12話
1階に降りてきた俺は後悔していた。
「か、母さん?」
俺が母さんに声を掛けるが母さんは俺の方をチラッと見ては頬を軽く膨らませてはそっぽを向くだけだった。
そんな不機嫌な母さんは今、晩御飯の準備中だった。
そして、下に降りてきて母さんに出会ってすぐに正座するように言われた俺は今、正座をしながら一回ログアウトして休憩している時のことを思い出していた。
取り敢えず俺はご機嫌が早く直るように気配を消して母さんにバレないようにそっと立ち上がってコンビニにデサートを買いに行こうとするが、
「座りなさい冬冴」
「すみません」
だが、何故かバレてしまい俺に背を向けたまま普段の母さんからは想像もつかないような低い声でそう言われてしまった為、俺はすぐに座り直した。
…どうすればいいんだ。
そう思っていると、
「何しているの?お兄ちゃん」
ゲームからログアウトしたのか、舞彩が1階に降りてきて、正座させられている俺を見て、不思議そうにしていた。
俺はアイコンタクトで舞彩に「助けてくれ」と言う。が、
「お母さん、何でお兄ちゃん正座させられているの?」
「冬冴の自業自得だから気にしなくて良いよ」
「そっか」
そう言って、舞彩は特に気にした様子もなくソファーに座ってテレビをつけて見始めた。
兄を無視するなんて、酷い妹だ。
そうしているとご飯が出来て、出来た物を机に並べてから母さんと舞彩は俺を置いて先にご飯を食べはじめてしまった。
…俺のご飯は?
そんな俺の訴えも虚しく、母さんたちはご飯を食べ終えて、食器を片付けて舞彩は2階に上がり、母さんは食器を洗い始めてしまった。
それから洗い物を終えた母さんは手をタオルで拭いてから正座している俺の膝の上に座ってきた。
「少しは反省した?」
そう言いながら俺の方に顔を向けて頬を軽く膨らませている。
俺が頷くと母さんは満足そうに笑って「よろしい」と言うが俺の膝の上からは降りようとはしない。
「母さん?」
「もう少し…このままでも良い?」
母さんは顔をこっちには向けずにそう聞いてきた。俺は少し腹が減ってきていたが母さんに「良いよ」と言った。
俺からじゃ顔が見えないが、母さんが雰囲気からして喜んでいるように感じたからよしとしよう。
それから10分くらいそうしたままでいた。
おもむろに立ち上がった母さんは、
「ごめんね、冬冴。すぐに晩御飯の準備するから待ってて」
そう言って、パタパタとキッチンに走っていく母さんを見送ってから俺は立ち上がり、ご飯が出来るまでの間、椅子に座って待っていた。
因にメニューはカレーだった。
母さんがカレーを持ってきて、それを受け取った俺はいただきます、と言ってからカレーを食べ始めた。
美味い、さすが母さん。
カレーを食べ終えた俺は流しに食器を持っていってから2階に上がり、財布を持ってから母さんに「ちょっと出掛けてくる」と言ってから家を出て、徒歩3分の所にあるコンビニに向かった。
「いらっしゃいませー」
コンビニに着いた俺はそんな店員の声に出迎えながら中に入り、すぐにデザートコーナーに向かった。
俺はちょっと大きめのチョコレートケーキと、とろけるプリンを持ってレジに向かい、会計を済ませてから家に帰った。
家に着いた俺はリビングのソファーでくつろいでいる母さんにさっき買ってきた物を渡した。
「何?どうしたの?」
そう言いながら少し訝しそうにしていたけど、中に入っているものを見て、
「わぁー、チョコレートケーキとプリンだ!」
と、言って笑顔を浮かべた。
「食べて良い?」と聞いてくる母さんに俺が頷くと母さんは嬉しそうにしながら開けて、チョコレートケーキから食べ始めた。
俺はそんな母さんを見ながらお茶を自分で入れてから「いつもありがとう」とまた心の中でお礼を言いながらお茶を啜っていた。
デザートを食べ終えた母さんは「ありがとう冬冴。美味しかったよ」とお礼を言ってきた。
俺が「気にするな」と言うと母さんはクスクスと笑った。
何で笑ったのか少し不思議に思い、母さんに聞いてみると、
「ううん、ちょっと似てきたなぁと思って」
「誰に?」
「父さんに」
「俺が?父さんに?」
そうか?と思っていると、「そう言うところとか特に」と言って母さんはまた笑った。
「兄…ごほん。父さんも昔は私が不機嫌だったりした時はよくデザートを買ってきてくれたり、頭を撫でたりしてくれたんだ。それで私がお礼を言うと気にするなといつも言うんだよ」
「それに買ってくる物も一緒だし」と笑いながら言った。
「そうか、だから俺と父さんを間違えたりしたんだな」
そう言うと、母さんは顔を真っ赤にして「だ、だからあれは違うのよ!」と言ってわたわたと慌てていた。
俺はそんな母さんを見て、笑っていた。
「わ、笑うなー!」
そんな母さんの声が家の中で響いた。
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あれから何とか(?)俺の誤解を解いた母さんに俺は「おやすみ」と言って2階に上がり、少し勉強をしてから寝た。
それからいつも通り、6時に起きた俺は動きやすい服に着替えてから日課のランニングを始める。
ランニングを終えた俺はかいた汗を流すためシャワーを浴びてからトーストにタマゴとベーコンを焼いてからコーヒーを入れて朝食を済ませる。
そうしていると、母さんが眠そうに目を擦りながら降りてきた。
「おはよう、母さん」
「おはよう」
俺が挨拶をすると母さんは眠そうにしながらも挨拶を返してくれた。
俺は母さんにコーヒーを入れた。
「ありがとう、冬冴」
母さんはお礼を言ってからコーヒーを受け取って、フーフーと息を吹き掛けて冷ましてからコーヒーを啜った。
「朝飯、どうする?食べる?」
「いや、良いよ」
そうしていると、舞彩も起きて降りてきた。
「おはよう、舞彩」
「おはよう」
「うぅー、おはようお兄ちゃん、お母さん」
眠そうにしている舞彩を見て俺は「また徹夜して『NEW LIFE ONLINE』でもしてたんだろうな」と思いながらも舞彩に眠気覚ましのコーヒーを入れる。
「これを飲め、舞彩」
「ありがとう、お兄ちゃん」
俺がコーヒーを渡すと舞彩はお礼を言って「熱い」と言いながら冷ましてコーヒーを飲んでいた。
俺は舞彩に朝御飯要るか?と聞くが舞彩は「いらない」と言うため俺は入れたコーヒーを持ってソファーに座りテレビをつけて見始めた。
それから少ししてからテレビを消した俺はコップを流しに持っていき洗い物をして、洗濯物を干している母さんの手伝いをして2階に上がり勉強を始める。
勉強を終えた俺は背伸びをしてからこれからどうしようか少し考えて、『NEW LIFE ONLINE』にログインして素材を集めて、調合の続きをすることにした。早くクエストを達成しておきたいからな。
俺はヘッドギアをかぶってベッドに寝転がって目を閉じた。
次の瞬間意識が暗転した。




