表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/12

弱いままじゃいられない!

 駅前のカフェ。トモと私は向かい合って席に着き、それぞれのドリンクを手にしていた。


「トモ、怪我……大丈夫?」


「は、はい。軽傷なので……だいじょうぶです」


 気丈に笑う彼の頬には、まだうっすらと痣が残っている。


「さっき、私に話しかけてきた男。アンタの知り合い? ……あんまり、良い関係には見えなかったけど」


「……それは」


 彼は一瞬、目を伏せ――口を開いた。


「……いじめられてるんです、学校で」


「……そっか」


 私はうつむく彼に、思わずグッと拳を握る。


「私はトモと同じ高校じゃないから、直接どうこうはできないけど……相談くらいなら乗れるし、話も聞ける。だから――連絡先、交換しよ?」


「えっ……いいんですか?」


「なに言ってんの。当たり前じゃん、私たち、友達でしょ?」


 自然な笑顔で言いながらスマホを取り出すと、彼も少し戸惑いながらスマホを差し出してきた。


 こうして私たちは連絡先を交換した。


「あ、このアニメのアイコン……そのキャラ、私も知ってるよ」


「えっ!? ほんとですか!? 僕、このアニメめちゃくちゃ好きで……特にこのキャラが推しで、個性的で――」


「……」


「あ、ごめんなさい! なんか、うるさかったですよね」


「いいよ。もっと聞かせて? そのアニメの話」


 彼の語る言葉に耳を傾けながら、私はほんの少しだけ、彼の世界に入り込めた気がした。


 人に語るのが怖くて押し殺していた“好き”を、ちゃんと話せるように――。


 それは、きっとささやかな“一歩”だった。



 それから私たちは、アニメグッズの店、本屋、トモの興味に合わせた場所をあちこち巡った。


 いつの間にか、外は夜になっていた。


「わっ、もう19時じゃん! 時間、忘れてた!」


「大丈夫ですか? 女の子が一人で夜道なんて……」


「なに? 心配してくれてるの?」


 私が冗談めかして笑うと、トモは赤くなって慌てふためく。


「だ、大丈夫です! 僕なんかより、神木さんのほうが強いですし!」


「……強いのは否定しないけどね。じゃあ、気をつけて帰りなよ?」


 そう言って背を向けようとしたとき、彼が小さく叫んだ。


「――あのっ!」


 私は振り返る。


「また明日!」


 ……ちょっと驚いた。


 でも、それ以上に、嬉しかった。


「……うん、また明日ね!」



 翌朝。


 学校に向かう途中、私はふと昨日のことを思い出していた。


 不思議な子。でも、優しくて、不器用で――どこか放っておけない。


「お、五十嵐じゃん」


「うげ、神木先輩じゃん」


「うげってなんだよ。朝から失礼だな」


「そういえば、先輩って……彼氏、できたんですね?」


「はぁ!?」


「だって、うちの学校の子が言ってたんですよ? “神木先輩が男子とデートしてた!”って」


「ああ、それね……トモのことか」


「え、ほんとに彼氏?」


「違うわ。ただの友達だっての」


「ふーん……まぁ、先輩がどんな男と付き合おうが私には関係ないですけど。……変な男には、引っかからないでくださいね」


 彼女はそう言って、そっぽを向いた。


 私はにやりと笑う。


「なんだよ、心配してくれてんじゃんかよ」


「ち、違います! ただの挨拶です!」


 ※


 教室に入ると、いつものように真由や歩美たちがいた。


「おっはー!」


「おはよう! 神木!」


「ねぇ、神木ちゃん。彼氏できたって噂、本当?」


「残念ながら、違います。ほしいけど!」


「じゃあ、あの男の子は?」


「だから、ただの友達!」


「うわー、絶対気になってるやつだ!」


「うっさい!」


 ※


 そして、昼下がり。


 僕――景久智は学校の門を出ようとしていた。


「……今日もいじめ、なかったな」


 主犯格だった真司が、僕を見るなり逃げ出すなんて。


 神木さんのおかげ、かな。


 そんなことを思っていると、校門前がざわついていた。


「なぁ、あの子、誰待ち?」


「え、可愛くない? 彼氏待ちかな?」


 僕が人だかりをかき分けて外を見ると――


 そこに立っていたのは、制服姿の神木さんだった。


「――神木さん!?」


 彼女は僕を見つけると、にっこりと微笑んだ。


「よ、トモ。ちょっとツラ貸してよ?」


 僕は思わず、胸の奥で何かが温かく鳴った気がした。


 ――僕は、もう弱いままじゃいられない。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