17話
遅くなってすみません。
「ひっ!」
モンスターが現れて、レイアはそんな悲鳴を上げながら少し後ずさった。
レイアを落ち着かせるために俺はモンスターとおっさんを牽制しながら声を掛ける。
「大丈夫だ。怖がらなくてもいい、ちゃんと俺が守る」
「で、でも…」
「別に信じろとは言わない。でも、俺は味方だ。頼ってはくれ」
「GYAOOOOOOOO!」
そんな叫び声を上げながらモンスター…もう駆竜でいいか、が俺たちに向かって突っ込んでくる。
恐怖で縮こまったレイアを俺は素早く抱き抱え、その場から離れるが、そこにおっさんが斬りかかってきた。
その攻撃を半身になって避けながら俺は、
「仮にもおっさんたちは元騎士だったんだろ?守るべき相手に攻撃を仕掛けてどうするんだ」
「貴様っ、どこでそれを!?」
「まぁ、俺にはおっさんたちの事をよく知っている人が居るんでね、ソイツからだ」
それに、お前たちの元上司だ。
「…なるほど。こうなっては生かしてはおけん、レイアもろとも死ね、そして、その後、その俺たちをよく知っているっていう相手も始末しておく」
「それが出来るとでも?」
俺は、最大限の氣を込めながらおっさんたちを威圧する。少し、気圧されるおっさんたちだが、気丈にも何とか持ちこたえる。だが、足が震えている。
それに、おっさんたちが束になってもたぶんロドリゲスは倒せないと思う。
と、そこに駆竜がブレスを吐いてくる。
ちょっと待とうか、お前ブレス吐けるのかよ。その鋭利な爪は使わないのかよ。
予想外な攻撃だが、俺は素早くその場から離れることで何とかしたが、おっさんたちは巻き込まれて吹き飛んでしまった。
死んではいないだろう。そのまま気絶でもしといてくれ。
俺が避けた場所に駆竜が爪で攻撃を仕掛けてくる。おんぶしているレイアに攻撃が当たらないよう気を付けながら避けたり、片手でレイアを支えながら片手に手に氣を込めてから受け流したりする。
だがそれ以上は出来ない。こっちから攻撃をすると、レイアに負担が掛かってしまうから。
だから俺は、駆竜の隙を見て、ユウフスベルにレイアと共に戻らないといけない。
…やっぱりこの条件、厳しすぎだろ。
あれから30分たった今でも俺は駆竜の攻撃を避け続けていた。こいつ、中々隙を見せないんだ。
俺はまだまだ余裕はあるが、レイアに限界が近づいていた。元々体が弱いこともあって、そろそろレイアの手に力が入らなくなっていた。
俺は避けながらレイアに声を掛ける。
「もう少し持ちそうか?」
「すみません、もう無理そうです」
そう言いながら苦しそうな表情を浮かべる。俺はそんなレイアを見ながら考える。と、そこでふと俺は思い出す。
そういえば俺、いろいろ調合で作っていたな。それを使うか。
そう思い至った俺はすぐにレイアに声をかける。
「レイア、俺が指示を出したら息を止めてくれ」
「はい、分かりました」
不思議そうな顔をしながらも、了承をしてくれた。
俺は、駆竜からの攻撃を避けながらイベントリからパラライズボールを取り出す。
爪を降り下ろして来た駆竜の攻撃を受け流して、俺はレイアに声を掛けて、パラライズボールを投げた。
割れたボールから黄色い煙が出る。
駆竜はいきなりのことにビックリして、離れてしまった。レイアは指示通りちゃんと息を止めていたから俺はこの隙をつき、素早くボス部屋の扉まで来て、蹴り開ける。
その際、おっさんたちが気絶から起きそうになっていたから俺はフェアゲッセンボールをぶつけてやった。
扉が開かなかったらこの駆竜を何とかして倒すしか無かったが、予想に反して扉は開いたから俺は素早く外に出て、レイアを休ませることにする。
「大丈夫か?」
「はい、何とか」
