第2章 学園生活の幕開け
第2章 学園生活の幕開け
1. クラスメイトとの出会い
王立魔法学園のクラス分けは、剣技・魔法・学力・魔力適性など、様々な要素を加味して決まるらしい。
俺は勇者という肩書きのおかげで、いきなり**特進クラス《S組》**に放り込まれた。
「はーい、新入生のみんな、静かにー!」
教壇に立ったのは、長身でポニーテールの女教師。
凛とした雰囲気だが、口調はややラフ。
「私はこのクラスの担任、セリーヌ・グレイス。剣も魔法も一通り教えるわ。……で、あそこに立ってる彼、異世界から来た勇者ね。自己紹介、どうぞ」
「えっと……天城蓮です。まあ、色々あって異世界に来ました。よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、クラスのあちこちでひそひそ声が上がる。
「マジで勇者だ……」
「王女様とペアって、どういう関係だよ」
……耳が痛い。
「私はアリシア・リオネール。この国の第一王女だ。以後、私の邪魔をしないようにな」
アリシアがツンと胸を張ると、クラス全員が「おお……」と感嘆の声を上げた。
この人、本当に人気あるんだな。
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席に着くと、隣の男子がにやにや笑いながら話しかけてきた。
「よう、勇者くん。俺はカイル・エヴァンス。剣士志望だ。ま、これからよろしくな」
その後ろの席からは、黒髪の少女が本を抱えたまま小さく会釈してくる。
「……ミリア・アーデルハイド。魔法専攻……よろしく」
さらに、前の席には明るい栗色髪の少女が振り返った。
「私、リナ・クロフォード! 錬金術専攻だよ。勇者さんって何食べたらそんなに強くなるの?」
「え、普通にご飯ですけど……」
個性強めの面々がそろっていて、これは賑やかなクラスになりそうだ。
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2. 初授業と洗礼
午前中の授業は座学。
この世界の歴史や魔物の生態など、聞き慣れない単語が多くて頭が混乱する。
「勇者、お前、寝るな!」
「いや寝てないです。たぶん」
「たぶん、は寝ているということだ!」
横からアリシアが小声で突っ込んでくる。
……監視役というより、もはやツッコミ役だな。
午後は剣技の実技。
担任のセリーヌ先生が木剣を配り、ペアを組んでの基礎練習が始まった。
「よし、勇者は私と組め」
「いや、またですか」
「当然だ。お前の癖を見抜いてやる」
訓練場のあちこちで木剣の音が響く中、俺とアリシアの模擬戦が始まった。
やっぱりこの人、全力だ。手加減という言葉を知らない。
「……前より防御が上手くなったな」
「そりゃまあ、毎回相手してたら嫌でも」
「ふふ、なら次は魔法も交えてやるか?」
「遠慮しときます!」
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3. 不穏な噂
放課後、学園の寮へ向かう途中、カイルがこっそり耳打ちしてきた。
「なあ、知ってるか? 最近、学園の近くで魔物が出たらしい」
「魔物って、街中に?」
「ああ、普通じゃ考えられねぇだろ? しかも、目撃者によると“人の形”をしてたって話だ」
――人型の魔物。
それってつまり……魔族、ってやつか?
