第3章 暗躍する影
1. 雷剣との激突
試合開始の鐘が高らかに鳴り響く――。
「――来い!」
ライゼルの声と同時に、空気が弾けた。
目にも留まらぬ速さで間合いを詰めてくる。
雷光が地面を走り、観客席からどよめきが上がる。
(速っ――!)
反射的に《無限適応》が発動する。
視界が研ぎ澄まされ、ライゼルの剣筋が遅く見えた。
ギリギリで受け止めると、腕に痺れが走る。
「悪くないな、勇者」
ライゼルが笑う。
再び稲妻の突き――その一撃を紙一重でかわし、カウンターを狙うが、雷の加速で空を切った。
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2. アリシアとの連携
「蓮、三歩下がれ!」
アリシアの声が飛ぶ。
俺は即座に後退――彼女が詠唱を開始した。
「《聖光の障壁》!」
まばゆい光の壁が出現し、ライゼルの突進を一瞬止める。
その隙に俺が右側から回り込み、渾身の水平斬りを放つ。
金属音。
ライゼルが剣で受け止めたが、わずかにバランスを崩す。
「はあああっ!」
アリシアの追撃が決まり、雷光が散った。
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3. 魔族の介入
観客席から、奇妙なざわめきが広がる。
次の瞬間、空気がねっとりとした黒い気配に包まれた。
「……来やがったか」
俺は背筋が凍る。
闘技場の上空に、黒い裂け目が現れる。
そこから飛び出してきたのは、獣の頭と人の身体を併せ持つ異形の魔族。
「勇者も王女も……ここで死ね!」
観客が悲鳴を上げ、護衛兵が動き出す。
だが魔族の爪が、俺とアリシアの方へ迫った。
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4. 即席の共闘
「蓮、あれは私たちで止める!」
アリシアが剣を構える。
「了解!」
ライゼルも信じられないという顔をしながら、剣を抜き直した。
「……戦いは中断だ。魔族は俺が斬る!」
三者三様の立ち位置――しかし目的は一つ。
魔族を倒すため、勇者、王女、“雷剣”が並び立った。
(こいつを逃せば、この場は地獄絵図だ――!)
俺たちは同時に駆け出した。
第3章 暗躍する影(後半)
5. 三人の刃
魔族は裂けた口を歪め、低く笑った。
「勇者と王女……そして雷剣。贄には十分だ」
「誰が贄だ!」
俺は床を蹴った。
右側から俺が斬り込み、正面をアリシアが牽制。
背後に回り込むようにライゼルが高速で動き、三方から挟み撃ちにする。
だが魔族は爪を振り回し、黒い瘴気を撒き散らす。
金属がきしみ、皮膚が焼けるような痛みが走った。
「蓮、左へ回避!」
アリシアの声と同時に俺は飛び退き――その場所を雷光が貫いた。
「避けろよ勇者、次は当てるぞ」
ライゼルがニヤリと笑い、稲妻を纏った突きを繰り出す。
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6. 一瞬の連携
魔族がライゼルの雷撃を避けた瞬間、俺は《無限適応》で動きを見切る。
左足の踏み込み――右肩が開いた。
「今だ、アリシア!」
「《聖焔斬》!」
白い炎を纏った剣が、魔族の腕を斬り落とす。
断末魔とともに黒煙が噴き上がり、魔族の体が崩れ始めた。
「……終わったか?」
だが、魔族の目が不気味に輝いた。
「……主は必ず、お前たちを喰らう」
そう言い残し、闇に溶けるように消えていった。
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7. 闇の組織
闘技場に静けさが戻る。
護衛兵たちが観客の避難を確認し、審判が「試合は中断」と告げた。
「……あいつ、最後に『主』って言ってたな」
俺が呟くと、ライゼルが真剣な顔でうなずく。
「魔族を統べる“影王”のことだろう。ここ最近、奴の配下が人間の世界で暗躍している」
「影王……」
アリシアの瞳が鋭くなる。
「俺の学園でも、生徒が何人も失踪してる。……勇者、お前に伝えておく」
ライゼルはそう言い残し、マントを翻して去っていった。
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8. 次なる戦いへ
闘技場の片隅で、俺とアリシアは並んで座っていた。
観客席はすでに空っぽだ。
「……お前、さっきの戦い、悪くなかったぞ」
アリシアがぽつりと呟く。
「それ、褒めてます?」
「もちろんだ。ただし――油断するな。お前を倒すのは、まだこの私だ」
そう言って立ち上がる彼女の背中は、どこか頼もしく見えた。
(……影王か。次は、もっと強くならないと)
胸の奥に、燃えるような決意が芽生えていた。