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『脆い絆』  作者: 設楽理沙


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90 ◇胸騒ぎ 

90 ◇胸騒ぎ          




前回の公休日は前々回から1か月半も間が空いていたのに今回は2週間後に

休みが取れることになった。


雅代はいつものように、いや、少しいつもより素っ気ない短文で哲司に次の

公休日の予定を手紙で知らせた。


するとすぐに折り返し、昼前に工場の門の近くまで迎えに行くと返事が

あった。



公休日の日、雅代は待ち合わせの時間より10分ぐらい早めに工場の門の辺りに立ち、

哲司の来るのを待った。


今までなら、人力車に乗っている哲司に手振りをしてから挨拶を交わし

哲司の横に乗り込んだものだったが、顔が引きつると自然手振りもできなくて

ぎこちない動作になってしまうのだった。



「雅代ちゃん、しばらくぶりだね」


哲司くんの乗る人力車に乗り込むと、2週間振りだというのに彼がいつものように

やさしく声を掛けてくれて……。


哲司くんのやさしさに包まれたら、私はとても悲しくなった。


「うん……」


疲れているせいなのか、それとも……。


いつものように嬉し気でなく、重く暗い雰囲気の雅代の様子に、

前回の結婚の話で色よい返事を期待していた哲司の胸には、何とも言えない

不安が広がってゆくのだった。


だが、まだちゃんとした返事は聞いていないのだし、結果は出ていない。


気にし過ぎてせっかくのチャンスを自らぶち壊すようなことだけは避けなければと、

駅前まで辿る道々哲司は自分を鼓舞し続けた。


ふたりは以前入ったことのある和定食の店で食事をすることにした。


「雅代ちゃん、何だか元気ないみたいだけど大丈夫?」


「あ、ごめんね。

仕事がきついのもあってそういうふうに見えるのかも。

でも倒れそうなほどしんどいわけじゃないから気にしないで。

そうだっ、今日の定食はどんなメニューなんだろっ、楽しみっ」


ついつい暗くなる一方の今の自分が、自分でも嫌になる雅代はカラ元気を

出して、食事の話題で会話を盛り上げようとした。


しかし、いつもと違う様子のカラ元気で話を繋ぐ雅代を見ていて、哲司は

やはり言いようのない胸騒ぎがするのを止められなかった。











      ―――――シナリオ風 ―――――


〇製糸工場の門前・午前


   工場の汽笛が遠くに消えていく。

   門の前、まだ人通りの少ない通り。

   夏の光がじりじりと照らす。


   雅代、10分前に到着。

   落ち着かない様子で周囲を見回す。

   やがて人力車が近づき、哲司が姿を現す。)




哲司「雅代ちゃん、しばらくぶりだね」


   雅代、引きつった笑みで軽く会釈。

   人力車に乗り込むが、自然な手振りは出てこない。



雅代「……うん」



   人力車の車輪が軋む音。

   二人を乗せて走り出す。

   雅代は流れゆく景色を見つめ、沈黙。



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