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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

消えた通学路

作者: Yuzi

 僕の学校には不思議な通学路があった。


 何が不思議かって? 幾人もの人がそこで恐怖体験をしているのだ。

 何を隠そう僕だってその体験をしてしまった。

 その時は本当に怖かったし、学校に着くのも怖かった。

 そう、その僕の身に降りかかった通学路での恐怖の体験を話そうと思う。


 そこの通学路はとても暗くじめじめしている。

 なぜここが通学路指定を受けているのか不思議でしょうがなかった。

 さらにその通学路の横にはボロい一軒家が建っていて見るからに怖かった。

 ここに住む老婆が猫に餌をあげるのか、よく道路に猫が寝っ転がっていたし、道の隅に猫の糞などが落ちていることもザラだった。


 更にはそこで増えたのか子猫も多く、それを狙ってカラスもやってきていて、本当に不気味な道路となってしまっていた。

 猫の鳴き声とカラスの鳴き声がその通学路を通ると聞こえた。

 そんな不気味な道路なのでその家に地域住民から不満が集まり、何度も注意を受けていたのだが、老婆は猫に餌を与えることをやめなかった。


 その通学路を嫌々通るうちに老婆を見なくなった。

 しばらくするとその家から異臭が漂うようになった。

 僕たちは家の人にそう伝えると、警察が呼ばれた。

 原因は孤独死だった。

 聞いた話によるとあの家の中は地獄のような惨状になっていたらしい。

 何が原因かはわからないが、老婆は亡くなった。

 それで困ったのは増えすぎた猫たちだ。

 どうやら老婆が亡くなったのは夜で、戸締りはちゃんとしていたらしい。

 閉じ込められた猫たちは餌が足りず、遂には老婆の遺体を食べだしたのだ。

 そのうち老婆の遺体は腐ってくる。

 遺体を食べた猫たちも体調を崩し、死ぬ。

 死んだ猫を食べて死んでしまうという共食いまで発生した。

 その家は猫の糞尿、血肉、老婆の内臓などが家中に散らばっていて中に入った警察官はたまらずに吐いたらしい。


 そうして猫の数が減り、カラスの勢力が優勢になり、家に居なかった猫たちが襲われだした。

 その道路には猫たちの血と思われるものがこびりつき、肉片なども散らばっていた。

 そんな不気味なこともあり、その通学路は本当に嫌がられるようになった。


 そのうちに不思議な話が周囲から聞こえてくるようになった。

 曰く、亡くなった老婆が死んで霊となった今も猫たちに餌を与えている、だとか。

 曰く、あの家で同族の味を覚えた猫が、仲間の猫を襲っている、だとか。

 曰く、餌を求める猫に亡くなった老婆が自分の身体を食べさせている、だとか。

 そんな話がまことしやかに語られていた。


 亡くなったはずの老婆を見たという人は意外と多く、噂に拍車をかけていた。

 そんなことがあってみんなその通学路を通りたがらなくなった。

 中には車で送ってもらう人達も現れ、学校でも問題となった。


 と、ここまでが前知識であり、僕が恐怖体験をする前までの話だ。


 その日、僕はお腹が痛くなり、トイレにこもっていた。

「大丈夫? もうそろそろ学校に行く時間だけど間に合いそう?」

「無理!」

 そうこうしているうちに走ってももう間に合わない時間であった。

「お母さん、学校まで送ってってくれない?」

「いいけど、あの道を通らないといけないのよね?」

「うん、そっちの方が早いし」

「まあいいわ、急ぎましょうか」

 そうして車で送って行ってもらえることになった。


 少しするとあの通学路に着いた。

 そして道路に二匹の猫がいた。

 一匹は大人で、一匹は子猫だった。

 車が近づくと大人の猫は逃げ出したが、子猫は動かなかった。

「なに? なに、なに?」

 逃げない猫に嫌な予感がしたのか、慌てているお母さん。

 僕は子猫をじっと見つめた。耳だけが動いている。

「もしかして車に轢かれたか、カラスに襲われたのかな?」

 そう言ったが、血などは見当たらなくて不思議だなと思った。

 さっきの大人の猫はこの子の親で心配して見ていたのかもしれない。


「動いてくれない!? どうしよう、でも時間!?」

 なぜかお母さんの方がパニックになっていた。

「でも車高があるし大丈夫よね?」

 実際、子猫は道路にへばりつくように寝っ転がっていたので車で通っても大丈夫だと思った。

「よし!」

 そう言ってお母さんは車を動かした。

 お母さんと二人、子猫は大丈夫かな? と振り返るとそこに……子猫はいなかった。

「え? え?」

「え? 轢いちゃった?」

 二人して驚いた! 動けそうな様子もなかった子猫が、車が通ったら消えたのだ。

 嫌な予感しかしない。

「もしかして……車の下に引っかかってる?」

「いやぁぁ!?」

 そう慌ててしまった。

 そしてもう一回後ろを振り返り、今度こそ本当に恐怖した。

「ギャーーー!!」

 思わず叫んだ!

