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武装魔人  作者: 改樹考果
エピソード壱『狙われる少女』
12/15

六、『召喚能力』

 「召喚魔法ってのはな。人間だけを召喚するものじゃねえんだよ」

 そう言いながら、髑髏女は自分と同じぐらいの大きさの筒を片手で持ち上げ、三脚を使って上に立てた。

 とても一人で、ましてや片手でできるような大きさではないのだが、身体機能を上げる魔法でも使っているのかもしれない。

 「建物、土地、道具、本、武器、そして、兵器」

 魔法の補助があっても、寸勁モドキを受けたダメージが抜けきってないのか、デイビー・クロケットに寄り掛かる髑髏女。

 「そうやって召喚された物は、昔は国家運営や社会変革に利用されていたが、今では影響が大き過ぎるとして封印処理されている……だが、私らの立場を利用すれば、こうして持ち出すこともできるのさ」

 髑髏女の言葉を聞きながら、奏は納得していた。

 どうやって自分とマリティアで、末期である異世界召喚管理局を存続させられるほどの悪に仕立て上げるかと疑問だったのだ。

 マリティアは幼く、この世界の住人だが魔法使いでもない。

 奏は、人を素手で殺せるほどの実力を持つが、魔法が存在する世界では大したことではないだろう。

 どちらも、そのままだったら、国際的な組織を維持させるほどの理由にはなりえない。

 しかし、召喚された奏が、世界を危機に陥れる力を持っていたということにしてしまったら、十二分に必要性を訴えられるだろう。

 つまり、小型核爆弾で、町一つを潰し、町民全員が全滅すれば、十分過ぎる根拠となる。

 そう考えると、町民の姿が見えないのは、彼女達の仕業なのかもしれない。

 なら、あれがはったりということはなさそうだな。だが、そうだとして……どうする?

 奏は現実的に手に入らなそうな凶器に関しては、無駄だと思い知ることを止めていた。

 そのため、武器の扱いはある程度できても、兵器に関することはあまり詳しい知識はない。

 しかし、殺すための道具にある独特な雰囲気は確かに感じることができる。

 鋭く、剣呑な、冷たい無機物な死の気配。

 どうすればいいかわからなくても、とにかく止めなくてはいけない。しかし、位置が悪かった。

 ピルットに使った認識齟齬歩法は、対象の真正面・真っ直ぐ近付ける場所にいなくてはいけない。

 少しでも高低差があり、知覚できる動きをしてしまっては、成立させられない繊細な技なのだ。

 故にマリティアが動いただけで気付かれ、高低差がある今の状況では使えない。

 だが、このままなにもしないという選択肢はないだろう。

 できるのか? いや、やるしかない!

 奏の決断と共に、

 「言っておくが、私の防御魔法はこいつの影響からも逃れられる。使うことに躊躇などしない! そして、これがお前の召喚能力になるんだ!」

 叫びながら筒の側面に付いているボタンに左手を押そうとした。

 その瞬間、奏の左手が霞む。

 「あぐぁ!」

 弾かれるように髑髏女の左手がボタンから離れた。

 激痛に顔を歪ませながら、彼女は自分の手を見ると、そこには白い手甲を砕き、減り込んでいるリングがあった。

 それは奏が奪った局員達が使っていた魔法具の指輪。

 同じ性質の魔法がぶつかり合えば、消滅するのは既に確認済み。だからこそ、防御魔法を発動させながら、指弾で撃ち出したのだ。

 奏の実力なら、ベニヤ板を撃ち抜くことぐらい造作もなく、それほどの威力であれば、手を弾くぐらいはできるだろう。と、思っていたが、これもまた彼の想定以上の威力を発揮していた。

 一歩間違えれば、狙いが逸れてしまうほどの向上。しかし、既に自身の身体能力がなにかしらの理由で底上げされているのはわかっていたので、奏はそれを想定して狙いを修正することができていた。だから、見事に当てることができた。その上、そういう集中の仕方をしていたおかげか、自らの身に起きている原因も特定することができていた。

 なにかが周りに満ち、それが身体に入り込み、身体能力を向上させている。

 それがなんなのか奏にはわからない。

 だが、一呼吸する度に、正確には身に付けてきた技術の中で、気という概念が含まれたものを使った時、身体機能が一気に向上しているようだった。

 魔力の次は気か……

 それが本当に自身の知っている気であるかどうかわからない。重要なのは、どういう性質であるかということ。それ以外は細かいことであり、後で知り考えればよい。使えるのなら使うだけだ。

 そう思った奏は、呼吸を気に関すると言われているものに切り替える。

 すると身体の中になにかが入ってきた。

 入ってきたなにかを意識しながら、気に関する動きや心得などを試す。

 身体の中にそれが広がり、満たされる。

 更にそれに対して意識したことにより、しっかりとそれが身体にどう作用しているか感じることができた。

 身体を自己診断できるほどにわかることができるのだ。そこまで認識できれば、後はどう流せばいいか、どれだけの量を浸透させれば、どれくらい強化されるか、なんとなく理解できる。

 僅かな時間で仮定気の性質を必要最低限なレベルまで理解した奏は、ふっと息を吐き、屋根を蹴った。

 刹那、奏は広場の、髑髏女の前に着地していた。

 「なっ! 『気装操術』だと!?」

 なるほど、こっちの世界では、これはそう呼ばれているのか。確かに気を纏っているような感じがしなくもない。

 そう思いながら、髑髏女の手を取り、背中に回し、更に首を拘束する。

 「ははっ! どうやらハズレを引いちまったみたいだな……武術家タイプだとは思っていたが、達人レベルだとは……」

 よく喋る奴だ。

 若干呆れながら腕の力を強めようとした時、ずらされた僅かに晒されている口元が歪む。

 「だがな! もう終わりなんだよ!」

 彼女の宣言と共に、デイビー・クロケットがいきなり点火した。

 「念動魔法なんてな、基礎中の基礎なんだよ!」

 そう叫ぶ髑髏仮面の女の手には、いつの間にか小さなステッキが握られていた。

 いつ出した!? いや、そんなことより!

