僕の周りの人達
「ど、どうして!?」
トモは信じられないとでも言いたげな顔で言った。
「いや、どうしてもなにも、同じ電車で学校に行くんだから、一緒に乗るのもアリなのかな、て」
「……僕なんかにあまり関わらない方がいいですよ」
トモは暗い顔をして俯く。
それを見た私は、心配と呆れの入り混じった気持ちで、トモに歩み寄る。
「あのさ、私まだお礼貰ってないんだけど?」
「――ッ!」
「今日の放課後、ここの駅前で待ち合わせね」
「……でも――」
「いいね?」
「は、はい!」
※
昼休みの校舎裏。
僕は執拗にいじめてくる真司に鉄格子の柵へと突き飛ばされる。
「んで、金持ってきたんだろうな?」
「も、持ってきてない……本当に!」
「は? 嘘ついてんじゃねぇよ」
真司はそう言って僕の胸ぐらを掴む。
周囲から浴びせられる罵声、人格否定の言葉。そのすべてが怒りと憎悪を煽る。
思わず拳を握りしめ、僕は胸ぐらを掴む真司に殴りかかった。
※
昼休み終了のチャイムが鳴り終わる頃。
真司に殴りかかった僕は、返り討ちに遭い、ボロボロの姿で地面に倒れ込んでいた。
「あんじゃねぇか、財布に3万……しけてんな」
真司は嘲るように言いながら、僕の財布を手に取り、仲間たちと去っていった。
泥まみれの制服、痛む頬や腕。僕は地面に落ちたバッグを拾い上げて、黙って校舎へ戻る。
「……どうしよう、こんな姿で神木さんに会えない」
その呟きは、誰に届くでもなく、虚しく空気に溶けた。
※
放課後。
僕は1人、ゆっくりと校門を後にした。
頭の中には朝の神木さんとの約束だけが残っている。
だけど――今の僕の姿はひどかった。泥にまみれた服、腫れた頬、あちこちの痣。
「こんなんで神木さんに会ったら……きっと、キモがられるよな」
ため息混じりにそう呟きながら、それでも僕は駅へと足を運んだ。
※
「ここ……かな」
約束の場所に着いた僕は、辺りを見回す。
だけど、どこを探しても神木さんの姿は見つからない。
「……もう帰ったのかな」
落胆と安堵が入り混じった気持ちで、その場を後にしようとした時――
「おーい! トモ!」
背後から、あの声が聞こえた。
だけど僕は、とっさに振り向けなかった。
「……? トモ? トモだよね?」
神木さんが近づいてくる気配。
「来ないでください!」
「――ッ? トモ、どうしたの? 私なにかトモにした?」
困惑する神木さん。だけど、僕は彼女を守りたかった。
「お! ゴミカスじゃんかよ」
聞き覚えのある声――真司だ。
「女友達とか居たのかよ? へぇ、意外じゃん」
真司はふざけた笑みを浮かべ、僕の肩に腕を回す。
「てかさ、まだ金持ってねぇか? さっきゲーセンで使っちゃってさ~」
「も、持ってない! さっき全部取ったじゃないか……!」
僕が震える声で返すと、真司はニヤリと笑い、耳元で囁いた。
「じゃあ、その可愛い女から取るわ。あの子と一緒に遊ぶのも悪くないしな」
「――ッ! やめろよ、やめてくれ」
「あぁ? 聞こえねぇよ、ブツブツ言ってんじゃねぇ」
真司はそう言い捨てて、神木さんの方へ向かおうとする。
僕はその背中を追って、彼女に巻き込まないために叫んだ。
「神木さん、もう僕に関わらないでください! 僕の近くにいると、あなたに迷惑がかかる……だから!」
沈黙。
神木さんの声が、少し低く響いた。
「……そう、分かった」
彼女は静かに僕から数歩離れた。
これでいい。これで――
「最後に聞くけど、アンタはそれで幸せ? 今のアンタは、幸せだって言えるの?」
「――え?」
「その顔を見れば分かる。自己犠牲で満足してるふりして、ただ傷ついてるだけのアンタ。私、そういう人を前に傷つけたことがあるから、放っておけないんだよ」
神木さんの瞳は、まっすぐに僕を射抜いていた。
初めて触れた、人の温かさ。
そして、僕の頬を伝うのは――涙だった。
「助けてください……神木さん」
その瞬間、神木さんの背後に真司が立っていた。
「何泣いてんだよ、トモ〜」
真司が嘲笑うように言い、神木さんの肩に手を伸ばそうとしたその時。
神木さんの目が、怒気に満ちていた。
「――ヒッ!」
その殺気に真司はたじろぐ。
「トモに手を出すの、やめてもらえる? 二度と関わるな。分かった?」
「わ、わ、分かりましたァ!」
真司は腰を抜かし、逃げるように走り去っていった。
僕の目には、そんな彼女の背中が――ヒーローのように映っていた。
「――さてと、邪魔者も消えたし! 今からデートしよっか!」
そう笑った彼女の顔は、夕陽に照らされてとても眩しかった。
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