タツヤとコウセイ
「なあ、コウセイ、オレを知ってるか?」
「ううん、僕は兄貴の弟ってことしか分からない。お兄さんは知らない」
「そう、それでいいんだ」
「ねえ、ここはどこ? 青いね」
「青い空の下だ」
「でも、地面も青いよ」
「海の上なんだ。海面に立っているんだ」
「でも、波がない」
「そう、ここには空と海しかない」
「ここは、お兄さんの世界?」
「そうだね、オレたちの世界の外側だ」
「内側が、あるの?」
「ある。ここじゃない場所に」
「そうなの。僕はどうしていればいいの?」
「何もしなくていい」
「兄貴に会いたいな」
「甘えん坊なんだな」
「兄貴にきかれていないからね。きかれていたら、すごく恥ずかしいよ」
「オレも、会いたい人がいるんだ」
「どこにいるの?」
「遠い世界」
スノさんの机の上に、写真が置いてあった。俺はそれを手に取り、息を吐く。
「それが、青の世界の写真。たっくんの弟君がいる場所」
「どうして、ここにいるんだ?」
「君と、もう一人の人物がそれを望んだから」
もう一人の人物だけでなく、俺自身が望んだという事実に驚いた。こんな場所、知らない。知らない場所に行くことを望んだのか、俺が。
「君が覚えていることは何もないはずだよ」
「え?」
スノさんは青い光を放つ石を掌で転がす。青い光が増す。
「これに全てが記録されている。こんな、小さな石にね」
「記録されるほどのものなのですか?」
「関係ないんだ。もう一人の人物がこれを使った。それが記録される理由だ。それでいいんだ」
スノさんは石を落とし、踏みつぶした。固いはずなのに、簡単に壊れた。不思議に思いながらみていると、青が視界で塗りつぶされた。
美しい青に、泣きそうになった。
「お兄さん、青に意味はあるの?」
「意味があることではない。意味を見出すことに美しさがある」
「それは、何?」
「意味があるもの、意味がないもの。それぞれたくさんあるけれど、意味を探すことが美しいのだから意味なんていいじゃないか、っていうこと。オレが考えた。」
「意味は、自然と見つけるものでしょう?」
「驚いた、オレの弟と同じこと言うんだね」
「気が合いそうだなあ」
「ふふ、呑気なところも似ているよ」
「呑気なほうが、楽しいからさ」
「兄ちゃんはさ、何も覚えていないの?」
「ああ」
公園のベンチに座って、光星と話す。光星はベンチから離れ、ブランコに座った。
「兄ちゃんのこと、ボク知ってるよ」
「そりゃそうだろう」
「でも、もう一人の兄さんのことも知ってるの」
「それが、スノさんが言う、もう一人の人物か」
「そうだね。でも、会ったら、もう一人とは思わないかもね」
「なぜ?」
「だって……え?」
何が起こったのか分からない。氷、なのだろうか。いや、あれはナイフ……金属、大きな刃物だ。剣のようにも思える。それが、光星の、後ろから……。
「光星?」
「にい、ちゃ……」
光星の荒い息遣いがきこえる。逃げるか。駆け寄るか。迷うな、逃げるに決まってる。でも、ここで逃げたら、光星が……いや、でも本当の弟じゃないんだ。逃げたっていいじゃないか。でも、光星は覚えていると言った。もう一人の人物、それが誰かを知っているのは光星とスノさんだろう。どうする、俺、どうするんだ、早くしないと、俺が、俺が。
「殺される、と思ってるでしょう?」
その声は、俺の耳元に現れた。