第6話 久我家で一時過ごしました
魔導工学こそ世界一ぃぃぃぃぃ!
すみませんなんでもないです。
自分の想像していた以上の生活になったとしても……私はへこたれない!
などという決意をした私、七條院華憐です。
「ほれ!余所見しておると危ないぞ!」
「わっ!?ちょ……まっ、ひぃ!?」
現在進行形でへこたれそうです。
どうしてこんなことになったかというと――
――遡ることお母様の実家である久我家に到着し、私は魔導車から降りた頃からになります。
「ここがお母様の実家……」
「華憐はここに来るのは初めてだったね」
お兄様が横で初めてということは”今の私”になる前にも来た事がなかったのだろう。
前の世界で、私は祖父母にあたる人たちには会った事がない。
つまり人生初の対面という事で私は緊張していたりするのです。
「さ、華憐入りますよ」
「あ、はい!お母様」
私は元気に返事をして久我家の門をくぐるとそこには見事な和の庭園が広がっており、建物も和装建築という純和風の豪邸が見える。
そのどこか昔を懐かしめる光景に私はあっちをみたりこっちをみたり忙しなくキョロキョロしているように見えたのでしょう、両親やお兄様、雪姉が微笑ましそうに眺めている事に私はまったく気づかなかったのです。不覚。
庭を進むこと少し、家の玄関に着くとお母様が扉前にあった風鈴みたいな物を鳴らしました。
少しすると扉が開き、中から和服に身を包んだ妙齢の女性が出てきたのです。
使用人さんかな?と私が思っているとお母様が嬉しそうにしている。
「お久しぶりです、母上」
「!!!???」
は、母上!?え、どうみても若……えぇ~???
私の理解がまったく追いつかずにお母様とお婆様?のやり取りをぼーぜんと眺めている。
お父様も相変わらず義母上は美しいと言っている事からこの人が間違いなく私のお婆様なのは確実になった。
まだ10代ですと言ってもいい容姿に黒く綺麗な髪を三つ編みにして後ろに纏めている姿を見てお母様より年上などと初対面で誰が思えるのだろうか。
ぽけーっとした表情で皆のやり取りを見ているとお婆様がこちらを見た。
「あらあら、美月の娘だけあって可愛らしいわね。こんにちは華憐ちゃん」
「こ、こんにちは。初めまして、七條院華憐ですお婆様」
「あたしは久我富美、フミお婆ちゃんって呼んでくれると嬉しいわね」
フミお婆ちゃんが私に声を掛けた後、後ろに控えていた雪姉もお辞儀をしてから挨拶を交わしていた。
そうかいそうかいと嬉しそうな表情をしてからフミお婆ちゃんに家の中へ通されて、居間で私たちはくつろぐ事になった。
居間でくつろいでいる間にお爺様にあたる人がやってきた。
久我鷹虎という名前で、こちらはそれなりに年を経た男性という印象だった。それでも一家そろって若々しいと思っていいのではなかろうか……。
なんでも今日は私が5歳になったら久我家に一度来るように決められていたのと、お兄様の槍術の訓練らしい。
お兄様ってば武術をやってるんだ!とこの時は感動しました。
話が終わると直ぐにお兄様はお母様に連れられて槍術の訓練に行かれたので私は雪姉と何気ない雑談をして、少し散策しようと思いテクテクと屋内を歩き始める。
和装屋敷だけあって障子扉や襖ばかりで、こういった作りの豪邸も珍しいのでついつい色々と部屋を覗いているとふと気になるものが置かれていた。
何気なく立てて置かれている事から大したものではないのだろう、しかし私はどうにもソレが気になって仕方がない。
「気になる……触っても大丈夫だよね?」
私は呟くとその立てかけられてる物を手にとった。
私の世界では刀と呼ばれる物だが、おそらくこちらの世界でも同じ名称だと思う。
幼い私の体には重く感じるその刀は特に綺麗な装飾などを施された鞘に収められているわけでは無い事から安物の刀だろうなと思うがどうにも私はこの刀が気になって仕方がない。
「お爺様に聞いてみようかな」
今にして思えばこの行動がとんでもない展開への入口だったのです。
お爺様の下にこの刀を持って行くと、途端に嬉しそうになって私を褒めはじめた。
「うんうん、自分から習いたい技術の武器を持ってくるとは幼いながらに大したものじゃ!」
「え?習いたい技術の武器??」
「大丈夫じゃ、ワシに任せればばっちりじゃぞ!」
何がバッチリなの?それどころか嫌な予感しかしないんですけどこの展開。
私は上機嫌なお爺さんにひょいっと持ってた刀ごと抱えられてしまいそのまま道場まで連れ去られてしまった。
「では華憐や、刀の抜刀と納刀の仕方を教えるぞ!」
「え?」
コノオジイサマナニイイダスノ?
