feat. にご注意ください
※この話はフィクションであり、実在する人物や団体とは全く関係がありません。関係があるのは作者の脳内のキャラだけですのでご了承ください。
それは、青一つない曇り空が広がる日のこと。
鳴海が欠伸をしながら教室に向かうと、いつもはSHRギリギリに登校する違う学級の友人が鳴海の席で待ち構えていた。人の出入りがある度に確認していたのか、鳴海が教室に足を踏み入れた瞬間に友人はそちらを向き、口に弧を型どらせながら鳴海にのもとに小走りで近付く。
「鳴海、遅い。」
「そっちが早いんだよ。で、どうした?」
やたらとテンションの高そうな友人に少し戸惑いながらも鳴海が突っ込みつつ尋ねると、友人はどや顔で口を開いた。
「ソメイヨシノの曲がカラオケに入ったんだよ。」
「まじか。」
「まじ。」
ソメイヨシノとは、シングルの歌手である素明とYOSHINOがデュエット曲をカバーしたことをきっかけに結成されたユニット。ちなみに鳴海は素明の、友人はYOSHINOのファンである。
「だからカラオケ行こうぜ。」
「言うと思った。金欠だから無理。」
「俺もそう言うと思った。なので対策をとらせていただいた。」
「ふーん。」
このテンションについていくの疲れる、と思う鳴海が席に着いたことを確認して、友人は鞄から茶封筒を取り出す。
「どうよ、今回は一葉様という素晴らしいお方がいらっしゃるんだぜ。」
「おう、それは凄いな。」
封筒から覗く5000という数字にカラオケは久しぶりか、と考えつつ鳴海は友人に同意した。
「じゃあ、放課後な。」
「おん。」
上機嫌にYOSHINOの歌を口ずさみながら去って行くその姿を、同級生が奇異なものを見る目で見ていることを、友人は未だ知らない。
ソメイヨシノの曲を片っ端から歌い始めて何曲目かの時だった。
「次はobliterateか。鳴海、お前もマイク持て。」
「わかってる。」
本日何回目かのやり取りをして二人はマイクを手に取り、鳴海は素明の、友人はYOSHINOのパートを歌い始めた。
「もう元に戻らないのなら~♪」
「全てを壊すの~♪」
一番が終わり間奏に入り、鳴海は友人に尋ねた。
「さっきハモリの方歌ってなかった?」
「うん、YOSHINOはあっちハモリだから。お前も歌ってなかったじゃん。」
「じゃああれは桜か。」
「だと思う。」
そういえばfeat.桜だったなと思った鳴海だったが、桜が主旋律の時はハモリをすればいいかと考え二番を歌い始めた。
そして、大サビでのこと。
「 Why do not you look at me? ~♪」
「 If you do not go back ~♪」
『 I want obliterate you ~♪』
「「……」」
「…ぅ元に戻らないのなら~♪」
「全てを――」
二人は山場でまさかの桜がソロだという事実に直面し一部完全に歌詞が抜けたが、なんとか最後まで歌いきることができた。
「あれ、桜だったのか……。」
「お前素明かどうかでしか判別しないもんな。」
「そっちもYOSHINOかどうかでしか聞き分けてないだろ。」
「…というか歌詞3つに色分けしてほしい。切実に。」
「色そんなに分けてもマイク2つしかないんだけどな。」
この日、その曲以降の二人の話題はそこから逸れなかったらしい。
ここまでお読みいただき、心より感謝申し上げます。
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