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武装魔人  作者: 改樹考果
エピソード零『復讐者だった少年』
3/15

三、『急転直下は唐突に』

 異世界に召喚された。

 その言葉を飲み込むのに、流石の奏も少しの時間を要した。

 マリティアはその間に、奏の隣を抜けて、通路からなにかを拾ってくる。

 それは長大なジュラルミンケースのような物であり、ちょうど真ん中の所に周囲にある死体と同じぐらいの大穴が開いていた。

 ただし、遺体とは違い、その穴は貫通しておらず、その中身を見せるだけに留まっている。

 穴から顔を見せるケースの中身は、抜身の刀身だった。

 『これは亡くなった祖母から受け継いだ黄昏という刀です』

 そう書かれたノートを渡したマリティアは、再び奏の隣の席に戻り、ケースを自分の膝の上に載せて何事かをつぶやいた。

 するとケースの表面に幾何学的な紋様が浮かび出し、カシャリとロックが開く。

 浮かび出した模様に、奏は魔法みたいだと思い、同時に気付く。

 つまり、魔法が存在している世界なのか。だから、見た目は小さいフラフープの道具で人に大穴を開けられ、ドラゴンが存在し、都市が宙に浮かぶ。

 違う法則が存在している世界であれば、色々と納得できなくもない。

 奏は魔法という存在を今まで信じていなかったが、実際こうして召喚され、道具の出し入れなどのその片鱗を体感したのならば、それを否定しようという感情は湧かない。むしろ、あっさりと納得してしまう。

 戦いにおいて、一瞬一瞬の判断決断は、そのまま生死に直結する。

 故に、奏の判断決断は常に単純であり、即断即決だった。

 だからこその、それまで信じていなかったことをあっさり受け入れ、犯女とマリティアが呼んだ女を殺人者だと断定した瞬間に、打ん殴ったわけなのだが……

 開かれたケースから現れた刀は、奏がかつて剣術を学ぶために通ったことがある道場で見た本物の刀と随分違うデザインだった。

 白銀に輝き、優美に波打つ波紋がある刀身。黒い糸が格子状に撒かれた柄には、トリガーとトリガーガードが付けられ、その対面上・ローブを被る黒い魔女を模した鍔の上・刃の後ろは、外側がない装弾数六発の回転式弾倉が付けられている。

 銃というにはあまりにも刀過ぎる、刀という割には余計な物が付き過ぎているそれを、ケースごと奏に差し出すマリティア。

 『この黄昏は、持ち主の危機に応じて、使い手を異世界から召喚する特殊な魔法具だと祖母は言っていました』

 『つまり、俺はこの刀に選ばれたということなのか?』

 『はい。詳しい条件はわかりませんが、召喚される人物は決まって元の世界との縁が薄い者が選ばれる。と聞いています』

 その説明に、奏は納得した。

 家族が通り魔に殺されてから十年。なに振り構わず復讐のための人生を歩んできたのだ。その対象以外、世界との縁が薄いのは当然だと思えたからだ。

 マリティアの説明が正しければ、ある意味、ここにいることがその最大限の証明となっているだろう。

 『あと、聞いていた話だと、こちらの言語が通じるように召喚時に魂に組み込まれるはずなのですが』

 そう書いた後、何事かを言うマリティア。

 『私がなにを言ったかわかります?』

 勿論、わからないので、首を横に振る奏。

 『おかしいですね?』

 首を傾げるマリティアを見ながら、奏はふと思い出す。

 マリティアが突如として前に現れる前、正確には奏がこっちに召喚される前に、なにも存在しないかのような空間で聞いた女の言葉。

 「ああっ! もう! なんなこの子は!」「しょうがないわね……時間が無いことだし、このままでいいや。言葉が通じなくてもどうにかなるでしょう」

 そんなことを言っていたのを、マリティアに伝えると、彼女は目を見開いて黄昏という刀を見た。

 『もしかしたら、この黄昏には人格を持った存在が憑いているのかもしれません。そういう魔法具があると、前に祖母から聞いたことがあります』

 いわゆる幽霊みたいなものなのだろうか?

 乏しい知識でそんなことを思いながら、しげしげと黄昏を見る。

 だとするのなら、随分適当なのが憑いているのだろうか? まあ、とりあえず、コミュニケーションができないという困った事態にならなくて済んではいるが……

 そこまで考えて、ふと思う。

 ここが異世界だというのなら、なんでこの子は日本語を知っているんだ?

 その疑問をノートに書いて伝えてみると、マリティアは恥ずかしそうに微笑んだ。

 『祖母の家にはいっぱい色んな本があったのです。それを読む為に色んな文字を覚えていて、その中に日本語もあったのです。とはいっても、喋ることはできないのですけどね。あくまで文字を理解できて、書けるだけです』

 などと謙遜してくるが、英語も満足に書けない読めない奏からしてみたら、とんでもない話だった。しかも、自分の歳より半分ぐらいしかなさそうな少女が、母国語以外にここまで流暢に書けれるレベルに達している。

 一種の天才少女という奴なのだろうか?