「返事ははい!」
「は、はい!」
あれぇ?どうして私こんな事になってるんだろー?
そんな私の気持ちなど知らずにお爺様は刀の抜刀と納刀の仕方を私に厳しく教え込みはじめた。
2時間ぐらい延々と抜刀に納刀を反復練習させられているとお爺様が「うむ」という風に頷く。
「では華憐や、抜刀から構えるのじゃ、自分が一番しっくりくる構えでよいぞ」
「あ、はい!」
私は言われるまま刀を抜刀し、自分が一番疲れない構えをする事にした。
正直いって今の身体で大人が使いそうな刀を片手で構えるなんて冗談ではない、疲れるどころかまともに振れる自信すらないよ!
結局両手で持って刃はやや右下がり気味の構えに落ち着いた。
「よし、では今からワシが本気で動いて全ての斬撃を寸止めで繰出すからの、絶対に動くでないぞ?」
動いたら死ぬかもしれんからの?などとトンデモナイ言葉を言ってきた。
「えっ!?あのお爺様ちょっとま――」
「ゆくぞ!」
そして私の視界からお爺様が消えて、無数の白刃の煌きが視界を埋め尽くした。
結果――今に至るのでした。
正直にいいます。動く動かないではなく、動けません。
だって動いたら間違いなく滅多打ちというか恐ろしく痛そうな寸止めが無数に当たるわけですよ。
冗談じゃありません!怖すぎるので早く終わって欲しい!
このままでは恐怖の余り身体が震え始めそうだ。
そんな事を思い始めたぐらいで私の周りを圧迫していた感覚が消え、お爺様が私の横に立っていました。
――私の首筋に刀を当ててね。
「……」
間違いなく今私の顔は恐怖で引き攣っています。威圧感は無いとはいえ、自分の命が無くなる一歩手前です。
お爺様に私の命を奪う気が無いとしてもこれは洒落になってない状態だ。
「うむ……華憐は歳の割には気が強いようじゃのぉ」
お爺様はそんな事を明るく言いながら私の首筋から刀を外してくれた。
「そ……そうですか」
私はそういうのが精一杯でヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
いきなりこんなハードすぎる事をするなんてお爺様は一体何を考えているんですか……
「普通ならあっという間に気絶するからのぉ~カッカッカッ!」
「えぇ!?」
怖すぎるの判ってて実行したのこのお爺様!?
「おぉ?そんな恨みがましく見ないでくれぇい」
「見ますよ!」
「いやいやすまんのぉ~!」
笑いながらそういって私の頭をガシガシと撫でる
「ああ~髪がメチャメチャになっちゃう!」
お爺様の豪快な撫で方で私の髪の毛が乱れ始めた。
このままではぼさぼさにされちゃう!
「そんなの気にするでない!ほれほれ~」
しかしそんな事はまったく気にしないとばかりに撫で回すお爺様。
だけど私は抗議するしか道は残されていない……だから!
「あわわ~お爺様やめてよ~!」
可愛らしい声をあげよって~!などと言われたが私は頑張って抗議を続けた。
結果、私は自分の髪がぼさぼさになるまで頭を撫でられ続けましたとさ。
自慢の二つのテール髪は無事だったのがよかった……本当にね!
戻ってきた時雪姉が私の髪を見て驚愕し、どこに持っていたのかブラシを取り出すと私の髪を丁寧に梳くいてくれた。
私はその間ムス~ッとした顔でお爺様を恨みがましく見続けていた。まったく効果は無かったようですが……
結果的に私はお爺様にいたく気に入られたようで、刀術の稽古はワシがしっかり責任を持ってつけてやろう!と嬉しそうにいわれました。
わ~い!全然嬉しくないよ~!
でも周りの皆は嬉しそうに良かったね!みたいな感じでした。何故だ!!
そのまま夕食などを頂いた後私たち一家は日帰り予定だったようでそのまま久我家を後にする事となりました。
今日の私の生活のちょっとした変化として。刀術修練という変化が加わりましたとさ……ひぃ~ん。
華憐は刀を気に入ったようです。
久我のお爺さんも華憐を気に入ったようです。髪をぼさぼさにするぐらい。
雪姉さんがブラシを持っている事について、実は華憐の髪を梳くのが大好きだからです。雪姉さんの癒しの一つなのです。
そして徐々に華憐が身体の年齢に引っ張られるように見える……発言とかが!