようなものだし。
「久しぶりね、ナーシャ。元気にしてる?」
「してるよ」
「そう、良かった」
そう言いつつナーシャに近寄る母親。ナーシャも母親に走り寄る。
と、思っていると母親はいきなりナーシャに拳骨をした。
「うぐっ」
「どうせお菓子ばかり食べてダラダラしているんでしょ。まったく、もう少ししゃんとしなさい」
いや、決めつけるのは良くないと思うが…
「はい、ごめんなさい」
図星だったのかしゅんと落ち込んだように謝るナーシャ。しかし、母親は微笑んでからナーシャを抱き寄せる。
まぁ、せっかくの再会のようだし少し待つか。
それから少しして、母親の方が話しかけてきた。
「今更だけど、あなたがナーシャの言っていたユリウスね。私はナーシャの母親でニーニャよ。よろしく」
「ユリウスだ。こちらこそよろしく」
自己紹介も終えて、早速本題に入る。
「と、その前にご免なさいね」
「何がだ?」
俺が聞き返すと、ニーニャは最初に俺に向かってナイフを投げたことだと言う。
別にその事なら俺は気にしていない。たぶんだが俺を試したんじゃないのか?そう思い聞いてみると、ニーニャは驚いた様子もなく「そうよ」と言った。
「それで、合格なのか?」
「そうね。合格だけど、私もついていくわ」
何となく理由は分かるが聞いてみる。
「私も興味があるからよ。それとナーシャが心配だし」
ナーシャはついでかよ。そう思ったが口には出さず、拒む理由はないし、それにナーシャもニーニャがついてくることに嬉しそうにしていたから了承した。
俺としても都合がいいしな。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ナーシャとニーニャを連れて、歩くこと数分。ユウフスベルについて中に入った俺だったが、なかなか進めないでいた。
理由は単純で、
「ユウお兄ちゃん!あれは何?」
「ユリウス、あれは何なの?」
ナーシャとニーニャが物珍しそうにあっちやこっちやに勝手に行くからだ。
初めて来る場所で、ナーシャ達の種族が閉鎖的だからすべてが珍しく写るのは分かるんだが、後にしてくれないか。
そう思い、ニーニャに言い聞かせてからまた何処かに行こうとしているナーシャを引き留めて、言う。
ナーシャは少し不満そうにしていたが、後でちゃんと案内してやるからと言うと嬉しそうにして、頷いた。
そうしていると、街の住民たちにはどう写ったのか分からないが、でも微笑ましそうに俺たちを見てくるのは分かった。
やっとレイアやロドリゲスが待っている城に着いた。すると、城門でレイアとチャロットが待っていて、レイアは俺が来たことに気付くと嬉しそうにしながら寄ってきた。
「あ、お兄ちゃん」
「レイアか…いいのか?外にいても」
「大丈夫よ」
そう言ってくるのは、チャロット。まぁ、それならいいか。
そして、レイアたちにニーニャたちを紹介しようと振り返るとニーニャがレイアを見て、驚いたような表情を浮かべてからすぐに同情するような表情を浮かべていた。
レイアに何かあるのか?
そう思ったが、まずはレイアたちに紹介してそれからニーニャに聞いてみよう。
「レイアにチャロットさん、俺の後ろにいるのはバンビーナ族のナーシャとニーニャだ」
「ナ、ナーシャ…です」
「初めまして、ニーニャと言うわ。よろしく」
ナーシャは初めてあった俺以外の人に人見知りをしているのか、何故か俺の後ろに隠れながらレイアたちに挨拶をしていた。
…ニーニャの方に行けばいいのに。何で俺なんだ。
レイアはそんなナーシャが可愛く思えたのか、目をキラキラさせながら今にも抱き付きたそうにしている。
「初めまして、ナーシャちゃんにニーニャさん。レイアって言います。よろしくお願いします」
「ふふふ、私はチャロット言います。よろしくね、ナーシャちゃんにニーニャちゃん」
自己紹介も終えて、俺とナーシャたちはチャロットたちと一緒に城の中に入っていく。
その途中、俺はニーニャに近寄りさっき何で同情するような表情を浮かべていたのか聞いてみたが、ニーニャは「後で皆の前で言うわ」と言った。
それならいいか。
そんなやり取りをニーニャとしていると、王の寝ている寝室に着いて、チャロットがノックをしてから中に入った。
中に入ると、リリーアさんが国王の近くの椅子に座って髪を撫でていた。
「お母さん、お兄ちゃんが帰ってきたよ」
そう言いながらリリーアさんのところに走っていき抱き付いた。
そんな様子を見ていると、俺はふと思った。ロドリゲスは何処に行ったんだ?
チャロットに聞くと、どうやらロドリゲスは兵士達のいる訓練所に行っているらしい。
まぁ、ロドリゲスはいいか。取り敢えずリリーアさんにこの薬を渡そうか。
そう思い、歩き出す前にニーニャがリリーアさんに近寄った。
何かあるのか?
「少しいいですか?」
「あら、貴女は?」
「私は、バンビーナ族のニーニャと申します」
「ニーニャちゃんね、私はリリーア、今ベッドで寝ているこの人の妻です」
ニーニャはお互いの自己紹介を終えて、いきなり本題に入った。
「突然だけど、その人の呪いは私が解くわ」
いきなりの申し出に俺だけではなく、リリーアさんも驚いたような表情を浮かべていた。
なんのつもり何だ?
「これは、私の同情心よ」
「同情?」
リリーアさんが不思議そうにする。俺も同じような気持ちだ。…あぁ、レイアか。でも何でレイアに同情するんだ?初対面の筈だろ?
「リリーアさん、この子は貴女とそこに寝ている人との間に生まれた子供ですよね。それと、悪魔…魔族を倒したことはありますか?」
「え、えぇ、夫が昔に1度だけこの国に攻めてきた悪魔を倒したわ」
それを聞いたニーニャは少し言いにくそうにしてから、
「この子…レイアにはケツァルコアトルの呪いが掛かっているわ」
「ケツアゴコワレトル?」
……。
ナーシャのアホな発言で静寂に包まれるなか、ニーニャはナーシャに近寄って、前より強めに拳骨をナーシャにしていた。
そして、痛みで涙目になって悶えているナーシャの頬をつまみ左右に強く引っ張りながら、
「ナーシャ、今お母さんたちは真剣な話をしているの。だからちょっと静かにしていてくれないかな」
「ふぁい」
ナーシャに言い聞かせて、ニーニャは仕切り直した。それとナーシャは言われた通り大人しくしていた。
「ケツァルコアトルの呪いは悪魔を倒した者の子孫にごく稀に顕れる呪いで、この呪いに掛かった人は生まれつき体は弱く、そして必ず15歳を迎える前に亡くなってしまう」
それが本当だとしたらやばくないか?レイアはもう14歳とチャロットが言っていたし。誕生日がいつか分からないが、あまり時間は残っていないだろう。
リリーアさんも焦った様子でニーニャにどうにか出来ないのか聞いている。
だが、ニーニャの答えは残酷なもので、
「ご免なさい。私たちにはどうすることも出来ないの」
そう言って、俯いてしまうニーニャ。本当にどうすることも出来ないのだろうか。
何か方法はないのだろうか?