負けヒロインが合コン!?
テストは無事に終わり、いつも通りの日々が帰ってくる――と思っていたが、私にはとある予定が入っていた。
とある日の放課後、私と青原先輩は並びながら下駄履きに向かっていた。
「本当に行くんですか青原先輩……」
「ふ、たまには受験勉強の息抜きをしたいものじゃないか」
「青原先輩て案外そういうキャラだったんだ……」
「どういう意味だい?」
「てか青原先輩、勉強しなくて大丈夫なんですか?」
「ふ、たまには受験勉強の息抜きをしたいものじゃないか」
青原先輩はさっき言った言葉を復唱した。
「誰か他に誘わなくていいのかい? 周りの友達とか」
青原先輩の言葉に少し脳裏に真由、歩美、長瀬の顔が過ぎる。
「いや大丈夫です、青原先輩がいれば何とかなりそうなので」
私がそう言うと、青原先輩はどこか満足そうな顔で言った。
「神木ちゃんは相変わらず、優しいね〜」
そう言って、私と青原先輩は合コンの会場のファミレスに向かう。
※
最近、神木さんと会えてないな……まぁ仕方ないか、僕もテストだったし、色々と忙しかったからなー。
僕、景久智はそんなことを思いながら、学校の校門を抜けて、そのまま帰宅する。
神木さん、今何してるんだろう……まだ学校なのかな、テストとか上手くいったのかな――神木さんに会いたい。
僕の頭が神木さんを思う心と彼女の姿で埋まっていく。
彼女を想う度に心がどこか苦しい――やっぱり僕は神木さんに恋をしてる。
そうだ! そうだった! 神木さんにメッセージを送ればいいんだ――って! 非モテビビりな僕が簡単に好きな子にメッセージ遅れるかー!
僕は頭を抱えながら、色々な考えをめぐらせる。
「あのぉー……」
「ん?」
ふと、優しい女の子の声が聞こえ、僕は後ろへ振り向く。
そこにいたのは僕の学校の制服を着た女の子がいた。
「これ落としましたよ?」
「あ、ありがとうございます、いつの間に……」
「確か、景久智くんだよね?」
「へ?」
僕の目の前にいる女の子は優しい微笑みでそう問いかけてくる。
驚いた……いつも学校でも影の薄い僕の存在を知ってるなんて。
「そ、そうです……えーっと」
「――私! 柏木柚て言います!」
「ど、どうも……あの、ありがとうございます」
僕は少し会釈をして落としたハンカチを受け取る。
その笑顔は、どこか人懐っこくて、でもどこか寂しげで。
僕は小さく頭を下げて、彼女から差し出されたハンカチを受け取る。
――でも、その瞬間だった。
「キャッ……!」
前を歩いていた柚が急に足を滑らせて、バランスを崩す。ハンカチが風に飛ばされたのかと目をそらした一瞬の出来事だった。
「危ない!」
僕は反射的に彼女の手を掴んで引き寄せた。
が――
「どこ見て歩いてんだよ、コラァ!」
後ろから迫っていたのは、痩せ型の中年男。腕を突き出したまま柚に向かって何かを言いながら、やたらと彼女に接近していた……その距離は不自然だった。
僕の手に伝わってきた彼女の震え。そして、柚のうつむいた横顔に、恐怖が滲んでいるのが分かった。
「……やめてください」
「は? なんだガキが。関係ねーだろ」
男の言葉は汚くて、思わず眉をしかめた。だけど、そんなことどうでもよかった。
「やめろって言ってるんだよ」
言葉が、自分でも驚くほど低く、震えていた。
心臓がバクバクしてる。けど、それより――
守りたかった。
柚を。
「……ああ、もういい。めんどくせぇ。チッ」
男は舌打ちして立ち去っていった。周囲の通行人がざわつき始めたのもあり、逃げたのだろう。
「……大丈夫?」
そう声をかけると、柚は顔を伏せたまま、ぽつりと呟いた。
「……こわかった……」
その声に、僕は言葉が詰まってしまう。
気の利いた言葉なんて出てこない。ただ、僕は彼女の手をぎゅっと握り返す。
「もう大丈夫。……俺が一緒にいるから」
それだけで、柚の肩の震えが少しだけ止まった気がした。
※
「さっきは……本当に、ありがとう」
しばらくして、少し落ち着いた柚が、僕に向かって静かにお辞儀をした。
「なんか、私……ちゃんとお礼言いたくて」
「そんな、大したことしてないよ。偶然っていうか……」
僕は頭をかきながら、恥ずかしさをごまかすように笑う。
そのときだった。
「……ねぇ」
柚が、すこし顔を赤らめながら言った。
「連絡先、交換しない?」
「――えっ!?」
その日、僕の心はたぶん、一生分のドキドキを味わった。
※
「……ふぅ。合コンって、ほんとに行くもんじゃないなぁ……」
帰り道、私は夜の風に身を預けながら、ふと空を見上げた。
星ひとつない空。だけど、その黒に染まった夜空が、なんだか自分の心みたいで笑えてきた。
あたし、まだ……切り替えきれてない。
けれど――そんな自分に、少しだけ腹を立てていた。
そのとき、スマホに通知が届く。
《from:景久智》
「テスト、お疲れさまでした。また会えたら嬉しいです」
「……ふふっ」
スマホの画面を見つめながら、私はほんの少し、心が温かくなるのを感じていた。
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