 そんなことを思っている奏に、マリティアはノートを指し示す。

 『しばらくはご不便をお掛けするとは思いますが、こうして筆談もできますから、なにか不都合があったら私に聞いてください。町に着いたら、言語変換の魔法具が売ってないか探しましょう』

 などと書いていてくれていた。

 良い子だ。

 と思う奏だったが、なにもコミュニケーションの不便さを気遣われただけでそう思ったわけではない。

 彼女は今、無理をしている。こんな遺体がそこらかしこにある空間で、自分に心配を掛けまいと取り乱さずに、見知らぬ年上の男性と接しているのだ。

 あるいは、奏に集中することで、今の環境を意識しないように努めているのかもしれない。

 そのどちらか、もしくは両方であっても、奏は感心した。

 良い子である上に、強い子でもあるな……同じ頃の自分とは大違いだ。

 なにもできなかった十年前の出来事を思い出し、思わず自嘲気味に笑ってしまったその時、異変が起きた。

 それまで振動一つすらしていなかった飛行船が、急激に揺れ出したのだ。

 なにが起きたのかわからないが、明らかな異常事態に反射的にマリティアの上に覆いかぶさる奏。

 驚く顔を見ると同時に、上からなにかが落ち、奏の後頭部に当たる。

 確認すると、天井板だった。

 その崩壊は、船内の至る所で起き始め、天井に壁に、床に亀裂が走る。

 なにが起きているんだ!?

 思わずマリティアを見るが、彼女は首を横に振る。

 流石に飛行船、しかも、魔法などというものが存在している世界の代物をどうこうすることができるはずもない。なら、どうするか。

 答えは決まっていた。

 マリティアを黄昏が収まっているケースごと抱き抱え、彼女が小さい悲鳴を上げるのを無視して、通路に出る。

 そして、出入り口らしき場所に向い、探す。

 旅客機にはパラシュートなどは基本的についていない。だが、それはあくまで奏がいた世界での話だ。もしかしたら、空中でも脱出可能ななにかがあるかもしれない。

 そう考えての行動は、マリティアにも意図が伝わったらしく、彼女はなにかを叫んで壁の一部を指し示す。

 そこには小さな扉らしきものがあり、近付くと、マリティアが手を伸ばし開けてくれた。

 中には、紐の付いた勾玉のような物が大量に収められている。

 マリティアがそれを二つだけ取った瞬間、船内の亀裂が更に大きくなり、天井に近くにあるドアより大きな大穴が開いてしまった。

 空を飛ぶ乗り物の内部と、外部では気圧差が存在している。

 気圧が低くなればなるほど人体に悪影響を及ぼすため、地上と同じ気圧になるように加圧されているのだ。

 つまり、いきなり外との隔たりが無くなればどうなるかというと……

 大きく開いた天井の亀裂に、奏とマリティアは吸い込まれるように入り、船外へと吸い出されてしまった。

 なにもない空に投げ出され、ほどなくして落ちる感覚が生じ始める。

 身体がどうしようもなくくるくると回り、身を切り裂くような風をその身に受けながら、奏はマリティアが遠心力で吹き飛ばされないようにぎゅっと抱く。

 飛行船の高度は、少なくとも雲の上にあったことを考えて、なんの装備もなく落ちれば間違いなく即死する高さだろう。

 マリティアが手に取った物が、どんな効果を発揮するかわからないが、それに賭けるしかないのだが……

 奏の目に、急速に近付く森が入る。

 どうやら雲が下にないタイミングで外に吸い出されたようだ。

 まだなにも起きないのか!

 どんどんどんどん下にある木々の姿が明確に見えです。

 木の枝を利用して落下の衝撃を殺せるか?

 などと考えた時、不意に落下速度が緩み出した。

 同時に肌を切り裂かんばかりに吹き荒れていた風も無くなったので、胸の中にいるマリティアを見てみると、両手をがっしりと合せて握り、何事かをつぶやいている。

 その手の中から淡い光が漏れている様子から、どうやら勾玉のような魔法具が効果を発揮し始めたらしい。

 とりあえず一安心か……

 安堵する奏の目に、飛行船の姿が入る。

 ゆっくりと地面に向って落ち始める奏達に対して、急降下していた。

 しかも、飛行船は原型がどんなものだったか推測すら許さないほどにバラバラになって、奏達とは違う降下地点へ叩き付けるように落ちる。

 奏はその落下物の中に、カーテンで拘束した女の姿を目撃したが、まあ、殺人犯に同情するほど清い心を持っているわけではないので、直ぐに気にするのを止める。

 魔法が存在しているということは、やっぱり魔物とかも存在しているんだろうか?

 そんな嫌な予感に襲われながら、奏達は森の中にゆっくりと入った。

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