「きゃーーー! 何々? どうしたのよ!」

「早く! 早く、出して!」

「もう、なんなのよぉ〜〜!」

 言いながら車が走り出した。

 後ろを振り返る、なにもいなかった。

 少し走り、もう一度後ろを振り返る。

 やはりなにもいなかった。


「さっきはいきなり叫んでどうしたのよ?」

「……あの家のおばあさんがいた……」

「え? でもあの家のおばあさんは亡くなったはずよ……」

「だから叫んだんだよ! 誰もいないはずのあの家から出てきて、こっちを見たんだ!」

「……本当に、見ちゃったの?」

「本当だよ!」

 まるで生きているようだった。

 そんなに恨みや心残りがあったのだろうか……

 お母さんも僕も黙り込んでしまった。


 そうこうしているうちに学校に着いた。

 着いてしまった。

「……車の下、見る?」

 え?

「嫌だよ!」

「でもお母さん、一人じゃ絶対確認できない!」

 やっぱり言われてしまった。

 だから学校に着きたくなかったんだ……

 ということで嫌々ながら二人で車の下を覗いた。

 そこに子猫はいなかった……


 お母さんが一人で帰るのを嫌がったが、気落ちしながらも諦めてトボトボと帰っていった。

 もちろん通学路とは違う道で。


 教室に入り、この話をみんなにした。

 疑う者もいたが、信じてくれる者も多かった。

 さらには自分も老婆を見たという人もいて、少し騒がしくなった。


 帰りに通学路を通りたくなかったのでどうしようか悩んでいたら、お母さんからメールが入った。

『迎えに行きます』

 お母さんと合流し、帰ることになったのだが、どうやら道がおかしい。

「なんで通学路の方に行こうとしてるの?」

「今朝の猫ちゃんを轢いてないか確かめたくて」

「いや、轢いてても見たくないんだけど……」

「一人じゃ行けないから、お願い」

「イヤァァァァーーー!!」

 途中で車から降りられるわけもなく、連れて行かれてしまった。


 問題の通学路に到着すると周りを調べてみた。

 やはり子猫がいた辺りには血の跡などはなく、轢いてはいなかったようだ。

 そうすると猫の鳴き声が聞こえてきた。

 そちらを見ると老婆の家の庭にあの子猫がいた。

「よかったぁ……轢いてなかった」

 お母さんが安心していた。

 子猫を見ていたら、家のドアが開いた。

 若い男女が出てきた。会話の内容から介護士のようだった。

 挨拶されたので返し、少し世間話をした。


 実はあの日、老婆は亡くなっていなかった。

 どうやら痴呆が進行していたようなのだ。

 警察官が吐いたのは本当らしいが、理由は人糞の臭いだったらしい。

 これについては老婆の名誉のために語れないが、それはそれはトラウマものの臭いと映像だったと聞いている。

 そして、最近見なかったのは介護施設にはいっていたからなのだと。

 警察官が吐いたりしているのを見た噂好きなおばさんが有る事無い事喋り回るうちに内容が大幅に改悪され、聞いていた話になっていた。

 猫たちが減ったのは、老婆の家族が貰ってくれる人を探したりした結果だった。

 老婆をよく見たというのも、介護士付きで稀に帰ってきていた老婆を見た、ということだった。


 あの猫が道路に寝っ転がっていたのも、老婆が道路で餌を与えていたからのようだ。

 何度注意されても餌やりをやめなかったのも痴呆のせいだった。

 あの子猫は満腹になり、寝ていたところに僕たちが通りがかり、家の方に逃げた。その車が家から見えた老婆は子猫が轢かれていないか心配して家から出てきた。

 そして、介護の人に子猫共々連れ戻された。

 それを目撃してしまった僕たちは、猫は消えるし、死んだはずの老婆がいるし、さらに消えるしでパニックになった、これが今回の真相だった。


 真相はわかったが、この話は地域で有名になりすぎたのか、それからも長いこと語られることになった。

 もちろん、改悪版の方が。

 そしてこの通学路は使用されなくなった。

 通学路として使用されなくなった後も、度胸試しに使用されたり、噂は流れ続け、幾人もの後輩たちを怖がらせていくことになるのだった。


 これがうちの学校の怪談話、消えた通学路の真実だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] oh...タイトルからは心霊的、不可思議現象的なお話かなーと想像して読み進めてみたら…… 実はとても真実味のある設定にグロの巨匠『小林泰三』氏並みのスラッシャー表現(褒言葉) ……お見事で…
2015/07/13 03:08 退会済み
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