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武装魔人  作者: 改樹考果
エピソード弐『輝く女』
13/15

一、『ピルット=クルット』

 学生服を着てなければ未成年どころか真っ当な人間であるかどうかさえ疑念を抱かせる少年・白技(しらぎ) (そう)の前に、二人の魔女があった。

 あったとしたのは、片方が既に死亡していることと、もう片方が人であるかどうかさえ疑問だったからだ。

 死亡しているのは、赤いローブを着込み、髑髏の仮面を付けた異世界召喚管理局執行官。

 直前まで彼女は、奏が異世界に召喚されたという事実を基に、彼を世界規模の危険な人物と偽装し、既に組織として末期となっている管理局の存続を図っていた。

 しかし、偽装のために誰でも使える古い魔法具を使っていたことと、連れてきた局員達が非戦闘職であったこと、そして駄目押しのように奏を見下していたことが敗因となり、無力化され掛ける。だが、その直後、執行官は偽装の本命として用意していた小型戦術核兵器デイビー・クロケットを取り出し、撃ち出してしまった。

 核爆発が起きる直前、その窮地を救ったのは、もう一人の魔女だった。

 ピルット=クルット。

 奏がこの世界に召喚されることになった原因であるその女は、彼の手によって殺したはずだった。

 黄昏という銘の刀を胸に突き刺し、崩落する崖の中に叩き込んだ。

 血を流し、岩に当たり、姿を消す姿もしっかりと確認している。

 なのに、今、目の前にいるのは、最初に見た時とほぼ変わらない姿。

 虹をイメージして染めているのか、右から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と七色の色をした地面にたれるほど異様に長い髪。その髪で鼻と口以外を覆い、格好はぼろぼろの白いローブ。

 幾つか違う点があるとすれば、具現化機構具(ハイ・ブルーム)と呼ばれている現代の魔女達が使っているステッキ・箒が無くなっていること。

 彼女の具現化機構具(ハイ・ブルーム)は、髪の色と同じ七色のリングだった。

 それを身体の各所で高速で回転させながら浮かせ、飛行や光線を撃ち出していた。

 奏を召喚した少女・マリティア=ムリリムは言った。

 具現化機構具(ハイ・ブルーム)がなければ、魔法使いは魔法を使えないと。

 見た所、それらしきものを彼女が持っている様子はない。

 しかし、光線は少なくとも二回放たれているのだ。

 一回目はデイビー・クロケットが撃ち出した小型核弾頭を消滅させ、二回目はそれを撃った髑髏女の腹。

 あるいは、奏にはわからない別の具現化機構具(ハイ・ブルーム)を使っているのかもしれない。

 とはいえ、そんなことは奏には細かいことだといえる。

 彼にとって重要なのはただ一つ。

 こいつは、マリティアを殺そうとしている。なら、その前に殺すだけだ。今度こそ確実に。

 明確な殺意を心の中で圧縮し、ゆっくりと歩き出す。

 正面から距離感を間違わせる認識齟齬歩法でだ。

 これはそれを使ってくるとわかっていても、人間の仕組みや心理を利用したものであるため、簡単には気付くことができない。

 ましてや今はマリティアを抱えていない一人の状態だ。

 崖の上で使った時より、相手に合わせ易く、それ故に速く、それでいて更に近くに接近できる。

 向こうも向こうで奏に向ってニヤニヤしながら歩いているのだから、瞬く間に距離が縮み、後一歩という距離になって初めてピルットは驚いた顔を見せた。

 「なにそれ? なにそれ?」

 疑問の言葉が彼女から出ると同時に、奏は胸の上に右手を置いた。

 寸勁モドキを放とうとしたのだ。

 だが、

 「それって、それって、崖の上のと同じ? 同じ?」

 平然としているピルットに違和感を覚えた瞬間、奏は触れた手に強烈な熱さを感じる。

 反射的に手を退けつつ、掌を確認すると爛れていた。

 防御魔法か!?

 だが、骸骨女のガラスのような防御魔法とは明らかに違う。

 その身体の表面に熱が纏わり付いているということなのか? だが、崖の時はそんな魔法は使ってなかった。俺対策なのか?

 舌打ちをしたい気分だったが、そんな暇をピルットが与えるはずもなく。

 「ピッカーピッカー」

 ふざけたセリフと共に、ピルットの両眼が光る。

 奏が横にスライドするように移動する同時に、光線が目から発射された。

 二本の光線が石畳の上を走り、溶かして穴を開ける。

 なんだ!? 光線の出し方が全く違う? なんでわざわざ変えた。

 理由がわからないが、出所がわかれば、攻撃に転ずることができる。

 目から途切れることなく撃ち出され続ける光線を、ピルットの死角・背後に移動し、回避し続けつつ、ズボンのポケットから防御魔法の魔法具を取り出す。

 真珠の指輪のようなそれの側面にあるスイッチを押し、両手に一つずつ握り、ファイティングポーズになる。

 爛れた右手が痛みを訴えるが、強引に無視。

 ピルットが奏を視界にとらえるために、身体ごとくるくると回り始める。

 その動きに合わせ、背後にピッタリと張り付くように移動しながら、奏は拳を振るった。

 後頭部に右、左。

 当たる直前で、拳の前に紫電が発生し、触れずにピルットの頭を揺らす。

 熱さは感じない。これなら!

