高校生・1年・冬・公園
「お前は本当に光星なのか?」
「なにいってるの、兄ちゃん」
「秋からずっとおかしいんだ」
すべてが、青いんだ。
スノさんは本を燃やしていた。なにがしたいのかわからないが、とりあえずスノさんの横に座る。
「やあ、たっくん」
「こんにちは、スノさん。何故、燃やしているんですか?」
「必要ないからだよ」
本を愛するスノさんが、本の必要性を理由にするとは思えなかったが、黙っていることにした。すると、泣きそうな顔をしたスノさんが俺の頬を優しく包んだ。目蓋を撫で、眼球に触れた。
「!」
反射的に退く。ツキンと痛みが走るが、声はあげない。スノさんはまだこちらを見ている。目を見ている。
「知ってしまったんだね」
それが、光星のことであるということはすぐにわかった。頷くと、スノさんは店に入っていった。炎に手をかざし、暖まる。
スノさんは一冊の本を持ってきた。表紙は真っ白。冊子のように見えるが、とても厚い。それを俺に渡す。
「これは?」
中も真っ白だった。スノさんに影響され、本を愛するようになった俺だが、先ほどの彼のように必要ないと思ってしまった。でも、スノさんはこれをもっていた。つまり、必要なのだろう。
いったい、なにに?
「これは、記録だ」
本を返すと、スノさんはそれを燃やした。白が黒に変わっていくのを、俺たちはただ見ていた。
「君は、どこまで知っている? どこまで把握したんだい?」
「光星が、光星じゃないこと。世界が青いこと」
「そうか」
スノさんが目を閉じる。彼の目まで青くなるのではないかと予想したが、彼の目は黒のままだった。
「たっくん、これはね」
世界の、ほんの一部でしかないんだよ。
「兄ちゃん、兄ちゃんはさ」
「光星、黙れ」
「……」
「俺は、どうして、目が、目……どうして」
「兄ちゃん」
「黙って」
「黙らないよ。話さないといけないことがあるんだ」
「それは、俺の求める答えか?」
「兄ちゃんの求める答えなんて、知らない」
「ちょっと待ってくれ。…………いい。もう大丈夫。落ち着いた。話して」
「ボクはね、ボクは、」
兄ちゃんの、竜也の弟じゃないんだ。
光星の目は青く光り続けた。
■ ■ ■
僕は積み重なる本を崩した。雪崩は雪崩を起こし、雪崩が雪崩を止めた。
「どうして、こうなる」
僕は自分の失態に気づいていた。おそらく、彼も失態を犯したのだろう。じゃないと、たっくんが気づくはずがない。
「僕だけなのに」
僕が、たった一つの鍵なのに。なのに。
「ごめんよ、タツヤ君、コウセイ君」
もう、ダメかもしれない。