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『脆い絆』  作者: 設楽理沙


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72 ◇哲司、温子に会いに行く

72 ◇哲司、温子に会いに行く


結局新しい年を迎え1つの月を跨いだ頃、ようやく意を決して哲司は

温子の勤めていた製糸工場へ訪ねて行った。



今やご内儀(ないぎ)となった温子が看護婦として今も現場に出ているのかどうか定かではないが、現在暮らしている場所を知らないのでやはり工場に出向いて所在を教えてもらうほかないだろうと考え、哲司は工場にやってきたのであった。


挿絵(By みてみん)


門を潜り抜けると、有難いことに以前来訪した時にも目にした女性が

こちらに向かって歩いてくるのが見えた。


今回は門の場所で待たずに哲司は自ら女性のほうへと歩いて行き

丁寧に挨拶をし、温子と連絡が取りたい旨を説明した。


哲司の預かり知らぬことではあるが、温子はちょうどこの日は工場へ

出勤していたので、珠代はすぐに哲司を応接室へ案内をし

『少しお待ちください。お義姉さんを呼んできますので……』

と言い置き、温子のことを呼びに行ってくれた。


出勤日に温子が患者のいない時に常駐している部屋へと、勝手知ったる

珠代は声を掛けに入った。


温子はひとりだというのに律儀に拭き掃除をしつつ部屋の整理や片づけを

しているところだった。


珠代は義姉のこういう持って生まれた気質というか誠実な心根を尊敬もし

愛していた。だからこの時も自然と顔に笑みが浮かぶのだった。


「お義姉さん、お客様がいらしてます」


「ありがとう。誰かしら?」


「うんとね、兄が知ったら焼きもち焼く男性(ひと)ですよ~」


「えーっ、もう珠代ちゃんったら。そんな男性(ひと)なんていないわよっ」



「もったいぶってごめんなさい。応接室で待ってもらってるんだけど……

お義姉さんの前の旦那さんかと……」


「えーっ! うそっ」


「ほんとっ」


「珠代ちゃん、ありがと。すぐ行くわ。それとごめんなさい、お使い立てして申し訳ないけど、私が応接室で哲司さんと会うことは涼さんに連絡してもらってもいいかしら? 黙ったままで会うのは良くないと思うから」



「あいよっ。合点承知の助っ」


「「ふふっ」」



    ――――― シナリオ風 ―――――





〇製糸工場の門前/哲司


   哲司、凍える手をこすりながら工場の門を潜る。

   重厚な建物、煙突からは白い煙が立つ。


(N)「大正二年二月四日。

 新しい年を迎えて一月あまり……

 ついに哲司は意を決し、温子の勤める製糸工場を訪ねた」


哲司(N)「門を入ると、以前も見かけた珠代が歩いてくるのに気づく」


哲司(小走りに近づき、深く会釈)

「失礼します。温子さんに……お会いしたくて」


   珠代、一瞬驚くが、すぐに応接室へ案内する。


珠代「少しお待ちください。お義姉さんを呼んできますから」




〇工場内・温子のいる看護婦控え室


   温子、誰もいない部屋で一人、雑巾を手に掃除をしている。

   窓からの冬の光が差す。


   珠代、軽やかに入ってくる。

   自然に微笑む。


珠代「お義姉さん、お客様がいらしてます」


温子(振り向き、穏やかに)「ありがとう。誰かしら?」


珠代からかうように「んーとね、兄が聞いたら焼きもち焼く人ですよ〜」


温子(思わず吹き出して)

「えぇ、もう……珠代ちゃんったら。そんな人なんていないわよ」


珠代(いたずらっぽく笑い)

「もったいぶってごめんなさい。

 応接室で待ってもらってるんだけど……お義姉さんの前の旦那さん、

 かと」


温子(驚いて)「えっ……! うそっ」


珠代(真顔でうなずく)「ほんと」


   温子、少し沈黙して息を整える。


温子(小さく頷き)「……わかった。ありがとう。すぐ行くわ。

 それとお願い……涼さんに連絡してくれる?

  黙って会うのは良くないから」


珠代にっこり「あいよっ。合点承知の助っ」


   ふたり、顔を見合わせて「ふふっ」と笑う。



     




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