高校生・1年・秋・放課後
「竜也くん、付き合ってください」
「どうして?」
「好きだから」
「それは一時の感情だ。きっと、俺よりもいい人がいる」
「一時の感情に流されてはいけない?」
「きみがいいなら、いいと思う。でも俺は嫌いだ」
「そっか。また明日」
「また明日」
放課後、新しい本を買うために急いで帰る。こういうときに告白を受けるというのは、誰かが邪魔をしてやろうとするようで、イライラする。告白を受けるのは初めてだが。
早足で路地裏に入る前、どうして告白されたのかを考える。彼女は好きだからといっていたが、どうもよくわからない。好きだから付き合う。それが普通なのか。好きだから、遠くで見守っていたいという考えも、好きだから、あえて嫌いでいようとする考えもあるはずだ。
「あ、たっくん。今日も来たの?」
スノさんが箒を持って、玄関口の掃除をしていた。いつも微笑みを絶やさない人だが、珍しく焦っていた。
「スノさん、どうしたの、焦って」
「えっと、そのー」
困ったように笑って、足元を指差した。
「ほら、虫の死骸があってさ、大変だったんだ」
店の奥で光る青色を視界に入れながら、スノさんに微笑み返した。
「おかえり、兄ちゃん」
「ただいま、早かったな」
帰宅すると、エプロンを身につけた光星が出迎えてくれた。音から察するに、今日は揚げ物らしい。
「二階にいるよ」
「あ、もう出来るから」
二階に逃げることさえも出来なかった。
風呂から上がり、秋の夜の寒さに震えながら、弟に呼びかける。
「風呂、あいたぞ」
「はーい」
ドタドタと音をたてて、階段を下りてくる。
着替える途中、風呂場に服を置いたまま来てしまったことに気が付いた。風呂場のドアをあけると、光星にぶつかった。
「いたー……」
「ああ、ごめ……」
額をさする光星が上目遣いでこちらを見る。目が、青かった。
「どうしたの? あ、服か」
「あ、ああ」
服を受け取り、逃げるように二階に上がった。邪魔されることなく上がったので、考えに集中することが出来た。
どういうことだ。目が青い。日本人だぞ、目は茶か黒のはず。なぜ青かったんだ。見間違えなんかじゃない、光っていた。光る青。
スノさんの焦ったような笑みが思い浮かんだ。