第4話 お嬢様と使用人
前話の主人公の魔術暴発はある人の感想で顔面ファイヤーと命名されました。
魔術を暴発させ、雪音に治療して貰ってから私は空いた時間を使っては魔術の本を読んでいた。
発現の仕方から読み進めていると魔術はイメージだけでは安定し難い上に燃費が悪く自身の適正以外の属性をイメージしても発現すらしないと書かれていた。
普通こういうのを先に書くべきだねと心の中でツッコミを入れながら読み進める。
イメージした通りのものが発現したら貴方は魔術を扱うことができるようになりましたという証明になると書かれている。
そこから更に読み進めていくと魔術の基本的な発動は詠唱と呼ばれる意味を持った言葉を紡ぎ自身の身体にある魔力マナを放出、変化させて発動するのが基本らしい。
次のページを見ると五元素魔術の基礎魔術と呼ぶべき物の名前と詠唱がズラズラと書かれていたので私は見なかったことにして次々とページを捲っていく。
補助魔術や強化魔術についても書かれていたが私が一番気になっていた治療魔術については初心者向けのこの本には書かれていないのだった。
残念な気分になりながら本を閉じて扉近くを見ると何故かニコニコとしている雪音がたっていた。
「ねえ、何故そんなにニコニコしてるの?」
「いえいえ、お嬢様はそのお歳になってから勉強熱心になられたので」
わたしもー嬉しくて仕方ありません!みたいな事を言われて私は若干雪音の言葉遣いが崩れている事が気にはなったが、確かに勉強熱心に見えても仕方ないなと思いました。
「そういえば明日は奥方様の実家に行くご予定がありますので、早めに起こしに参ります」
「うん、じゃあ今日はもう寝る事にするね」
「はい、それではおやすみなさいませお嬢様」
雪音は一礼すると部屋から退室していく、それを見届けた私もそろそろ慣れてきた高級感漂うベッドに潜り込む。
お母様の実家に行く……そういえばこの世界に来てから外出って初めてだった!
こっちに来て2週間ぐらい経ったけど全然外に出たことがなかった。自室に篭って読書したり家の中をゆっくり歩きながら構造を覚えるのに必死だったもんね仕方ないよね。
でもそれ抜きにしてもやっぱりまだ病弱だった頃の指針が軸になってるんだろうなぁ……
何せ一度たりとも外に出たいという考えが浮かばなかった、倒れたらどうしようなどと無意識に思っていたんじゃないかなやっぱり。
しかしいざ外に出ると言われると緊張よりワクワク感を感じてしまう、どうしてだろう?
だけど考えるよりも睡魔が強すぎて私はあっけなく意識を手放してしまったのだった。
「―――ま。――よ」
誰かの声が途切れ途切れで聞こえる。
「―うさま、―ですよ」
誰かが誰かに声を掛けているみたいだけど……私はまだ眠いから早く収まらないかなぁ。
うぅ~ん、気持ちよく二度寝できそう~。
「お嬢様、朝ですよ」
「あう~……お嬢様早く起きてよ~私は静かに寝たいの~」
静かにして欲しいので私は声をかけてる人の手助けをするように寝ぼけてる頭を頑張って使って声をだす。
「ふふっ……お嬢様は貴女の事ですよ華憐お嬢様」
「……ふぇ!?」
私は慌てて飛び起きる。キョロキョロと周りを見てから雪音と目があった。
「おはようございます。華憐お嬢様」
雪音の挨拶に私は直ぐに返事が返せなかった。冴えてきた頭で自分が寝ぼけて何を言ったのかを冷静に考えて恥ずかしくなってしまう。
間違いなく今顔が赤いと思う寝ぼけてたとはいえ恥ずかしくて今すぐ布団に顔を埋めたくなってくる。
「お、おはようございます」
顔を下に向けてしまったが羞恥心に耐えてなんとか挨拶だけは返す。
「はい、今日はお嬢様の可愛らしい寝惚け姿を見れて何よりです」
