負けヒロインの先輩の様子がおかしい!
「よぉ! トモ! ちょっとツラ貸せ!」
私は片手を上げて、彼の方に視線を向ける。
一方のトモは、というと……戸惑いの表情。目が泳いでいる。
その瞬間、ふと脳裏に――昔の裕貴の姿がよぎった。
あの人と出会った頃は、なよなよしてて、頼りがいもなくて……でも、そんなところが好きだった。
今のトモに、当時の裕貴が重なって見えた。
――バカ。私、また変なこと考えてる。
頬を軽くぺちんと叩くと、周囲から視線が集まる。しまった、やりすぎた?
でも、そんなの気にしていられない。
私はスタスタとトモの方へ歩いていく。
「どした? 早く行こうよ」
「は、はいっ!」
トモは頬をほんのり染めながら慌ててついてくる。
……なんで照れてんだ、こいつ。
そんな調子で、私とトモは並んで歩いた。
夕焼けに染まる道を、肩を並べて。
※
「五十嵐ちゃん! ちょっと足早いよ~!」
裕貴先輩に会うのはやめて、私は澤部ちゃんを連れて、とある場所へと急いだ。
そして、ターゲットを発見!
すぐさま澤部ちゃんの腕を引っ張って、物陰に身を潜めた。
「……やっぱり、神木先輩だ」
「え? 神木先輩がどうしたの?」
私たちの視線の先――そこには、仲良く並んで歩く神木先輩と、謎の男の姿が。
「いや、あれ絶対――」
「神木先輩の彼氏なの!? えっ、本当!?」
澤部ちゃんが、声のボリュームを一気に爆発させる。
しまった! 私は咄嗟に彼女の口を手で塞いだ。
「しーっ! 声大きい!」
ターゲットの2人がきょろきょろと辺りを見回す。
あぁあ……絶対バレた。
――神木先輩、最近様子おかしいと思ったら……マジで噂通り男いたのかよ……!
「でも、なんで神木先輩の様子見に行こうなんて言い出したの? 五十嵐ちゃん」
「え、えっと……先輩の隣に立つ男がどんな奴かチェックするためっていうか? ――変な男だったら困るし?」
「うわ……五十嵐ちゃん、やっぱり神木先輩のこと好きなんだねぇ」
「ち、ちげーし!!」
でもまあ……相手の男、ちょっと気弱そうだけど、悪い人には見えないし。
よかった、変な奴じゃなくて。
「……澤部ちゃん、帰ろっか。これ以上見てるのも、なんか悪いしさ」
そう言って澤部ちゃんの手を引き、その場を離れようとした――その時。
「あれ? 五十嵐じゃん」
「「――っ!?」」
唐突に聞こえてきた、神木先輩の声。
……え、マジで!? こっち見てる!? バレた!? 今絶対こっち見たよね!? 終わった! 人生詰んだ!!
「なんだよ、その泣きそうな顔は……」
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