20話
遅れてすみません。
取り敢えず俺はこの幼…子供を地面に降ろした。
その間もジーっと俺の顔を見てポカンとした表情を浮かべていた。
…何だこの状況。気まずいんだがどうすればいい?
たぶんだがコイツがバンビーナ族の一人だとは思うんだが…何でこんな幼…いや子供が一人で森に居るんだ?
まぁ、聞いてみればいいか。
「なぁ」
「はい?」
「ここで何してたんだ、一人で」
そう聞くと、キョトンとした顔をしてから何かに気付いたようにハットしたような表情を浮かべて、俺を睨みつけるように見上げながら、流れるような動作で土下座をした。
いや、何でだよ。
「私は悪い子ではありませんので、食べないでくださいです」
「食べないし、俺は何をしているのか聞いただけだ」
「ほんの出来心だったのです。お小遣いがなくなったけどお菓子が欲しかっただけなのです」
「人の話を聞けよ」
土下座して謝り続けるコイツを何とか落ち着かせて、ちゃんとした話が出来るようになったのは30分後のことだった。
この子供…ナーシャと話して分かったことは、今は母親の言い付けでこの近くにあるバンビーナ族の村に人が来ないように見張りをしていたらしい。
それで、お菓子を食べようと手に持った瞬間誰かにローブを捕まれて引っ張り出されて、食べられると思ったナーシャは土下座をして謝ったとのこと。
事情は分かったが、ナーシャのような子供一人に見張りを任してバンビーナ族は大丈夫なのか?
話を聞いた俺は、俺がレイアスさんに貰ったお菓子を嬉しそうに笑顔を浮かべながら食べているナーシャを見ながらそんな事を思った。
それから、ナーシャがお菓子を食べ終えるのを確認してから俺は本題に入ることにした。
「それでナーシャ、お前に頼みたいことがあるんだが」
「何ですか?」
「バンビーナ族の呪いってあるだろ。それを治す秘薬が必要なんだ。貰えないか?」
「駄目なのです」
俺がそう言うと、ナーシャは真剣な表情を浮かべてキッパリと断った。
そんなに大事なものなのだろうか。
「どうしてもか?」
「はい、ユリウスさんにはお菓子を貰いましたし、私としては渡したいのですが、私たちバンビーナ族は温厚な性格の種族でそう簡単に呪いはかけないのです。それにバンビーナ族は仲間を…家族を一番大切にするのです。だから、バンビーナ族に呪いをかけられる程のことをしたその人には秘薬を渡せないのです」
真剣な表情を浮かべて、真っ直ぐと俺の目を見て言うナーシャにどれだけ言っても自分の意見は変えないだろう。力尽くで貰うのはもっての他だしな。
仕方が無い。別の方法を考えるか。
「そうか…別の方法を探すか。悪かったな、無理を言って」
「…え?」
そう言いながら立ち上がって、立ち去ろうとするとナーシャは驚いたような顔をしていた。
何をそんなに驚いているんだ?まぁ、何となく分かるが。
「奪わないのですか?」
「何のことだ?」
「私のお母さんが言っていたのです。外の人たちは悪い人ばかりなので気を付けなさいって。だからユリウスさんも悪い人で、力尽くで秘薬を奪ってくるのかと思っていたのですが」
そう言いながら涙目になって体を小さく震わせていた。よっぽど怖かったんだな。
そりゃそうか。母親の言い付けとはいえ、一人で危険な森にいたんだ。それによく気丈に振る舞っていたな。
「そんなアホなことはしない。それによく頑張ったな」
俺がそう言うと、ナーシャは褒められたのが嬉しかったのかパァッと笑顔を浮かべたがすぐに、少しムッとしたような顔をして、
「当たり前です。それと子供扱いしないでください。私は立派な大人なのでこれくらい余裕なのです」
そう言いながら胸を張るナーシャ。しかし少しだけ顔がニヤけていた。
いや、子供だろと思ったが口には出さず「そうだな」と言った。
「そんなユリウスさんに朗報です」
「何だ?」
「お兄ちゃんと呼んでもいいですか?」
いや、意味わからん。それのどこが朗報だよ。まぁ、好きに呼べばいいけどさ。
そう言うと、嬉しそうな顔をしてから、
「ではユウお兄ちゃん、これから遊…いえ勝負をしましょう」
遊ぼうと言おうとしてなかったか?そう思ったが、ナーシャが話を進めようとしてるから気にしないことにして、聞き返した。
「勝負?」
「はい」
「俺がナーシャと闘うのか?」
「いえ、普通に闘ったら私が土下座して降参するのが先か、私がフルボッコにされて負けるのが先かなので勝負にならないので別のことです」
…うん、確かにそうかもな。なんか悪かった。
「それで、何で勝負するんだ?」
そう聞くとナーシャは胸を張りながらドヤ顔で、
「ふふん、かくれんぼです!」
そう言った。
…やっぱりお前、遊びたかっただけだろ。言い直した意味あったのか?
