プロローグ
今日も私は如何にもな病室のベッドの上で窓の外を見ていた。
日差しが気持ちいいなと思っていると扉の外から誰かが歩いてくる音が聞こえてくる、そういえばそろそろ起床時間。少しして扉が横にスライドし、看護婦さんがこちらをみて笑顔で声をかけてきた。
「あら七条さんおはようございます。今日は顔色も良いですね」
私は看護婦さんの挨拶に少し微笑みながら挨拶と体調が良いという同意を示しておく、自分で感じた限りでも間違いなく体調が良い、むしろ完璧と言っても間違いがない。
そう……どれだけ今身体が若干重く感じて微妙な気怠さや寒気があり、ふとした切っ掛けで状態が急激に悪化して不味い事になったりかなりの頻度で病院に担ぎ込まれる可能性がありありだとしても!
私、七条歌憐はこの『状態』こそ万全なのです。それだけは自信を持って言い切れる自分だった。
生まれた時から『病弱』という体質に恵まれた私は今年”無事”に18歳となり成人まであと2歳という所まで来ました。
しかし今まで両親に迷惑かけっぱなしであり何度も入退院を高頻度で繰り返している為、周りで言うところ学校生活や青春という言葉なんて結構無縁です。
無縁と言ったけど小学校も中学校も入学したし卒業もできた。
高校受験もナントカ無事に終えて高校入学もして今まで過ごしてきたけど、その学校生活のおおよそ半分以上が病院のベッドの上か家の布団の上という病弱体質に相応しい生活をしていたんですよね。
そのせいか同学年の学友には七条さんは体調を崩しやすいからと遊びに誘われたこともなく、体育などの運動時間は先生が「七条は見学」と毎回勝手に決めているという状態。
おかげで学校に行っても腫れ物を扱うような状態で学生生活が楽しいなどと思えた試しが一度たりともなかった。
それでも今後に役立つ筈である学業を頑張りこの病弱体質でも働ける仕事に就けるようにと、家族に迷惑をかけ続けるかもしれない身だけど何かしら恩返ししたいと思い頑張り続けています。
朝の検査も終わり昼食を食べ終えたぐらいにコンコンと扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼するよ。やあ歌憐、今日は元気そうだね」
入ってきたのは私の兄さんであった。
スーツ姿で入ってきたことから仕事の昼休憩を使って見舞いに来てくれた。
「ありがとう兄さん。でも無理に会いに来るのは駄目だからね」
「うん、その辺りは考えてるよ。そうそう退屈してると思って今日はお勧めの本を持ってきたんだ」
ニコニコと笑顔で差し出してきた本は兄さんが好きなファンタジー系の小説だった。
昔から結城兄さんはこういったジャンルの本が大好きで良く読んでおり、私が入院したり病気で伏せっている時は体調が良く暇な時に読んだら時間つぶしになるよ、と言った感じで置いていってくれる。
実際のところ私も体調が良い時は教科書を読んで勉強しているぐらいだったので、兄の置いていってくれた小説は良い時間つぶしになっているのだ。
「兄さんのお勧め……ってこれ昨日出たばかりの新作ですよ?」
「うん、もう全部読んじゃったからね。だから歌憐も読むといいよ」
「もう全部読んだんですか……」
相変わらずだなと思いながら渡された本を枕横に私は置いてから兄さんとの会話を楽しむ事にする。
兄さんは誰にでも優しい人で特に私のことは病弱なのもあって大事にしているように思えた。
押し付ける優しさというより見守る優しさみたいに思えて、よく兄さんにせがんでちょこちょこと運動をさせて貰ったりした事がある。
もちろん倒れました、そこまで虚弱か私の身体はと思いましたとも。
それでも兄さんは身体を動かしたりしたかったら僕に言うんだぞって言ってくれてその優しさに何度か甘えました。
「そういえば歌憐はふと別の世界に行けたらいいなって思ったりしないのかい?」
「別の世界へ行けたら?」
何気なく兄さんにそんな事を聞かれて私はオウム返しをしてしまった。
「うん、歌憐は叶うならこういう世界へ行ってみたいって思う事とか無いかな?僕はたまにあるんだけどね」
兄さんはポリポリと頬を掻きながらそんな事を言う。
私は……
「何度もありますよ」
ポツリと『本音』を呟いてしまった。
「歌憐?今何か言ったかい?」
「ううん、私もたまに思ったりするかな」
ポロっと溢れた言葉は小さすぎて兄さんには聞こえなかったみたいで、私は心の中でそっと安堵の息を吐いた。
「歌憐もたまに思ったりするんだね。どんな事を思うんだい?」
兄さんの言葉に私は少し思わせぶりな仕草をして用意していた『答え』を口にする。
「この先も家族皆と元気で仲良く暮らせる世界へ行けたらいいなって」
「そっか……でもその願いならこの世界でも叶うよ」
私は兄さんの言葉にそれは今のところ現実的なので笑顔で頷く。
そろそろ休憩が終わりそうということで兄さんは仕事に戻っていった。
その時に今日はお父さんとお母さんは顔を出せないという事を教えてくれた、残念。
兄さんが帰ってから渡してくれた小説を読んでいるうちに夕方の検査が始まり、それが終わってから夕食もつつが無く終わった。
夕食が終わった後も兄さんが置いていった小説を読んでいると……読み終えてしまった。
さすが体調が良いと暇人な私です、兄さんのことは言えないなと思いながら布団を被りベッドの上で横になる。
目線の先に見える天井をじっと見ていると兄さんのあの言葉を思い出した。
別の世界へ行けたら、という言葉。
その言葉を思い出さずとも私は何度も何度も何度も思い願った事だ。
自分が病弱な身体ではなく健康な身体の世界へ行きたいと、そうしたらお父さんやお母さん、兄さんに迷惑をかけなくても良いと幾度となく思った。
みんなは迷惑だなんて思わないかもしれないけどこればっかりは私の心の問題なのだ。
今の医療技術では私は絶対に健康な身体にはなれないと宣告されているからこそ思ってしまう……感じてしまう、だから何度も願ってしまうとばかり今日まで思っていた。
だけどふと、兄が同じことを思ったことがあると聞いて違う考えが出てきた。
家族に迷惑が掛からなくなる以外にも何か自分自身がそれ以上に思っていることがあるのではないか?
そんな事をふと思い兄さんが帰ってからずっと考え続けて、結果一つの結論に至った。
「そっか、もし健康な身体になったら私も今とは『ちょっと』違う生活ができるんだ……」
腫れ物みたいに扱われることもなく楽しく生活できる……そう思ったと同時に自分の願う事が絶望的なほど強く重くなった。
縋っても願っても無理な現実感が更に強くなり、私は涙が溢れ泣きそうになる。
そんな気分を放り出したくなり、私は布団を頭まで被って目を瞑り無理にでも寝る事にした。
悪い考えは寝てしまえば明日には違う気持ちで過ごせると思っていると急激に眠気が襲ってきた。
あ、今日は身体が心に素直だなと思いながら意識を手放す。
その直前、自分の意識が何かに引き込まれるように感じたけど、眠気が心地良いし下手に寝れなくて嫌な気分で居たくないから気にしない事にした。
初投稿となります。
正直プロットの方や大方のあらすぎはできているのですが。
その通りに書ききれるかなんて判りません!(えぇ~!?
ですのでまあ、もしお読み頂けたらのであればそれとなく見守ってくれると嬉しく思います。
ちなみに病弱キャラは嫌いではないです。(ボソッ