15話
工房に着いた俺はさっそく受け付けに寄る。すると、昨日と同じ人がしてくれた。
もしかして、この人しか居ないのか?
「あ、昨日の」
そう言ってくる、受付嬢。俺の事を覚えていたんだな。
「3時間お願いします」
「はい、畏まりました。300Gになります」
俺は300G払う。それと、この人とは長い付き合いになりそうだから名前だけでも聞いておくか。
そう思い、受付嬢に名前を聞くと、少し驚いたような顔をしてから名前を教えてくれた。
「私はリンダって言います。よろしくお願いします」
「俺はユリウスだ。こちらこそよろしく」
「はい、ユリウスさん。良い生産を」
そう言って、笑顔を浮かべるリンダに俺は「ああ」と言って鍵を受け取ってから指定された部屋に向かった。
部屋は前と同じところだった。
部屋に入った俺はすぐに生産に取り掛かった。
…でも、何か忘れているような気がする。何だったっけ?
まぁ、良いか。ハイポーションの調合に取り掛かろう。何が必要なのか知らないが。
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〈聖者の鎮魂歌〉
モンスター鳴く女の声帯と上薬草、そして魔草を混ぜ合わせて、出来たもの。
鳴く女はモンスターになる以前は聖職者…シスターであり、不運な死を遂げ、さ迷っている魂を歌を歌い鎮めていた。シスターの声には癒しの効果があると言われている。
体力と魔力を完全回復させて、状態異常も全て治す。
俺は鳴く女の声帯が何かに使えないかと思い、鳴く女の声帯を細かくして上薬草とかと混ぜ合わせてみるとこんなのが出来た。
おい、何でこんなものが最初の街で取れる素材で出来るんだよ。
鳴く女がレアモンスターとかで中々ドロップを落とさないなら珍しい物が出来ても可笑しくないが、どうなのだろうか?
それに、たぶんだがポージョン並みの成功率だろう。
またイベントリに入れて使う機会がない物が出来てしまったが、取り敢えずレシピは書いて残しておく。
あ、それとハイポーションは一応出来た。これがそうだ。
〈ハイポーション〉
上薬草と月見草を煎じて煮ることで出来た物。ポーション以上の効力がある。
体力を80回復する。
まだ、1個しか出来ていないが出来ると分かっただけでも良しとしよう。
しかし、これって正しい製法じゃないのだろう?
正式なレシピも少し気になるが今は良いか。ハイポーションを早く5個作ってしまおう。
それから上薬草が無くなるまでハイポーションの調合をしたが2個しか作れなかった。
上薬草はそんなに多く持っていなかったが、それでも5個は充分に作れるほど持っていたが失敗が続いてしまい、無くなって締まった。
…鳴く女と混ぜ合わせるのに使った上薬草の分をハイポーションにまわしていたら多分だが5個は作れていたと思う。
まぁ、結果的に成功していたのだし気にしていても仕方がないか。
それから俺はさっきの採集で取れた薬草を使ってポーションを10個以上作った。
これで後はハイポーションを2個作ればロドリゲスからのクエストは達成できる。
もう少しだな。
それから俺は、さっきの採集で取れた物でさらに調合を始めた。
まず、最初に眠り草で作ったスリープボール、次に惚れ草で作ったチャームボール、それに混乱草で作ったディゾルディネボールだ。
〈スリープボール〉
眠り草を煎じて煮て、ボールに入れて出来た物。ボールが割れて出てくる煙を吸うことで相手に状態異常《睡眠》にする。また、仲間にも効果があるため注意が必要。
持続時間は5分
〈チャームボール〉
惚れ草を煎じて、ボールに入れることで出来た物。ボールが割れて出てきた煙を吸うことによって状態異常になる。また、仲間にも効果があるため注意が必要。
持続時間は5分。
〈ディゾルディネボール〉
混乱草を煮て、ボールに入れることで出来た物。ボールが割れて出てきた煙を吸うことによって相手に状態異常《混乱》にする。また、仲間にも効果があるため注意が必要。
持続時間は5分
俺はこれらのレシピを書きながら、俺って状態異常にするものは結構作っているのに、それを治す物って1個も作っていないな、と思っていた。
それに、ディゾルディネって何語だよ。
それに、何を忘れているのか作っている時に思い出したよ。また、瓶が無くなってしまったよ。
…今度こそは本当に自分で瓶は準備しよう。
そう決意をして、俺はこれからどうしようか考えていた。もう時間も少ないし、素材もないから取り敢えずここから出るか。
そう思い、俺は片付けをしてから部屋から出て鍵を閉めて、鍵を受け付けに返してから工房から出た。
街の中を歩いていると、
『始まりの平原のボスがチーム《シャドウパラドクス》によって討伐されました』
そんなアナウンスが流れていた。
始まりの平原って聞いたことのないフィールド名だな。アルトとかなら知っているだろうが、別に良いか。
そう思いながら俺は雑貨屋によって、素材を売ったりしてお金を増やし、空き瓶を10個ぐらい買った。
それからブラブラとしていると、一人の少女とぶつかってしまった。
「あ、悪い。大丈夫か?」
俺はぶつかって尻餅を付いている少女に手を差しのべるが少女は俺の顔を見て、怯えたような表情を浮かべてから走り去ってしまった。
…俺の顔ってそんなに怖いのか?
俺は差しのべていた手を引っ込めながら、そんなことを思っていた。
そして俺が歩き始めようとすると、向こうからこっちに走ってくる強面のおっさんたちがいた。
そのおっさんたちは俺に近寄ってきて、
「さっき、こんな少女が走ってこなかったか?」
そう言いながら、俺がさっきぶつかった少女の似顔絵を書いた物を見せてきた。
何か面倒ごとに巻き込まれそうだな、と思いながら俺はしらを切ることにした。
「いや、見ていないが…それにその絵は誰が書いたんだ?」
「俺だが、上手いだろ?」
顔に似合わず繊細なタッチで絵を書くんだな。俺は口には出さないがそう思った。
というか上手すぎだ。
「見かけたら俺たちに声を掛けてくれ」
「分かった、それとその絵と書かれている少女は誰なのか教えてくれないか?」
そう言うと、おっさんたちは少し考えるような素振りを見せてから、
「この人はこの国の第4王女…レイア様だ」
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「確かにこの子はレイアね。懐かしいわぁ」
俺はおっさんたちと別れた後すぐにロドリゲスたちの店により、チャロットにさっきもらった絵を見せていた。
…本当に王女だったのかよ。
「でも、何でこの子が外に出ているのかしら?」
「どういう事だ?」
不思議そうにそう言っているチャロットに聞いてみると、チャロットが言うにレイアは体が生まれつき弱く、部屋で寝ている筈らしい。
何か雲行きが怪しくなってきたな。
そして、俺はロドリゲスのさっきのおっさんたちの事を騎士団に所属していなかったか聞いてみたところ、
「あぁ、確かそいつらも居たぞ。だが…」
言いにくそうにしているロドリゲスに俺は続きを促した。
「いや、そいつらはあまりに素行が悪いから破門にした筈なんだが」
そう言った。