22話
遅くなってすみません。
少し悔しそうな顔をしているナーシャを地面に降ろした。
「…何で私の隠れている場所が分かったのですか?」
俺はどう答えるか少し考えてから、隠さずに言うことにした。
「声が漏れていたぞ」
「え?」
「だから、偽装は完璧だったがお前の独り言が聞こえてきたんだよ」
ナーシャの隠れている小さな歪みを樹洞に偽装する発想までは良かったのだが、防音をしていなかったのかナーシャの独り言が聞こえてきて、気付くことができた。
と、そんな事を考えているとナーシャは顔を真っ赤にしてとんがり帽子で顔を隠すように深く被り、座り込んでしまった。
「…ちなみになんですが、どんな事が聞こえてきたのですか?」
「『それに、やっぱりまだ私慣れていないんだよね』という辺りから。それと別に無理して敬語を使わなくてもいいぞ」
「ほぼ最初っからじゃないですか!」
あとナーシャ、ユウお兄ちゃんのバカとボソッと言ったのちゃんと聞こえているからな。
俺は何も悪くないはずなのにな。まぁ、気にしないが。
俺はそれ以外にも独り言を言っていたのを聞いていたが、言わずナーシャが落ち着くのを待った。
「この事は誰にも言わないでください」
少ししてからやっと落ち着いたナーシャはまだ少し顔を赤くしながら俺にそう言ってきた。
言わないから安心しろ。
それから少し気まずい空気が流れたが、気を取り直すようにナーシャが話しかけてきた。
「そういえばユウお兄ちゃん、ノエルちゃんは何処に隠れていたの?地面に穴が掘られていたからそこの下にいるとは思ったんだけど」
そう聞いてきたナーシャに、俺はノエルを迎えに行こうと思っていたところだったからナーシャに付いて来るか聞くと、ナーシャは頷いた。
それから少し歩いて、駆竜が居る俺の上着を置いてあった場所まできた。
そして、俺は上着を取ってノエルに声をかけた。
ひょこっと顔を出してから俺の手に飛び移るノエルを見て、ナーシャは愕然とした表情を浮かべていた。
「え?さっきまで居なかったよね?」
「いや、ずっとこの上着の中に居たぞ」
「え?この穴の中に隠れたんじゃ…」
「いや、ノエルは穴を掘ってからまた服の中に戻ってずっと隠れていたぞ」
俺が種明かしをすると、ナーシャは呆然としていた。まぁ、惜しいところまでいっていたのにな。もう少し頭を捻ればナーシャが勝っていただろう。
ブツブツと何か呟いているナーシャをほっといて、俺はノエルに怪我がないか聞く。
ノエルはコクっと頷いてから、小さく胸の前で手を握りしめてガッツポーズをする。
怪我はなくてむしろ少し楽しかった。と、何となくノエルが言いたいことが伝わってきた。それなら良かった、怪我が無くて。
怪我が無いことがわかって、俺は少し安心をする。
ノエルとそんなやり取りをして、手の上からノエルに退いてもらってから上着を着る。俺の頭に乗って髪を引っ張って遊んでいるノエルに降りてもらおうと手を伸ばそうとしたところで、ナーシャが復活して俺に声をかけてきた。
「ちょっと悔しいけど、この遊…勝負はユウお兄ちゃんの勝ちだね。だからはい、どうぞ」
別に言い直さなくても良くないか?そんな事を思ったが言わずに、ナーシャが差し出してきた小さな瓶に入った薬のようなものを受け取る。
これは?
「それはユウお兄ちゃんが欲しがっていた、私たちの呪いを解呪出来る薬だよ」
「そうか、ありがとうな」
俺がナーシャにお礼を言うと、ナーシャは嬉しいそうに笑顔を浮かべた。と、そうしていると頭に乗っていたノエルに髪の毛を強く引っ張られた。
ノエル、いきなり強く引っ張るなよ。
俺がノエルが乗れるように掌を上にして手を伸ばすとそれにノエルが乗っかり、目の前まで降ろすとノエルはむーっとちょっと不満そうな表情を浮かべていた。
何がそんなに不満なんだ?
