"I love you." の和訳
俺は単純なもんで、よく一緒にいる彼女のことを、いとも簡単に「好きだ」と思ってしまったんだ。そう思ったらまっすぐにその言葉を伝えたくてしょうがない。本当にバカで単純なヤツ。
彼女は俺とは反対に頭のいい、賢い人。こんな俺のことをどう見てるかもわからないけど、これだけ仲良くしてくれてる。いつも一緒に帰ってるくらいだし。……ねぇ、俺、これ、いける?
ある日の帰り道。空はどんより曇り空。いつもなら綺麗な茜色に染まっているであろう空が闇色に変わる頃、おもいきって告げてみた。
「好きだ」
だって、たった3文字だよ。簡単なことだ。
俺はただそれをすぐにも伝えたかっただけで。伝えたかったのは、その3文字すら俺の心には収まりきらなかったからで。彼女のことなんてまったく考えていない、自己中心的。自己満足なことかも。
俺は自分のことばっかりで、都合のいい考えをしてしまって。でもさ、だからさ、やっぱり少しは、脈はあるんじゃないか? って期待してしまってたりもするわけだ。あっちだって俺のこと好きなんじゃないかって。俺、自信過剰?
まー……ぐるぐるぐるぐる、頭をいろんな想いが回る。――間。この沈黙、この空気、耐えられない。
そして、目を逸らしてしまった、俺。だって、一言言ってみたら、それが予想外にも恥ずかしかったもんで……。
――しばらく無言が続いた。
彼女はなにを思っているのだろうか?
「あー……」
会話を再開させたのは俺からだった。
「えっと……あの……」
とはいえ、なにかを言おうと思いつつも、まったく言葉は出てこなかったんだけど。
そんな俺に、その子は一言だけ、空を見上げて言った。
「月が綺麗ですね」
…………はい?
なんだそれ? そんなことどうでもいいだろ。俺が言った言葉はスルー? スルーですか? 返事は!? いや、べつに俺だって深く考えずに言っちゃって、付き合え! とかまで言ってないけど。でも、さすがにちょっと寂しいだろ!? 俺のこと、好きなの嫌いなの!? どっちなの!?
「あの……っ!!」
おもわず抗議でもしようとしたとき、彼女の家に着いてしまった。
彼女はもうこちらも見ず、なにも言わずに、家の中へと入っていった。
え、えー…………?
これは、まさかの失恋デスカ? やべ、ちょっと涙が……。
なもので、俺は涙がこぼれないように、空を見上げた。
空は曇っていて、今にも雨が降り出しそう。まるで俺の心を表しているかのようだったよ。