 魔法具の効果に確信を持てた奏は、拳を打ち込む速度を上げる。

 背後から両脇腹・背中・後頭部に連続で拳を叩き込み続けるのだが……

 おかしい。

 一撃一撃、確かにピルットの身体を揺らし、凹ましてはいる。だが、手応えがない。

 ピルットの動きも一切変わらない様子を見れば、紫電の防御魔法越しだからという理由だけではないだろう。

 まるで中身のない人形を殴っているみたいだ。

 そう思った瞬間、ピルットの首がぐるりと回った。

 身体を正面に向けたまま、顔だけを背後に向けたのだ。

 人間の身体構造を無視した動きに、奏は僅かに反応が遅れてしまう。

 腰を落とし、身体を斜めに傾けて目から出続ける光線を避けようとするが、回避が完全には間に合わず、右肩をかすめてしまった。

 強烈な熱さに襲われつつ、アッパーカット気味に拳を振るい、ピルットの顎をかち上げる。

 光線が石畳から、近くの建物へと当たり、熱で溶けた赤い線を形成したのだが。が、何故か建物にはそれが発生しなかった。

 代わりに幾何学的な文字が赤煉瓦の壁に現れるのを見た奏は、気を足に集中させ、一気にその場から離れる。

 「あれー? あれー? どこ行った? どこ行った?」

 建物の影に隠れると共に、ピルットが光線を出すのを止め、首を三百八十度ぐるぐる回して広場を見だした。

 どう見ても人間なら死んでいないとおかしくない動きだ。なのにピルットは平然としている。それどころか楽しそうに笑っているのだ。

 流石の奏も背筋が寒くなる思いだった。

 奏が身に付けた技は、あくまで人を殺す技だ。

 化け物を殺す技など持ち合わせているはずもない。そもそも、この変化は一体なんなのか、皆目見当つかない。

 飛行船の中でも、崖の上でも、奏の拳は確かにピルットに届き、ダメージを与えることができた。

 なのに、今は触れれば火傷し、打撃を与えてもなんのダメージも受けず、それどころか人体構造すら無視して身体を動かす。

 明らかに奏の対応力の限界を越えている。しかし、自分よりこちらの知識を持っているマリティアに聞きに戻る訳にもいかない。

 ピルットの目的が、彼女である可能性がある以上は、少しでもリスクは減らすべきなのだ。

 ちらっと右肩を見る奏。

 僅かしかかすってはいないのだが、それでも服も皮膚も黒く炭化していた。

 下の筋肉まで影響が出ているわけではないのか、右腕は動く。

 いや、それどころか、奏の見ている前で、炭化している部分が割れ、崩れ始めた。

 その光景に目を見開いて驚く奏だったが、危機感は抱かなかった。

 何故なら、痛みどころか、むず痒さと熱さを感じる。

 まるで傷が治ろうとする直前のような感覚が、圧縮して押し寄せると共に、黒くなった皮膚が全て剥がれ落ち、その下から現れたのは一切傷のない肌。

 奏の身体は十年にも及ぶ激しい修行により傷痕だらけだったのだが、それすらなくなって回復してしまった。爛れた掌もまた同様。

 これも気の影響なのか?

 ありえない回復速度に、髑髏女の言葉を思い出す。

 異界の化け物。

 まさにその通りになったような自分の変化に苦笑しつつ、思う。

 だからどうした? 相手も化け物なのだ。丁度いいじゃないか。

 だが、同じ化け物でも、奏の方はダメージを負うのだ。

 そうであるのなら、人の限度を超えたダメージを受ければ死ぬのは確実であり、このまま特攻しては無駄死になる可能性がある。

 唯一の好転材料は、建物。強力な防御魔法が掛けられているのか、光線が通じないのは非常に有益だ。

 なら、路地に誘い込み、ヒット&ウェイで――

 そう思った時、奏の耳に複数の人間がこっちに近付いてくる足音が入った。

 管理局の増援か!?

 そう思ったが、広場に現れたのは白いローブの集団だった。

 胸の部分に盾と杖が描かれたエンブレムが付いているのを確認した奏は、彼女達の雰囲気からこの町の警察ではないのかと推測した。

 警察らしき彼女達は、広場噴水近くに倒れている髑髏女と、首をぐるぐる回しているピルットを発見し、一斉にローブの下からライフル銃を取り出し、腰だめに構える。

 「くるくる~くるくる~」

 首を回すのが気に入ったのか、ふざけた言動をしているピルットに銃口が向けられ、一切の警告なしに発砲された。

 ただし、撃ち出されたのは、銃弾ではなく、光の球だった。

 しかも、小さな球体は他の球体と空中で繋がり、一本の光の紐となってピルットに巻き付く。

 「あはは、あはは」

 光の紐に全身を絡め取られながら、彼女はそれでもなお楽しそうに笑う。

 まるで意に介していない様子に、警察は更に光弾を撃ち、光の紐の拘束を増やす。

 それを何度も何度も行い、ピルットの姿が見えなくなるほどになってようやく止めた。

 怯えているのか?

 あまりにも過剰なその反応に、奏がそう感じた時、光の紐団子の中から、なんの抵抗もなくピルットが出てきた。

 まるで虚像かのような出現の仕方に、どよめきが起きる。

 そして聞こえてくるのは、

 「魔神」「魔神だ」「やっぱり魔神だったんだ」

 恐慌状態と言っていいほどの声だった。

 魔神?

 まるでその言葉に合わせるかのように、更なる変化がピルットの身に起きた。

 パリパリと音を発て、脱皮のように服が、顔が、手が、足がめくれる。

 そして、現れたのは、七色の光が渦を巻いて辛うじて人の姿を保った化け物だった。

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