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「公爵家の面汚し」と捨てられた令嬢は孤高の魔王をテイムする  作者: 阿井りいあ


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26 小さな森のような


 アルテムからの許可を得たナーシャは、次の日から早速散歩を日課にした。

 屋敷の中を散策するのも楽しそうだったが、今日は心地よい気候だったため庭の散歩を選んだ。


 付き添ってくれるのは予定通り、ハピレアピーチェとオルグバルモスの二人。

 特にオルグバルモスは大柄なので存在感がすごかったが、散歩ができるということが楽しくて仕方がないナーシャは微塵も気にならなかった。


「庭の奥ってこんな風になっていたんですね!」

「ふふふ~、結構素敵な場所でしょお? あたしもお気に入り~」


 自然と声も弾む。ナーシャがウキウキしているのがわかるため、ハピレアピーチェもご機嫌で答えていた。


「小さな森みたい」

「ま、放置していたら勝手にこんな風になっちゃっただけなんですけどぉ~」

「放置しただけでは普通、森にはなりませんよ……?」


 ハピレアピーチェがいうには、ドリアードのドリエストリエが居心地のいい空間を作っていたからこうなったのではないか、ということだ。

 それなら理解できる。魔王城に仕えてはいるものの、森が恋しい気持ちがあるのだろう。


「アルテムも、ドリーのことを想って好きなようにさせてくれているのかもしれませんね」

「えっ」

「え?」


 何の気なしにいったナーシャの言葉に対し、驚いた声をあげるハピレアピーチェ。見ればオルグバルモスもどこか驚いたように目を丸くしていた。

 むしろその反応が不思議なナーシャは、どうかしたのかと問いかける。


「魔王様が? あの魔王様が、我らのことを気にすると思います~……?」


 どうやら四天王たちは、絶対的存在の魔王アルテムが配下などを気にかけるわけがないと思っているようだ。

 もしかすると、四天王だけでなく城で働く者たち皆が同じように思っている可能性もある。


(まぁ……ピリピリしていることも多かったし、力で解決するような姿を見ていればそう思われてしまうかも)


 しかし、ナーシャはアルテムがただ配下たちに威圧的なだけではないことを知っている。


「口や態度に出さないだけで、配下のことはちゃんと気にかけていると思いますよ。なんとなく、そう感じるんです」


 ふわりと微笑んだナーシャに、ハピレアピーチェの頬がじわじわと緩んでいく。


「ナーシャ様が言うならきっと本当ですよぉ~! あたしのことも気にしてくれてるのかなぁ? ね、オルグ~!」

「ふがぁ!!」


 嬉しさを隠しきれない様子でハピレアピーチェはオルグバルモスの周りを低空飛行でぐるぐる飛ぶ。オルグバルモスも嬉しそうに笑っていた。


「ふふ、きっと」


 とはいえ、あのアルテムのことだ。素直にそれを認めることはしなさそうだと思うと、ナーシャはクスクス笑ってしまうのだった。


 その後もしばらく小さな森を散策し、そろそろ室内に向かおうと庭園に戻ってきた時、ナーシャは少し離れた場所で集まっているメイドたちに気づいた。

 メイド長と数人の見慣れたメイド、それから初めて見る顔のメイドが三人並んでいる。


「あれは……?」


 気になって思わず声を漏らすのとほぼ同時に、ハピレアピーチェがずいっとナーシャの視界を塞ぐように立った。


「ああ、あれですかぁ~? 最近、魔王城で働くことになったメイドの見習いたちです~」

「そうなのね。……あの、どうして視界を遮るの? オルグまで」


 ハピレアピーチェだけなら隙間から見えたのだが、同じ場所にオルグバルモスまで立たれてはもうなにも見えない。

 明らかに不自然な動きだったため、二人がわざと遮ったのはナーシャにもわかってしまった。


「え、えっとぉ。新人はまだここのルールを知らないのでぇ~。しっかり教育がされるまで、魔王様の前には出せないんです~」

「そういうルールがあるのね?」


 実際はそんなルールなどない。だが、ハピレアピーチェはそうなんです~、と笑顔で嘘を吐いた。


「というわけで~、魔王様の番であるナーシャ様にもまだお見せするわけにはいかないんです~」

「私なら別にいいと思うのだけれど……」

「ふがぁ!!」

「わ、わかったわ。ルールだというのなら従うわ」


 その後、ぐいぐいとハピレアピーチェに背を押され、急かされるように城の中へと連れて行かれたナーシャだったが、ドアを通る前のほんの一瞬で新人メイドがチラッと視界に入った。


(? 目が、合った……?)


 三人の新人メイドは、真っ直ぐナーシャを見つめていた……ようにナーシャには見えた。


 ほんの一瞬であったし、気のせいかもしれないが、ただ真っ直ぐ見つめてきた瞳が印象的で、ナーシャの脳裏にこびりつく。


 それぞれ瞳の色は違うはずなのに、すべての瞳が真っ暗に見えた。

 光のない目とでもいうのだろうか、どこか底知れない恐怖がナーシャを襲う。


(ううん、ただの気のせいだわ。慣れない太陽の下を散歩したから、目がくらんでしまったのかも)


 ナーシャはすぐに気持ちを切り替え、自分に言い聞かせた。


(不安になんてなったら、アルテムが飛んできそうだものね)


 せっかくのびのびと散歩を楽しんでいたのだ。それに仕事を中断してかけつけられては、イヴァンディアンだって困るだろう。


 優秀な魔王の側近を助けるためにも、ナーシャはもう少しだけ屋敷内を散策してからアルテムの下に戻ってあげることにした。


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