「ちょ!?なんてこというのよー!」
私は慌てて雪音に抗議をする。しかしなんというか嬉しそうな彼女は慌てている私も可愛く見えているのかニコニコとしたまま私の着替えを用意しはじめた。
「では今日の服装ですが……」
「ちょっと雪音聞いてるの!?人の寝惚け姿を見て嬉しそうにするってどういう事よー!」
「ほらほらお嬢様、教えて貰っている上品な喋り方を覚えませんとパーティーとかで困りますよ?」
「今はいいでしょー!」
私の言いたいことなど聞いてあげませんみたいな感じで言葉遣いの注意までしてくるなんて……
ワーワー言ってた私もその内言っても無駄だと思ったがやはり胸の内は収まることはなくブツブツと言いながら着替えを済ませる。
「まったく……これだから雪姉は」
「……いま何とおっしゃいましたか?」
「……はっ!?」
咄嗟に呟いてしまった彼女の呼び名に私はしまったー!と思い恐る恐るそっちを見る。
「お嬢様、もう一度おっしゃってください」
詰め寄るような雰囲気で雪音がこちらに寄ってくる。
これは不味い、私は嫌な予感をヒシヒシと感じていた。
ここで彼女の言うとおりリピートをすると間違いなく良くないことが起きる。主に私に対して間違いなく。
「わ、私は何も言ってないよ?」
「いいえ、この雪音はっきりと聞こえました」
更にジリッと彼女が詰め寄ってくる……ど、どうしよう。
扉は雪音の後ろだし、これはまさか逃げ道がないという状態ではないでしょうか?
「さあ、お嬢様!もう一度先ほどの呼び方でこの雪音をお呼びください!」
さあ!さあ!と、何か凄まじい勢いで彼女が催促してくるんですけど……主従関係はどこにいったの!?
しかし今の雪音にそんな事を言っても絶対に聞く耳をもたれない、やはり覚悟を決めて言うしかないのね。
「……雪姉」
「!?」
その呼び名を聞いてワナワナと震える雪音を見て私は怒られる可能性をアリアリと感じた。
私はお嬢様のメイドです!そのような呼び名を付けられては困ります!といった感じだろうなぁ……絶対そうだよねぇ。
怒られる覚悟を決めて私は雪音の次の行動を待つ。
「やっと……」
「へ?」
「もう一度雪姉と呼んでくれましたねお嬢様ぁぁぁぁぁぁ~!」
「はぁ!?」
突如雪音が嬉しそうに、というかむしろ涙が出そうなほどウルウルと瞳を揺らして私に抱きついてきたのだ!
「え、ちょ……ちょっと!?」
「雪音は嬉しいですよ~!お嬢様からまたそう呼んでいただけて~!」
「わ、判ったから!落ち着いて雪姉!」
私は必死に雪音……いや雪姉を落ち着かせようと頑張った。抱き上げられ振り回されたから更に頑張った。
結局落ち着くまで私は散々振り回され、起きたばかりなのにすっごく疲れる事となりましたよ。
「コホン、失礼しました華憐様」
「う、うん……雪姉はもう落ち着いたよね?」
「大丈夫です、冷静となっております」
私が雪姉と呼ぶと嬉しそうにするが先程見たいな壊れ方はもうしないようでなによりです。
でもきっと雪音って呼ぶと泣かれると思った、そして再び泣きつかれそうな気しかしない。
「じゃあ朝食を取りに行きましょうか」
いつもの雪姉になったようなので私は彼女にそういうといつもの動作でドアを開け、いつものように後ろに控える。
――でもその顔は心なしか今までより嬉しそうに私は見えた。
雪音さんは冷静です(キリッ
でもこういう人は絶対に妹みたいな子がいて、仲良くしていたらこういう側面があるんじゃないかと筆者は勝手に思っています。
そしてついに次話から主人公が籠(家)の中から脱ヒッキーするのだ!
すみません、ついに世界について判る事になりますね。