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僕の周りの人達

「ど、どうして!?」


 トモは信じられないとでも言いたげな顔で言った。


「いや、どうしてもなにも、同じ電車で学校に行くんだから、一緒に乗るのもアリなのかな、て」


「……僕なんかにあまり関わらない方がいいですよ」


 トモは暗い顔をして俯く。


 それを見た私は、心配と呆れの入り混じった気持ちで、トモに歩み寄る。


「あのさ、私まだお礼貰ってないんだけど?」


「――ッ!」


「今日の放課後、ここの駅前で待ち合わせね」


「……でも――」


「いいね?」


「は、はい!」



 昼休みの校舎裏。


 僕は執拗にいじめてくる真司に鉄格子の柵へと突き飛ばされる。


「んで、金持ってきたんだろうな?」


「も、持ってきてない……本当に!」


「は? 嘘ついてんじゃねぇよ」


 真司はそう言って僕の胸ぐらを掴む。


 周囲から浴びせられる罵声、人格否定の言葉。そのすべてが怒りと憎悪を煽る。


 思わず拳を握りしめ、僕は胸ぐらを掴む真司に殴りかかった。



 昼休み終了のチャイムが鳴り終わる頃。


 真司に殴りかかった僕は、返り討ちに遭い、ボロボロの姿で地面に倒れ込んでいた。


「あんじゃねぇか、財布に3万……しけてんな」


 真司は嘲るように言いながら、僕の財布を手に取り、仲間たちと去っていった。


 泥まみれの制服、痛む頬や腕。僕は地面に落ちたバッグを拾い上げて、黙って校舎へ戻る。


「……どうしよう、こんな姿で神木さんに会えない」


 その呟きは、誰に届くでもなく、虚しく空気に溶けた。



 放課後。


 僕は1人、ゆっくりと校門を後にした。


 頭の中には朝の神木さんとの約束だけが残っている。


 だけど――今の僕の姿はひどかった。泥にまみれた服、腫れた頬、あちこちの痣。


「こんなんで神木さんに会ったら……きっと、キモがられるよな」


 ため息混じりにそう呟きながら、それでも僕は駅へと足を運んだ。



「ここ……かな」


 約束の場所に着いた僕は、辺りを見回す。


 だけど、どこを探しても神木さんの姿は見つからない。


「……もう帰ったのかな」


 落胆と安堵が入り混じった気持ちで、その場を後にしようとした時――


「おーい! トモ!」


 背後から、あの声が聞こえた。


 だけど僕は、とっさに振り向けなかった。


「……? トモ? トモだよね?」


 神木さんが近づいてくる気配。


「来ないでください!」


「――ッ? トモ、どうしたの? 私なにかトモにした?」


 困惑する神木さん。だけど、僕は彼女を守りたかった。


「お! ゴミカスじゃんかよ」


 聞き覚えのある声――真司だ。


「女友達とか居たのかよ? へぇ、意外じゃん」


 真司はふざけた笑みを浮かべ、僕の肩に腕を回す。


「てかさ、まだ金持ってねぇか? さっきゲーセンで使っちゃってさ~」


「も、持ってない! さっき全部取ったじゃないか……!」


 僕が震える声で返すと、真司はニヤリと笑い、耳元で囁いた。


「じゃあ、その可愛い女から取るわ。あの子と一緒に遊ぶのも悪くないしな」


「――ッ! やめろよ、やめてくれ」


「あぁ? 聞こえねぇよ、ブツブツ言ってんじゃねぇ」


 真司はそう言い捨てて、神木さんの方へ向かおうとする。


 僕はその背中を追って、彼女に巻き込まないために叫んだ。


「神木さん、もう僕に関わらないでください! 僕の近くにいると、あなたに迷惑がかかる……だから!」


 沈黙。


 神木さんの声が、少し低く響いた。


「……そう、分かった」


 彼女は静かに僕から数歩離れた。


 これでいい。これで――


「最後に聞くけど、アンタはそれで幸せ? 今のアンタは、幸せだって言えるの?」


「――え?」


「その顔を見れば分かる。自己犠牲で満足してるふりして、ただ傷ついてるだけのアンタ。私、そういう人を前に傷つけたことがあるから、放っておけないんだよ」


 神木さんの瞳は、まっすぐに僕を射抜いていた。


 初めて触れた、人の温かさ。


 そして、僕の頬を伝うのは――涙だった。


「助けてください……神木さん」


 その瞬間、神木さんの背後に真司が立っていた。


「何泣いてんだよ、トモ〜」


 真司が嘲笑うように言い、神木さんの肩に手を伸ばそうとしたその時。


 神木さんの目が、怒気に満ちていた。


「――ヒッ!」


 その殺気に真司はたじろぐ。


「トモに手を出すの、やめてもらえる? 二度と関わるな。分かった?」


「わ、わ、分かりましたァ!」


 真司は腰を抜かし、逃げるように走り去っていった。


 僕の目には、そんな彼女の背中が――ヒーローのように映っていた。


「――さてと、邪魔者も消えたし! 今からデートしよっか!」


 そう笑った彼女の顔は、夕陽に照らされてとても眩しかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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