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(小赤)
廊下の窓から君が飛ぶのが見えた。
(誰かが池に放した金魚が重なる)
(縁日からずっと水面近くを泳いでいた)
(水草だらけのところに居られないんだ僕ら)
君は呼吸するために外へ飛び出た。
(でも僕は窓枠にしがみついて君を見下ろす)
(息を吸いつづけ体を膨らまし)
(水風船のような薄皮で浮かぶ)
地面の上で呼吸だけが自由だった。
(波紋が広がっていく)
(集まる足音は祭り囃子で)
(君は金魚だった)
中庭の暗がりで花火にもなれなかった君は、
(僕で)
(私)
(。)