【隠密】を使いながら俺は木の陰に隠れながらレイアを降ろして、休ませる。
今のところ、俺たちの周りには敵は居ない。
それから俺は少しして、レイアに話しかける。
「レイア、お前のことはチャロットから聞いている、体が弱い筈なのにが何で外に出たんだ?」
「お姉ちゃんを知っているの!?」
周りを警戒しながらレイアにそう聞くと、俺がチャロットの名前を出すと、身を乗り出すように聞いてきた。
「あ、あぁ。知っているが…どうかしたのか?」
「あの…私をお姉ちゃんの所に連れていってもらえませんか?」
俺は元からそのつもりだったしレイアが真剣な表情を浮かべてそう言ってきて、断る理由もないからすぐに了承をした。
すると、レイアは「ありがとうございます!」とお礼を言って頭を下げてきた。
「気にするな。元からそのつもりだったからな、それに何か事情があるんだろ?」
「はい、それでも言わせてください。ありがとうございます」
背中がむず痒しくなって、俺はもう大分回復しただろう。そう思いレイアに聞いてみると、「はい、もう大丈夫です」と少し笑いながら言ってきた。
レイアが笑った理由はよく分からないが、回復したなら行くか。俺たちが立ち上がった瞬間、
「GYAOOOOOOOO!!」
そんな叫び声と共に何かが飛んでくる気配がした。
俺は素早くレイアを抱き上げて、その場から離れる。
俺たちが離れた瞬間、さっきまでいた場所にアイツのブレスがぶつかった。
やっぱり状態異常にはならなかったか、そう思いながら俺はボス部屋から出て俺たちを追いかけてきた駆竜に背を向けて、ユウフスベルに向けて走り出す。
「もう少しの辛抱だ。我慢してくれよ」
「はい、頑張ります!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
レイアをおんぶして森の中を駆け抜けている俺だが、ふと思ったことがある。
…このままユウフスベルに行っても騒ぎになるよな?
「なぁ、レイア」
「何ですか?」
「このまま街に言っても騒ぎになるよな?」
「…なりますね、確実に」
やはりそうか、どこかでコイツをまかないといけないのだが…そんなチャンスあるか?
そう思いながら俺はチラッと後ろを見ると、
「GAAAAAAAAA!」
そんな叫び声を上げながら、木を薙ぎ倒しながら俺たちの少し後ろを追いかけてくる駆竜。
…出来るか?
俺はどうすれば切り抜けられるか考える。
一番早いのは、レイアを降ろして駆竜を倒す事だが、それだとレイアを守るやつが居なくなって危険だから駄目。
アイテムを使うにしても状態異常にコイツがかかりそうにもないから駄目。
いや、まだそうと決まった訳じゃないし、出来るだけのことはやってみるか。
そう思い俺は立ち止まり、振り返る。
レイアは俺の予想外の行動に驚いて、訝しそうな顔をして、「お兄ちゃん?」と、言ってきた。
俺は出来るだけ短く簡潔にこれからやることをレイアに伝えた。と言っても「さっきみたいに合図したら息を止めてくれ」と言っただけだが。
駆竜との距離があと数メートルになった所で俺はレイアに指示を出して、レイアが息を止めたのを確認してからイベントリからスリープボールを取り出して、駆竜にぶつける。
突然の攻撃に駆竜は少し怯み、そしてスリープボールが割れて青色の煙が勢いよく出始めた。
それから俺は直ぐに少し離れた木の陰に息を潜めて隠れた。
駆竜は俺たちの事を見失ったらしく、少しの間キョロキョロと周りを見たり、ブレスを吐いたりしたが諦めて、帰っていった。
何とかなったか。
それから俺たちは【隠密】をしながらレイアと共にユウフスベルまでゆっくりと駆竜に気付かれないように戻った。