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武装魔人  作者: 改樹考果
エピソード壱『狙われる少女』
8/15

二、『襲撃の目的』

 「魔女の世界(ウィッチワールド)では、召喚魔法は比較的ポピュラーな魔法です」

 奏に抱えられたままのマリティアは語りながら、その両手に持つ横五十・縦水三十センチメートルぐらいの長方形晶板の反応を見ていた。

 異空間収納魔法具というこの世界では一人一つは持っているという便利な魔法具から取り出したものだが、そこそこの大きさだというのに子供である彼女が軽々持てているのが若干不思議な光景だった。

 多分、見た目通り本物の水晶でできているというわけではないのだろう。正直、奏には玩具みたいに見えて、そこはかとなく不安感を覚えるのだが、マリティアが確信を持って行き先を指し示すので、その方向に進むしかない。

 「ある程度の魔法・魔術知識と、潤沢な魔力があれば、誰でもできると言ってもいいですね。大昔なんて、国ごと召喚したって例もあるぐらいです。ちなみに、今この町に使われている広範囲強制翻訳魔法は、その頃によく使われていたものなのですよ。今では召喚時に対象の魂にこちらの言葉を覚えさせるようにしていますし、こちらの世界の住人だって、統一言語がありますから、そういう魔法はあまり必要じゃなくなっているのですけどね」

 なるほど、だから日本語やら英語やらが書かれた本があるわけか。国ごと召喚されたのなら、本などの情報媒体も一緒に来ているだろうし、翻訳するためにはする為の知識も必要になる。そして、文字であるが故に今の時代も書物として残り。言葉に関してはそっち方面の魔法の発展で、わざわざ習得する必要性がなくなった。そんなところか?

 マリティアの説明からそう推察しながら、慎重に路地を進む。

 細い路地である故か、それとも早朝だからか、誰とも遭遇しない。

 そのことをいかぶしりながら、レンガ造りの壁と壁との間を先へ先へと行く。

 「それでそんな風に昔からよく異世界人が訪れることが多いせいか、向こうの文化文明の影響を強く受けているのです。その一つが魔導ネットワークですね。あっここです。止まってください」

 マリティアの制止の言葉と共に、止まると彼女が持つ水晶板に文字が浮き出てくる。

 無線LANに、タブレットPCのようなものか? ……なるほど、確かに色々と影響を受けているみたいだな。

 などと思いながら興味深そうに水晶タブレットPC? を見てみる奏だが、出てくる文字を読むことができない。

 どうやら翻訳魔法は文字までには影響を及ぼさないようだ。

 「検索。異世界召喚管理局」

 マリティアの命令に応え、水晶タブレットPCに文字と写真・動画がランダムで映し出される。

 様々な色のローブを纏った女性達ばかりが水晶板に映し出されていた。

 ローブがこの世界での正装なのだろうか? まあ、自らの世界を魔女の世界と名付けるぐらいだしな……

 興味深げに写真と動画を見ている奏に、マリティアは水晶タブレットを指でタッチ操作しながら更に語る。

 「魔女の世界(ウィッチワールド)は、奏さんの世界と違って、女性上位社会です」

 その言葉を裏付けるかのように、水晶画面に出てくる写真や動画には、女性しか出てこなかった。

 国会議事堂のような場所に、首脳会談らしき写真、なにかしらのパレードの動画、どれもこれも女性のみ。たまに男性が映らなくもないが、女性達の影に隠れるようにこそこそしているように見える。

 男尊女卑な時代に生まれたわけではないが、目を向ければ女性不利な社会構成がまだ残る日本にいた奏からすると、どうやってこういう状況になっているのか疑問が浮かぶ。

 地球においても、女性上位の社会がないというわけではない。しかし、奏の知る範囲ではそれは少数派だったと記憶している。

 奏はこれを単純に腕力が男の方が強かったからだと思っている。理由は、男女平等が訴えられ、腕力が物を言い辛くなった今の社会は、人の歴史の中からすると未だ僅かな間でしかないからだ。それまでが肉体の強さが優遇されていた時代であったのなら、自ずと男が社会を構成し易くなる。というわけだ。勿論、国々によって経緯に違いがあるだろうが、なんであろうと男性社会が形成されやすいのは、地球に存在している多くの国が証明しているのだ。

 もっとも、どうしてこの世界ではそれが逆転しているのか、奏は直ぐに思い立った。というか、明確に自分の世界にはないものが当たり前のように存在しているのだから、それ以外の理由があるとは思えない。

