シュークリーム・ユニヴァースについて
シュークリーム・ユニヴァースという概念があります。たぶんSF好きな人でないと知らないと思いますが、れっきとした科学用語です。
クラウス・シュペルバーによって1935年に提唱された、宇宙の誕生についての理論です。
もちろんシュークリーム・ユニヴァースというのは新聞記者によってつけられた俗称なのですが、クラウス自身もこの名称を気に入っており、著書や論文の中でも何度も使用しています。
理論自体は(もちろん難しいけどね)感覚的には理解しやすいと思います。
ビッグバン理論では、宇宙の始まりは単一のエネルギーを起源とするものとされています。それに対してこの理論は、宇宙という”空間”と中に存在する”物質やエネルギー”は、別起源だとするものです。宇宙二重構造仮説だったら、聞いたことある人もいるかな?
要するに、宇宙という空間がシューで、中に入り込んだエネルギーがクリームというわけ。
※後で説明しますが、新聞記者からの質問から派生した「シュークリーム」の例えがあまりにキャッチーだったために、その呼び名の方が広がってしまいましたが、本来の意味とは少し違うので注意してください。
もう少し細かく説明すると、まず宇宙という空間が先にできて、その後に――といっても、13.82×10^-9秒という、私の感覚的には「ほぼ同時じゃん!」なのですが――、重なる次元からエネルギーが流れ込み、その97パーセントが光と熱に、残りの3パーセントが物質となったらしいです。
宇宙のエネルギー量の総和が合わないために、ダークマターやダークエネルギーの存在が考えられたという話はご存知でしょう。
この部分をシュークリーム・ユニヴァース理論に当てはめると、宇宙誕生の直後に外部から流れ込んだエネルギーのために、総和が合わないことにも説明がつくそうです。
さて、なぜ今回唐突にシュークリーム・ユニヴァースについて取り上げたかというと、NASAの発表で18.7光年先にある白鳥座β星の方角で、史上初めて真空崩壊が観測されたというニュースがあったからです。
これはびっくりですね。
真空崩壊が発生するためにはエネルギーの総和が負にならなければならず、単一起源の宇宙構造では総和がゼロになるので、通常ありえないとされてるそうです。
ということで今回の観測の結果、シュークリーム・ユニヴァース理論が間接的に補強される形となった、というわけ。
(あくまでも証拠の一つであり、これで証明された!というわけではありません)
ちなみに真空崩壊は連鎖的に全宇宙に広がるという話もありますが、それはとんでも理論の類で、実際にはボイドと呼ばれる泡状に分布する超空洞によって連鎖反応が途切れてしまいます。(でなければ、とっくに地球も存在していない)
さて本題に移りましょう。実は『小説家になろう』も、シュークリーム・ユニヴァースと無関係ではありません。
先ほどちらりと触れた記者の質問について説明しましょうか。
記者の質問はこんな感じでした。
「先だって発売された、ラリー・ニーヴン氏の『空想惑星の未来』という本についてですが。あれはたしか銀河の中に理想の惑星を作るといった物語ですが、この理論に則っていると言えるのでしょうか?」
ちなみに当時の時代背景ですが、ウェルズの『宇宙戦争』が1898年に発表されて大人気を博して以降、まだSF小説と純科学が混在されている時代だったことは考慮してください。
『空想惑星』はこのエピソードの前年、1934年に発表されたSF小説で、ストーリーは以下の通りです。
遠い未来、人類は宇宙に飛び散り、一人一人が理想の惑星を持つに至った。その中では自身が唯一の力を持つヒーローであり、ヒロインである。
全人類は自分の理想の世界を手に入れ、そこで何不自由なく暮らすが、だんだんと惑星同士の壁を越えて争いが起こっていく。
終盤で明かされるが、実は「自分の理想の惑星」というものは存在しておらず、コンピューターにより作られた仮想世界だったのだ。
――皆さんならこれがいわゆるVR世界の走りであることが、理解してもらえると思います。
その当時のリアルな反応までは残念ながらわかりませんが、当時この小説は酷評に近かったらしいという話は聞いたことがあります。
こんな都合のいい、甘ったるい(シュークリームのような!)世界など、存在するわけがない。というわけで、ほんの一時期とはいえ、シュークリーム・フィクションというジャンルまでできてしまいました。
これが、シュークリーム・ユニヴァースの名前の由来なのです。
100年たっても、人間の考えることは変わらないなあ。そうは思いませんか?