そう思ったが、口には出さなかった。
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「でも、普通のかくれんぼとは違います」
「どう違うんだ?」
そう聞き返すと、ナーシャは頷いてから、
「まず二人ペアになり、それから隠れる人と探す人を決めます。決まったら、それぞれ隠れる人が隠れるのを待ち、合図が上がったら始まります。そして、相手より先に隠れている人を見つけたペアの勝ちです」
「合図は誰が上げるんだ?」
「私の幻影魔法でここにいるモンスターを操って公平な審判として使います」
なるほどな。ルールは分かったが、俺たちが組むペアはどうするんだ?そう思い、ナーシャに聞くと、
「それも大丈夫です。幻影魔法『ファントムマインド』」
そう言った瞬間、ナーシャの周りにウッドパペットや鳴き女など、俺が戦ったことのあるモンスターが集まってきた。
その中に、少し前に戦ったボスモンスターのあの駆竜もいた。
「この中からユウお兄ちゃんにペアとなってもらうモンスターを決めてもらいます。ちなみにですが私はこの子です」
そう言いながらあの駆竜に近付いて、ぺちぺちと叩く。
やっぱり、あの時はナーシャがこの駆竜を操っていたんだな。
よし、俺も早く決めてしまおう。
俺は並んでいるモンスターの前を歩きながら、どのモンスターとペアを組むか考える。
たぶん、ナーシャが隠れて駆竜が探すのだろう。だったら俺は体の小さいモンスターと組みたいのだが…どうしようか。
なかなか決まらないなか、ふとウッドパペットの後ろに隠れているモンスター?に気が付いた。
怯えたように俺を見ているそのモンスターは20センチくらいしかなかった。
俺はナーシャに聞いてみる。
「ナーシャ、コイツは?」
「はい、その子はノームという土の精霊です」
精霊か。
モンスターじゃないが、俺はこのノームとペアを組むことにする。
じゃないと勝てそうにもないからな。
俺はまだ怖がられているノームにそっと手を伸ばす。
ノームはビクッと体を震わせてウッドパペットの後ろに隠れてしまうが俺はそのまま手を伸ばしたまま待つ。
すると、ノームはウッドパペットの後ろからそーっと顔を覗かせて、恐る恐る出て来てから俺の顔と手を交互に見比べる。
そんなノームに俺は怖がらせないように、優しく声をかける。
「怖がらなくて大丈夫だ。俺とペアを組んでくれないか?」
声をかけられたことにビックリしたのかまたウッドパペットの後ろに隠れてしまったが、顔だけは覗かせていて俺の顔を見てくる。
少しの間そうしていたが、俺の願いが通じたのかわからないが、ゆっくりと俺の差しのべている手に近付いて、ペタペタと触ってから飛び乗った。
「待たせて悪かったな。決まったぞ」
「はい、では早速始めましょう」
俺とノーム、そしてナーシャと駆竜は隠れる場所を探す場所を探し始めた。
さて、行くか。
※12/25、この後の展開でノエルの大きさで矛盾が起きてしまう場面が出てきてしまったので大きさを50センチから20センチに変えさせていただきました。