 猛烈に噴き出す爆風に反射的に髑髏女を盾にする。

 「てめぇ!」

 激昂する彼女の前に防御魔法が発生し、密着している奏ごと保護した。

 その間に発射される小型核弾頭。

 一気に上空に上るそれを見もせずに、奏は髑髏女の首を絞めながら持ち上げようとした。

 密着すれば防御魔法がその人物まで反映されたのだ。マリティアの下まで辿り着けば、彼女を核爆発から助けられる。

 即座にそう判断し、気を全身に充満させ、髑髏女との間合いを刹那に縮めた歩法を使おうとした。

 兵器に関することまで詳しくない奏は、どのタイミングで弾頭が爆発するかわからない。

 故に、なんの練習もしていない気を使った歩法に賭けるしかなかったのだ。

 しかし、奏はそれしかない選択を選びながら、冷静に分析していた。

 これは失敗する。どんなに素早く走っても、入り組んだ路地の奥にマリティアは隠れているのだ。しかも、まだ気の性質を正しく理解していないし、把握もしていない。そもそも本当に気であるかどうかすら疑わしい。仮にそうだったとしても、自分の世界に伝わる技術がこちらの世界で正しく使えるかわからない。それは一瞬であれば誤差は少ないかもしれないが、長ければ長いほど、リスクは増大するだろう。

 気によって意識が加速化されたのか、ゆっくりと動く周りの光景の中で、奏の思考は最悪な状況しか想像しなかった。

 だが、しかし!

 奏に諦めるという言葉は生じない。

 ただただ僅かな間に合う可能性を求めて、一歩踏みだ――そうとした瞬間、閃光が走った。

 「なっ!」

 髑髏女が上を見上げ、驚きの声を上げる。

 持ち上げるという動作が加わったため、首絞めが甘く、気絶までには至ってなかったのだろう。

 そんな彼女が見たものを、奏も視界の隅で見ていた。

 閃光が上へ上へと向かう小型核弾頭を巻き込むように走ったのだ。

 小規模の爆発が起こり、四散。更に町全体を包み込む光の壁が発生し、なにかを防いでいるようだった。

 放射線でも防いでいるのか?

 それぐらいしかわからない奏だったが、とりあえず、これで核爆発の脅威はなくなった。

 だが、誰が?

 そう思いながら、奏は嫌な予感に襲われていた。

 「ふざけんな! 誰だ! 誰が撃ち落としやがった!」

 奏に半ば持ち上げられる形で拘束されながら、髑髏女が暴れる。

 その瞬間、奏は彼女を離し、気を使った歩法で瞬時にその場から離れた。

 「あん? なんの――」

 髑髏女の言葉は途中で途切れる。

 ゆっくりと首を下に向けた彼女が見た自分の腹部に、炭化した空洞がぽっかりと空いていた。

 その穴の前には半透明なガラスのような防御魔法が展開されていたが、それにすら同じ直径の穴が開いている。

 「ば……かな……」

 核爆発すら防ぎ切ると豪語した防御魔法が、あっさり破られる事態に、目前に迫った死すら忘れて愕然とする髑髏女。

 そして、その視線は、その穴を開けた人物。彼女の正面遠方にいる人物に向けられた。

 「は、犯女……ピルット=クルット……」

 名前を呼ぶと共に、白目をむき崩れ落ちるように倒れる髑髏女。

 そんな彼女を見向きもせずに、奏は広場に入る大通りへと目を向けた。

 「ムカつく。ムカつく。ピルットさんより目立とうなんて、目立とうなんて、とても、とても、ムカつく、ムカつく」

 などと言っている女がそこには立っていた。

 それは森の中の崖で殺したはずの魔女だった。





   エピソード壱『狙われる少女』終了


    ネクスト


     エピソード弐『輝く女』






 再起動まで後、(とお)(ここの)()(なな)()(いつ)()()(ふた)(ひと)、再起動完了。

 彼女の意識が目覚めた時、そこは闇の中だった。

 (あらら? これはどういう状況なのかしら?)

 疑問に思った彼女は、感覚機関を最大限に活動させ、周囲の環境を調べる。

 すると、今自分がいる場所が、岩の下だということがわかった。

 まるで土砂崩れにでも巻き込まれたような状況だったことに、彼女は大いに疑問に思う。

 (飛行船の中にいたはずよね? しかも、どこにもマリティアちゃんがいないし……あの子もいない……ん~誰もいないのは……ちょっとまずくない?)

 などと思うが、身動きが取れない状況下であることには間違いない。

 (まあ、私がこうしてここにあるってことは、今は安全な状況下にいるってことなんでしょうね。なら呼ばれるまでもう一眠りしてようかしら?)

 仮眠まで後、(とお)(ここの)()(なな)()(いつ)()()(ふた)(ひと)、仮眠開始。

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