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骨音 -ある青年の場合-

作者: 次郎

あくまで小説の『彼』が考えていることです。

何故 死ぬことが怖いのかって?


馬鹿だな。




“死”が怖いんじゃない。


死に必要なだけの“痛み”が怖いんだ。


だから死にたくないんだろ?


痛みが怖くなくなったら、みんな簡単に死ぬことができる。


だから、そのために“痛み”があるのさ。






おれ?


うーん、痛いのは嫌だな。





そう言って笑った彼は


3日後にいなくなった。










『骨音』 ―ある青年の場合―




彼が死んだ夏、私は一人で○○山に登った。


季節が夏ということもあり、こんな暑い中、好き好んで山を登る人は少なかった。


そのため頂上は人気もなく、私は人目を気にせず休憩することができた。



汗が髪の毛をつたい、地面に落下していくのをぼんやり眺めながら


あの日


彼が言ったことを思い出す。



「急になんだよ。死にたいの?」

「別に・・・そういう訳じゃないけど。なんとなく。」

「ふぅん・・・じゃあさ、もし人が死ぬとするじゃん。なんで人は死んだら骨が残ると思う?」

「えぇ?何急に。そんなこと考えたことないよ。骨は燃えないからじゃないの?」

「おれはさ、そこに何かしら人の残留思念が残ってるからじゃないかなって思うんだ。」

「ふぅん、だから人間は死んでも骨が残るってこと?」

「そう、骨に思念が残る。だから骨が残る。そしてその思念の量で、骨の比重が変わるんだ。」

「まさか。じゃあ、骨の重さでそのひとがどれだけ未練たらたらで死んだか分かるってこと?」

「そういうこと。だから、骨を叩くと音が違う。未練があるほど骨が重く硬いから、

 良い音するかもな。カツカツって。」

「なるほどね。」

「お前が死んで、その骨を見て叩けば、何でお前がそんなこと考えてたのか

 分かるかもしれないな。

 ・・・もしおれが死んだら、おまえ、確かめてみてよ。」

「未練たらたらですっごく重かったりしてね。」

「おまえな・・・」






なぜ、私が唐突に『死』について彼に問うたのか

そして何故彼もそんなことを考えていたのか未だに分からない。


ただ、彼が死を望んでいたとは思えなかった。


彼が死にたいと思っていたなんて、知らなかった。








彼は、○○山の7合目付近、登山道から大きく反れた林の中にいた。





彼は痛みを伴わない形で、いなくなった。







彼は痛みが怖かったのだろうか














彼の骨を遺灰から取り移す時、隠れてひとつポケットに入れた。



帰った後、触ってみると、予想以上に軽かった。


それはそうだ、燃やしたのだから。



でも・・・彼は、この世に未練などなかったのかもしれない。


それを感じさせる、はかない軽さだった。



叩いてみると、音のない叫びとなった。






彼の本音が聴けた気がする。










彼の骨をすりつぶし、粉状にしてビンにつめた。


これをここから投げるため、今日、○○山に登ったのだ。







なぜすりつぶしたのかって?


それは比重を軽くするため。


そのほうが空に上がりやすいでしょ?




彼はいつまでも地面にいたくなかったのかもしれない。


だから彼は山に登ったのだ。


暇があれば、彼はいつも山に登っていた。


少しでも自由の空へ。





私はそう考える。









天気が良くてよかった。


絶好の投げ日和だ。



・・・そんな日があっても困るけど。







ビンを振ると、カスカスって音がした。


彼の骨が初めて音に出して叫んだ気がした。







もう彼は、自由だ。

初投稿です。

『小説』とまでは言えない長さですが、このぐらいが一番書きやすく、余韻を残せる長さだと考えております。


御意見・ご感想がありましたら、喜んで読ませていただきますので、よろしくお願いいたします。

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