 奏はマリティアが持つ水晶板型の魔法具を指差した。

 彼が言わんとしていること言われなくてもわかったのか、こくりと頷くマリティア。

 「はい。ご想像通り、この違いは魔法が関わっています。魔法を起こすためには魔力というこの世界にはない意志力物質が必要になります。魔力は、本来は世界を作り出すなにも決まっていない根源意志力で、なんにでもなれる可能性がある、いわば世界の未来を創り出すものです。それ故に、それ以上の余剰分は、世界の理を破壊し、改変する特性を獲得してしまいます。それを利用したのが、この世界の本来の理、物理では起こせない法則を起こす魔なる法則。魔法というわけです」

 正直、ちんぷんかんぷんな奏だが、話の腰を折るほど空気の読めない奴ではないので頷いとく。

 「本来なら世界の外に存在しているそれは、人などの魂を持つ存在によってこの世界に導かれ、未来となります。具体的には魂の一番奥に魔力孔と呼ばれる穴があって、そこから魔力が流れ込んでくるという話でしたね。それでも、まあ、厳密には、魔力孔とか、魔力が流れ込んでくるというのは言葉として間違っているのですが、魔力が世界の未来を創り出す余剰だと知られたのがつい最近のことなので、魔力という言葉が定着してしまっているのですよね。それで、この話がなんで女性上位に繋がるのかというと、女性が未来を創り出す存在だからです。つまり、子供を宿す能力のことですね。子供を生み出すのに、魔力が多大に必要になるために、魔力孔が男性より大きく開いていて、その分だけ余剰根源意志力が生じるので、女性は生まれながらにして魔法使いになれる高い資質を有しているというわけなのです」

 素早く水晶タブレットPCを操作し続けながら、途切れることなく説明を続けるマリティア。どうやら奏が想定している以上に彼女は頭が良いようだ。

 もっとも、知り得た彼女に関する情報から推察するに、ずっと祖母と二人暮らしをしていたようなので、説明が上手かというとそうでもなさそうだった。

 実際、奏は話の半分も理解していない。意味を理解していない単語が良く出てくるし、その説明がないからだ。まあ、それでもなんとなく言わんとしていることはわからなくもない。

 「そして、この世界は魔法が発展し、社会は勿論、日常生活などあらゆるところに組み込まれています。そうなれば当然、魔法をより強く、より多く使える者。つまり、女性の社会的地位は高くなります。自らの世界を魔女の世界と呼んでいるのは、実際に世界のトップに立ち、国家を、世界を運営しているのが魔女だからなのですよ。そんな世界が昔から続いているから、女尊男卑が当たり前のようになっていて。中には、女性こそ至上の存在であり、男など下劣で野蛮で汚らわしい下等な存在。だから、男などこの世界から消してしまおう。って過激なことを考えてしまう人達もいるのです」

 なるほど、納得して頷く奏。

 そういう言葉と態度を管理局員から浴びせられている以上、マリティアの言葉に強い実感を得られる。

 「昔はそういう人が大半を占めていた時代もあったそうですけど、今はモラルの低い人、社会性がない人物と思われ、平等に扱うものこそステータスがあると見られているので、例えそういう考えの持ち主の人だったとしても、表だって訴える人は本当に少数派のはずです」

 そう言いながらマリティアは水晶タブレットを見せてきた。

 そこにはイギリスにあるストーンヘンジのような写真と、幾人かの妙齢の女性がにこやかに笑いながら握手している動画に、びっしと文字が書かれた論文らしき物が映し出されていた。

 正直、それだけ見せられても、奏にはなにがなんだかわからない。

 根本的に学問が得意というわけではない、というよりやってこなかった人物なのだ。加えて理解できない異世界の言語となれば、もう本当にさっぱりである。

 「写真が現在この世界に掛けられている召喚封じの結界本体です。動画は召喚魔法禁止条約締結の時の。論文は召喚封じに使われている基礎理論ですね」

 なるほど……それで? といった感じにマリティアに目線を送る奏。

 「ネットで見た限り、当初の予定では異世界召喚管理局というのは作られる予定ではなかったそうです。国家規模の召喚の禁止と、召喚封じの結界だけで十分効果が発揮されるわけですからね。そもそもの目的は、むやみやたらに召喚魔法が行われ、向こうの世界にも、こちらの世界にも無用な混乱を起こさせないようにしようということらしいです。実際、召喚魔法によって魔王や勇者が現れたことがありますし。それで異世界人に憧れて、召喚魔法を試し、犯罪者を間違って召喚してしまい、殺害されてしまったという事件が毎年起きていたってことも大きな理由みたいです」

 マリティアの説明と共に、水晶タブレットの画面に、男性キャスターが何事かを言っているニュース映像やら、顔を隠され手錠を掛けられ連行されている男の写真と記事が表示された。

 二度と魔王と勇者をこの世界に呼び込まないために、という言葉はそういう意味なのか……魔王と勇者ね。ファンタジーなことで……って、ああ、ここはファンタジーな世界だったな……