少し考えてから、そう言えばノエルにはまだ怪我がないか聞いただけでお礼を言ってなかった。
一番の功労者なのに何やっているんだ、俺は。
「お礼を言うのが遅れたよ。ありがとうな、ノエル。お前のお陰で勝てたよ」
俺がお礼を言うとノエルも機嫌が直ってふにゃっと破顔するが、まだ何かしてほしいのか、というか頭を撫でてほしそうな仕草をする。
最初は怖がられたのに結構なつかれたなーと思いながら、ノエルの要望というとこもあり、俺はノエルの頭をもう片方の手で撫でた。
ノエルは目を閉じてされるがままになる。
それから少しして、もうそろそろユウフスベルに戻ることにする。
その旨をナーシャとノエルに伝える。ナーシャは、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「もうそんな時間なんだ。じゃあ、ユウお兄ちゃんお元気で、また何処かで会えるといいな」
「何言っているんだ、お前にも付いてきてもらおうかと思ってあるのだが」
そう言うと、ナーシャはビックリした表情を浮かべながら、
「え?何で?」
「信用していない訳じゃ無いのだが、一応ちゃんと呪いが解けたかどうかナーシャに確認してもらうためなのと、ナーシャはまだ町とかに行ったことないのだろう?」
そこまで言って、俺は表情には出していなかったが内心でしまったと思っている。
「何でユウお兄ちゃんがそれを知っているの?私は言ってないよ?」
さて、どう答えようか。…はぐらかすか?
「いや、何となくな。そんな気がしたんだ」
「誤魔化さないで、ユウお兄ちゃん」
「…分かった。お前のためを思って言わなかったんだが…お前全部声に出ていたぞ」
「何が?」
怪訝そうな表情を浮かべながらそう聞き返してくるナーシャに、
「だから、お前は思っていただけなんだろうけど、全部声に出ていたからな」
「………ほぇ?」
ようやく理解してきたのか、みるみると顔が赤くなっていく、ナーシャに俺はさらに、
「俺の手ってそんなに包容力がありそうで、頭を撫でられたら気持ち良さそうなのか?」
そう呟きながら自分の手を見る。
その言葉がトドメとなったのか、ボンっと音が聞こえそうなほど顔が一瞬にして真っ赤になり、
「ユウお兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁ!」
泣き出してしまった。
泣いているナーシャを宥めようと思うがどう宥めればいいのか、あまり経験がない為分からない。
本当に、どうすればいいんだ?
結局、俺はナーシャが落ち着くまで待った。それで、大分落ち着いたナーシャが、俺に話しかけてきた。
「ユウお兄ちゃん、このことは忘れてください」
土下座をする勢いで懇願をしてくるナーシャ。誰にも言わないから安心しろ。
そう言うと、ナーシャは少しムッとしたが信用してくれたのか少しだけ安堵していたが、ノエルがいないことに気が付いて俺に聞いてきた。
「あれ?ユウお兄ちゃん、ノエルちゃんは?」
「分からない。最初は俺に着いてきたそうにしていたが、俺が何とか説得をするとどこかに行ったぞ」
「そうなんだ」
ナーシャが落ち着いたし、そろそろ町に戻るかな。
そんな事を考えていると、ノエルが何かを持って走って戻ってきた。
俺のところまで走ってきて、息を整えてから木でできた笛のような物を差し出してくる。
何だ、これは?
俺が不思議そうな顔をして見ていると、ナーシャが驚いたような表情を浮かべた。
何か知っているのか?
「ユウお兄ちゃん、それは精霊樹の笛って呼ばれる物だよ。それを特定の場所で吹くと精霊の住処に繋がる道が出来るんだよ。それに、友情の証しでもあるから珍しいんだよ」
へぇー、そうなのか。
俺はノエルから精霊樹の笛を受け取り、お礼を言う。すると、ノエルは照れたように笑ってから、手を振りながら走り去って行った。
〈精霊樹の笛〉
精霊界と人間界を繋げる道を作り出す笛。人間界では友情の証と認識されているが、本来は親愛の証である。精霊がこの笛を持ってくるのは大変珍しい。
…俺ってノエルにそんなに好かれるような事ってしたっけ?まだ会って数時間くらいしかたっていないのだが。
まぁ、考えていても仕方ないか。また機会があれば精霊の住処ってところに行ってみたいし、その時にノエルと会ったら聞いてみればいいか。答えてくれないかも知れないけどな。
まぁ、色々とあったが何とか解呪が出来る薬を手に入れることが出来たし、俺はナーシャを連れてユウフスベルに戻ることにした。
20話で、ノエルの体の大きさで50センチは結構大きくて話に矛盾が出来てしまいそうなので20センチに変えました。すみません。