意地悪良一といじられ遥の冬散歩
雪の降る、ある寒い冬の日。人並みの少ない道を二人の人影が歩いていた。
「遥はさ、冬ってどう思う?」
「どう思うって?」
「どうもこうもないよ。そのまんまさ」
いまいち要領を得ない良一の質問に、遥は首をひねる。
「うーん…きれいとか、寒いとか、そういうこと?」
「どうだろうね?」
「あ!困らせたいだけ!?」
意地悪に「シシッ」と笑い、良一は歩き出す。
特にどこかに行くわけでもない。
目的もない。
ウィンドウショッピングみたいな気分で歩いていたが、別段見るお店もない。
ただ歩くだけ。
これが本来の散歩なのだろう。
「うう、しかし寒いな」
「あ、良一、あそこ自販機新しく出来たんだね」
そう言った時にはすでに良一は自販機に向かって走っていた。
「あったあった!白玉入りスーパーデラックスおしるこ!」
「へえ、これ自販機でも売ってたんだね」
「うをぉぉぉ!しかもこれ増量バージョンじゃん!やるなヨントリー…購買意欲を刺激してこのお汁粉通の俺に金を出させるだけでなく量を増やしてお得感も出すとは!」
「どうでもいいから早く買おうよー」
手がかじかんでいるせいかなかなか財布から小銭を出せない。
最終的に遥に出してもらう羽目になっていた。
ガコンという音とともにお汁粉の缶が出てくる。
「お~いいね~あったかいね~」
「私も買おうかな…ってあれ?」
「どした?」
「お財布家においてきちゃった…」
「…」
「……」
しばらくの沈黙の後、良一が飲みかけのお汁粉を差し出した。
「まだ半分くらい残ってんだろ。飲んでいいぜ」
「え、でも…」
「ん?いらないなら飲んじまうぞ?」
「あ、いやいや!もらうもらう!」
(良一は間接キスとか気にしないのかな…)
良一と遥は別に付き合っているわけではない。
家が近いから散歩に出かけるとよく会うのだ。
「…おい、冷めるぞ?」
「あ、う、うん」
急かされてあわててお汁粉を口にする。
その途端良一が再びあの意地悪な笑みを浮かべた。
「今の、間接キスだな」
「げほっ!!」
飲んでいたお汁粉が出そうになるくらいその一言は遥にとっては強烈だった。
咳き込んでいる遥を見て雪の中腹を抱えて笑っている良一を呪い殺さんとばかりに遥は睨みつける。
「ちょっと!!」
「シシシシ!わりいわりい」
「もお…」
二人は缶を捨て、家へと向かう。
雪はだんだん強くなってきて、二人は少し急ぎ始めた。
「私思うんだけど、なんかさあ、雪って痛いよね」
「…なんで?」
「いや、だってさ、こう肌に当たると冷たくなってきて、ちょっと痛くなって…」
「ああーそりゃわかるけど」
「で、だんだんそれがくすぐったくなってきて…次第に悪い気分じゃなくなってきて…」
「…M?」
「なッ…違うわよ!」
「大丈夫、前からなんかそんな気はしてたんだけど今確信した」
「ちょっと!」
「そうかー。んじゃこれからもっといじってもOKなわけ?」
「あのねえ…」
「安心しろ!俺はいじり甲斐のあるやつは好きだぜ?」
その瞬間遥は自分の顔がものすごく熱くなっているのを感じてあわててそっぽを向いた。
ばれるのが急に恥ずかしくなった遥はすぐに走り出した。
「も、もう帰る!」
「あ、ちょっと待ってくれよ~!」
しばらくして十字路に着いた。
ここでいつも別れる。遥は右へ、良一は左へ。
「じゃあね」
「おう!また今度な」
家に着いた遥は自分の顔がひりひりしてきていた。
真っ赤になってしまっていて、かゆい。
「うええ…しもやけだよぉ…もー!雪なんでこんなに降るのよ!あーもう熱いしかゆいし…」
しばらく悶えてから、ふと考える。
「なんで急に顔熱くなったんだろ…あいつにまたおちょくられて…」
考えれば考えるほどわけがわからない。
遥にはよくわからなかったが、それでもまだ顔は熱い。
急に熱くなったまま、しもやけなのか何なのかわからなくなっていた。
「きっとしもやけだよね、うん」
この顔のかゆさはしもやけによるものだが、顔の熱さの原因は、別のものだということを遥が自覚するのは、もう少し先だった…
読んでいただきありがとうございます!
ばかばかしいけどどこか微笑んでしまうような短編になっていてくれているといいですが、どうでしたでしょうか。
これからもがんばりますw