 なんとなく奏が魔王と勇者という言葉に陳腐さを感じてしまうのは、その言葉にいまいち現実感が伴わないからだろう。なんせ、十年前より以降、そういう言葉に触れるようなことを滅多にしなかったし、触れたとしても偶然同じ施設にいた子供達からで、直接ではない。

 「あと、これ以上の変革を望まない人達の思惑も含まれているみたいです。既得権益を持つ者達とって、異世界の技術の移入は自分達の立場を危うくさせかねない劇薬ですからね」

 こっちの補足の方が幾分か現実感を持てるものだったが、ふと疑問に思う。

 書く動作をすると、マリティアが水晶タブレットを差し出してきたので、ちょっと驚くが、人差し指で触れるとちゃんと書けた。

 本当にタブレットPCみたいだな……

 などと思いながら指を動かす。

 『召喚能力というのは、異世界の技術のことなのか?』

 その問いを見たマリティアは、ちょっと不思議に小首を傾げる。

 「どこでその言葉を聞いたのです」

 と聞かれ、奏は少し困った。何故なら彼女を殺そうと襲い掛かってきた奴から聞いた言葉だからだ。あの時に、マリティアもちゃんと聞いていたはずだが、どうやら本当に文字以外は素ではわからないらしい。

 奏の反応をどう受け取ったのか、それ以上は聞かなかったマリティアは、少し考えて。

 「召喚能力は、確かに技術のことを指すこともあります。昔は異世界の系統の違う技術を能力だと思っていたって記述もありますよ。理解できない真似できない全く異なる異界の技術を初めてみれば、そんな風に見えてしまうのは無理からぬことでしょう。ちなみに、今でも俗語として使われていますけど……奏さんもやっぱり召喚能力を持っているのですよね? 黄昏の使い手として選ばれて召喚されましたし、魔法なしで魔女を倒せていますし」

 まあ、少なくとも普通の人では達することができない域に足を掛けているので、それを召喚能力だといえなくもないだろうが……

 『なにかしらの特殊能力が付与されるのかと思っていたよ』

 水晶タブレットPCに若干残念そうに書く奏に、マリティアはクスと少しだけ笑う。

 「そういうこともできなくないのですけど、元から覚えれば使える言語を組み込むことより、なにかしらの能力を組み込む方が遥かに危険だって話です。最悪は魔物になってしまったって話も聞きますからね」

 それは遠慮したい話だ。

 昔見た人間とハエが融合してしまったという映画を思い出し、顔が引きつる奏。

 『それで、なんで当初の予定では管理局を創るつもりじゃなかったんだ? 普通に考えれば、管理する組織は必要に思えるが』

 「抑制したかったのはあくまで素人が起こす召喚事故だったわけですから、召喚封じを完成させるだけで十分なのですよ。国家に関しては条約締結で十分抑止力になりますからね。勿論、その大規模魔法を管理維持する組織は必要ですが、直接召喚者を取り締まる専門機関をわざわざ作る必要性はあまりありません。だって、国際的な治安維持組織は既に存在していますから」

 そこまで聞けば、無学な奏でもなんとなくわかる。

 『つまり、女性至上主義者が自分達にとって都合がいい組織を作るために、介入してきたってことか?』

 「みたいです。自分達の目的に邪魔な存在を消すための公的な隠れ蓑として創られたのが、異世界召喚管理局なのだそうです」

 彼女の断言に奏は眉を顰める。

 『そんな情報までネットに上がっているのか?』

 その疑問に、苦笑が返された。

 「勿論、公的な情報ではありませんよ。でも、世界各国のマスメディアとかがこぞって取り上げるぐらい灰色の情報って感じです」

 『だとすると、もう組織として末期なわけか』

 「ええ、色々なことが明らかになって、彼女達が裁いて来た事例に対して、捜査が行われようとしているみたいなのです。加えて飛び火を恐れてなのか、不要論も魔女同盟内で出始めているみたいですよ」

 『魔女同盟というのは?』

 「奏さんの世界で言う国際連合に近いものだと思ってください。もっとも、権限はこっちの方が圧倒的にありますけどね」

 そんな組織の直轄組織という位置は、確かに良い隠れ蓑だな。うまくやれば非合法も合法に変えられるだろう。そんな組織が、末期であるのなら、彼女達の狙いは自ずと絞られてくる。多分――

 「これは推測なのですけど、多分、彼女達は、私達を使って確固たる必要性を訴えようとしているのじゃないのでしょうか?」

 マリティアが自分より早く同じ推測に達したことに、感心しつつ奏は頷く。

 『召喚されたという確かな事実を基に、強引に組織を維持できるほどの実例を作ろうとしているだろうな』

 「裁判を行わずにいきなり襲い掛かって来たのは、そういうことなのだと思います。死人に口なしという言葉は、奏さんの世界にもあるでしょ?」

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