胸の奥に、薄い不安が広がった。
4. 平和な(?)学園ライフ
学園生活が始まって一週間。
朝は寮の食堂でパンとスープを食べ、午前は座学、午後は実技。
夜は寮のラウンジで宿題を片付ける――そんな生活にも慣れてきた。
「蓮、ノート見せろ。昨日の授業でお前、半分寝てただろ」
「いや寝てない。……半分くらいは聞いてた」
「それを寝てたと言う!」
今日もアリシアのツッコミが鋭い。
一方で、カイルとはすっかり打ち解けた。
授業後に剣の打ち合いをしては、「お前やっぱ強ぇな」と感心されたり、
リナには「新しい回復薬の実験台になってよ!」と振り回されたり。
ミリアとは静かに読書をする時間が心地よかったりする。
……うん、なんだかんだで楽しい。
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5. 学園対抗戦の告知
そんなある日の終礼。
セリーヌ先生が教壇に立ち、意味ありげな笑みを浮かべた。
「来月、恒例の《学園対抗戦》が行われる。隣国グランツ魔法学園との交流試合だ。剣技・魔法・混合競技の三種目で争う」
教室がざわつく。
「勇者、お前はもちろん剣技部門に出場だな」
アリシアが当然のように言ってくる。
「いやいや、まだ来て一ヶ月も経ってないんですけど」
「それがどうした。お前の力を証明するいい機会だ」
横からカイルも笑顔で加勢してくる。
「俺も出るぜ。二人で並んで試合に出たら盛り上がるだろ?」
「……フラグ感すごいな」
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6. 迫る影
その日の夜、寮の裏庭で涼んでいると、物陰から低い声が聞こえてきた。
「……予定通り、対抗戦の場で仕掛ける」
「勇者も王女も一度に消す……これで王国は混乱する」
背筋が凍る。
見れば、月明かりに照らされた二つの影。
フードを深くかぶり、顔は見えないが、漂う気配は人間じゃない。
(――魔族、か)
物音を立てないように部屋に戻ったが、心臓の鼓動はしばらく収まらなかった。
7. 特訓の日々
翌日から、俺はアリシアと一緒に放課後の訓練場へ通うことになった。
理由は単純――対抗戦でのペア練習だ。
「勇者、お前の弱点はまだ多い。攻撃は悪くないが、防御が甘い」
「そりゃ、毎回王女様みたいな全力剣撃ばっか食らってたら、普通死にますよ」
「死なぬように鍛えるのだ!」
容赦ない剣撃、時折混じる魔法、そして追い打ちの説教。
正直、授業よりもハードだった。
けれど不思議と嫌じゃなかった。
剣を交えるたびに、アリシアの真剣な表情や、わずかに口元がほころぶ瞬間が見える。
その度に胸の奥が、ちょっとだけ熱くなる。
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8. 寮の夜と作戦会議
訓練の帰り、学園寮のラウンジでカイルとリナが待っていた。
テーブルには地図や過去の試合記録が広げられている。
「今回の剣技部門、相手校のエースは“雷剣”ライゼルってやつだ」
カイルが真剣な顔で説明する。
「雷剣……名前からして嫌な予感しかしないですね」
「全身に雷を纏って突っ込んでくるタイプらしい。スピードはかなりのもんだ」
リナがメモを指で叩く。
「蓮、お前の《無限適応》で一度でも動きを見切れれば勝てるかもしれない」
カイルの言葉に、俺はうなずいた。
「……じゃあ、作戦はこうだ」
そこから夜遅くまで、俺たちは作戦会議を続けた。
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9. 開幕の日
そして――学園対抗戦当日。
会場となる円形闘技場は、両学園の生徒や貴族たちで埋め尽くされていた。
旗が翻り、歓声が轟く。
「第一試合、剣技部門――王立魔法学園代表、勇者・天城蓮!」
「同じく王立魔法学園代表、第一王女アリシア・リオネール!」
二人並んで入場すると、会場の歓声が一段と大きくなる。
アリシアは背筋を伸ばし、堂々と歩いていた。俺はその横顔を横目で見ながら、深く息を吸う。
「……緊張してるのか?」
小声でアリシアが訊いてきた。
「まあ、ちょっとは」
「大丈夫だ。私が横にいる。お前を落とすのは、この私だけだ」
「励ましなのか脅しなのか、わかんないですね」
彼女は小さく笑い、それきり前を向いた。
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反対側から、長身で銀髪の青年が歩いてくる。
肩に掛けたマントが翻り、腰の剣からは微かに雷光が漏れていた。
「――“雷剣”ライゼルだ」
目が合った瞬間、稲妻のような殺気が走る。
試合開始の鐘が鳴るまで、あとわずか。
(……絶対に負けられない)
俺は剣を握り直した。