僕には好きな人がいる!
「んで、なんでトモがここにいんの? 商店街で待ち合わせする予定だったじゃん?」
私がトモにそう聞くと、彼は頬を赤く染めながら頭を掻きながら言った。
「い、いや、なんか待ちきれなくて……へ、変な意味じゃないですよ!? ただ神木さんに早く会いたいみたいな……」
「え! それって……神木ちゃん!?」
悠里が驚きの眼差しで私を見つめる。
私はそんなトモを見て、つい頬が緩み、笑みがこぼれる。
「ハハッ、なにそれトモ! それじゃあ私のこと本当に好きみたいじゃんかよ!」
「ち、違います! ――は、早く行きませんか?!」
「うん、いいよ! 悠里も一緒に行く?」
私が悠里の方へ視線を送ると、彼女はこいつマジかよみたいな顔で私を見る。
なんだよ、その顔は。
「い、いや私はお邪魔かなー?」
「えぇ、それどういう意味?」
私がそう聞くと、悠里は目を泳がせながら思いついたように言った。
「あ! そうだ! 私お母さんから洗剤を買うように言われてたんだった! 神木ちゃんごめんね! 私お先に!」
悠里はそう言って、急ぎ足で帰ろうとする――しかし、私は彼女の肩を掴む。
「それだったら、私たちの行く方に商店街あるからそこで買っていけば? 帰り送るからさ!」
私がそう言うと、悠里が必死そうな顔で小声で言った。
「神木ちゃん!? これはチャンスだよ!? 彼、もしかしたら神木ちゃんのこと好きなのかもしれないんだよ!?」
悠里の言葉を聞いた私は彼女の肩を離し、隣でじっとしてモジモジしてるトモに向き合う。
「ねぇ、トモ、て――私のこと好きなの?」
「――ッ!?」
「い、いや! べ、別に……」
「――まぁそうだよね〜、私なんかを好きになる男子居ないもんねぇー」
私の脳裏には今年の文化祭で裕貴にフラれた記憶が過ぎる。
そう、私に好きな人はもう出来そうにない……だって、あれが本当の恋だったから。
――て、私まだ引きづってる……何考えてんだ。
「――そんなことないです!」
「――ッ!?」
トモが急に大声で声を上げ、私は一瞬体を浮かせる。
「神木さん! とってもいい人です! 不良に絡まられてた僕を助けてくれたし! 唯一助けてくれたのが神木さんでした! 僕は――神木さんが好きです!」
「神木ちゃん!?」
「え……」
トモは苦しそうに胸を手で押えながら言った。
そして、私は思いもよらない言葉に硬直する。
――それと同時に、周りの視線が生暖かい……あんな大声であんなセリフ言ったらそうなるか……。
「神木さん……僕はまだ貴方に会って数回ですが……僕は神木さんを素敵な人だと思います!」
「……」
「神木ちゃん?」
「黙れよ……」
「へ?」
「お前声大きすぎ! 少しは周りを気にしてよ!」
私は周りからの視線に気を取られながら、照れながらもトモにそう怒った。
「す、すみません、僕なんかがこんな大胆な……!」
「大胆すぎるわ! ……でも、ありがとう――なんか元気出た」
私は今言える言葉を彼に送った。
――なんでだろう、なんであの一瞬だけ、胸がドキドキしたんだろう……。
私はトモが放った言葉にそう思いながら、胸に手を当てる。
「――ッ? どうした? トモ」
トモがどこか苦しそうに蹲る。
妙に思いながら、私がトモに歩み寄ると、彼は顔を真っ赤にさせながら小声で言った。
「な、何言ってるんだ僕は……会ったばかりの神木さんに好きだなんて……」
「……トモ、私もトモのこと友達として好きだよ」
私はニッと笑って、彼の顔を見た。
「あ、ありがとうございます! ――あ、あの!」
「ん? どうした?」
「ぼ、僕――緊張でお腹痛いので! 先帰りまーす!」
トモはそう言って、私たちから逃げるように凄まじい速さで去っていった。
「……」
また明日て言えなかったな……。
私が自分の手のひらをみながらそう思うと、隣にいた悠里が頬を赤く染めながら歩み寄ってくる。
「神木ちゃん! ――神木蘭ちゃん!」
「え? な、なに? 急に」
「これは! きっとめぐり逢いだよ!」
「は?」
※
「何言ってんだァ! 僕はァ!? 神木さんに……神木さんに――好きだなんてェ!」
僕、景久智は神木さんともう1人の女子から逃げるように電車に乗りこんだ。
「はぁ……もう会えないよな、逃げるように去ったわけだし」
僕は今日あった出来事のことを思い出しながら、恥ずかしさと唐突に来る照れに頭を抱える。
「絶対に惹かれたよな神木さんに……いきなり好き、て……」
そんなことを思った時、フワッとさっきの神木さんの言葉がよぎる。
『私もトモのこと友達として好きだよ』
好き……か、いやいや、友達としてだろ! 勘違いするな! 馬鹿野郎!
でもなんだこのモヤモヤとした気持ち……もしかして僕は神木さんのこと……。
その時、脳裏に過ぎるのは神木さんの笑った顔……。
「僕、神木さんのこと好きなんだ……」
※
翌日の朝の登校日。
「はぁ、昨日のことが頭から離れない……寝れなかったし」
僕はそんなことを呟きながら、昨日より早めに家を出て駅に辿り着く。
もう神木さんに会うことなんてないだろうな……惹かれただろうし……。
「――?」
僕が俯いた顔を上げ、駅に着くと、そこの入口に見覚えのある――昨日忘れられない記憶を作ってもらった神木さんがいた。
(な、なんで!?)
スマホ見てる……ここはバレないように。
僕がコソッと横を通りすぎようとした時、神木が僕の存在に気づいた。
「おはよう、トモ。一緒に途中まで行かない?」
その時、僕の体のどこかで何かが落ちる音がした。
僕は神木さんが好きになったらしい――。
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