表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『脆い絆』  作者: 設楽理沙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/117

46 ◇花火のそのあとで、ふたりの間に起きたことをまだ誰も知らない


46 ◇花火のそのあとで、ふたりの間に起きたことをまだ誰も知らない


このように珠代があーだこーだと兄のことを考えていたのはまだこの時温子が

寮に入所して2か月余りのことで、どれほど珠代の気持ちが2人に向けて真剣に

()いていたかが分かるだろう。


その後も同じような緩やかな誘いで温子からのお礼手料理のお招きも

続き、珠代からの兄への提案もあったりで4人で活動写真を観に行ったり

、その次にはまた大宮公園まで足を延ばして食事に出掛けたりして過ごした。




そして夏の終わりに花火を工場の敷地でした日は、夏との別れが本当に

寂しく感じられ、感傷に浸る珠代だった。


この花火も珠代の提案で行われた。


「もう、夏も終わりかと思うと寂しいなぁ~」


「ほんとね。今年はほんとに素敵な夏を過ごせて感謝でいっぱい。

珠代さんのお陰ね。

珠代さん、ありがとう。

6月に路頭に迷った時のことを思うと嘘みたい。

私、こんなに幸せでいいのかしら? って。ふふ」



「私こそ、温子さんと仲良くなれてうれしいんですよ。

以前から温子さんのことは知ってましたけど、看護婦さんってなんか

遠いイメージもあったし、何よりお話をする時間もなかったですものね」



珠代からそう言われて、温子は家庭持ちだった頃を振りかえった。


あの頃は、仕事と家事に追われていて、とても今のような生活は

考えられなかったな、と。


自分の楽しみなど最後の最後であと回しだったと思う。


そしてそのあと回しの楽しみすらあったのだろうか? などと

疑わしい。


自分の時間などあってないようなものだったから。


それでも夫と妹の不倫などがなかった頃は、それなりに自分は

幸せだと思って過ごしていた。夜寝る前の少しの夫婦の語らいの

時間が自分にとっては唯一幸せな時間だったのかもしれない。


いろいろな想いに囚われている女子ふたりの側で男子たち(涼と和彦)

暖かい眼差しが彼女たちを包んでいた。


そして流れゆく時間……


楽しい休日を追いかけるようにして過ごした日々はあっという間に

過ぎゆき、次の月には毎年恒例となっているここ大宮の氷川神社での

続けて2日間行われる祭りが待っていた。


-859-


    ――――― シナリオ風 ―――――



   珠代、兄の涼と温子との縁が結ばれることを願い見守る。

   その後も活動写真や食事にと、4人で遊びに出掛ける。



〇北山製糸工場・寮の裏庭/夕暮れ時、花火の準備


    涼、和彦、珠代、温子と4人で線香花火や噴出花火の準備をしている


    

珠代(浮かれ気味に)

「さぁ〜て、準備は万端よ! 

 今日で夏とお別れなんだから、めいっぱい楽しまなきゃ!」


温子はにかみながら

「ふふ……珠代さん、ほんとに元気ね。でも……わかるわ。

 夏が終わるのって、ちょっと寂しいもの」


和彦(花火を持ちながら)

「でも今年の夏は、なんだか特別だったような気がするなぁ。

 ……ねぇ、お義兄さん」


涼(目を細めて)

「ああ。賑やかで、穏やかで……こういう夏も、悪くない」



〇花火大会/夜、敷地の広場で

   線香花火を手に―――――。


珠代(うっとりと空を見上げて)

「……もう、夏も終わりかと思うと寂しいなぁ~」


温子(手元の線香花火を見つめながら)

「ほんとね。今年は……本当に素敵な夏だった。

 珠代さんのおかげね」


   温子、そっと珠代の方を見る。


温子(続けて)

「6月、あんなふうに行き場を失ってここへ来て……

こんなに幸せな時間が待ってたなんて、思いもしなかった。

私、こんなに幸せでいいのかしら? って、ふふ……」


珠代にっこりと

「私こそ、温子さんとこうして仲良くなれて、ほんとに嬉しいんです。

 前からお名前は知っていたけど、看護婦さんって、どこか遠い存在で……

お話する機会もなかったですものね」


   2人で見つめ合い、笑い合う。



〇温子の回想/かつての台所・夜

   疲れた表情で食事を作る温子。


温子(N)「……あの頃は、仕事と家事に追われて、今みたいに

 『自分の楽しみ』なんて考えられなかった」


   食卓につく両親や夫、そして娘と妹たちの姿を思い起こす。



温子(N)「それでも、夜寝る前の、夫とのほんの少しの語らいの時間……

 それだけが――私にとっての、唯一の幸せだったのかもしれない」



〇現在・花火の余韻/涼と和彦が2人の様子を見つめる


   線香花火の光がぽとりと落ちる。

   涼と和彦が、少し離れて並んで立ち、珠代と温子を見守っている。


和彦(低く)「……あのふたり、いいですね」


涼(言葉を選びながら)「……ああ」


   長い沈黙


和彦(冗談めかして)

「お義兄さん、花火より綺麗なもん、見てるじゃないですか」


涼(ふっと笑う)「……それを言うなら、君もだろ」


   互いに目を合わせてにやりと笑う。


   花火が終わり、空が暗くなる。

   虫の音が響き始め、金木犀の香りがほんのりと流れる。


珠代(N)「私たちの小さな集まりは、季節とともにゆるやかに流れていった。

 活動写真を観に行ったり、また大宮公園で食事をしたり……

 少しずつ、少しずつ、兄さんと温子さんの距離が近づいていくのが

 分かる」



   楽しく過ごした日々はあっという間に過ぎゆき―――――。

   次の月には毎年恒例の大宮・氷川神社での祭りが待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