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黒い旭日  作者: Reborn
8/21

8. 権威

深夜、善正の事務所で、調査員が一束の書類を机に広げ、善正に見せた。


「三谷正樹と河野秀雄の自宅からそれぞれ30万ドルと55万ドルが見つかり、両者の資金源は『マンドフィル軍工』という軍需企業に由来する疑いがあります。これは日本国防軍の最大の武器供給企業です」と調査員が言った。


「軍需企業?なぜ彼らが軍需産業と関係しているんだ?」善正は書類をめくりながら疑問を呈した。


「申し訳ありません、弥永大臣閣下、その背後の理由はまだ調査できておりません」


「分かった。それでは彼らを警察に引き渡して処理してください。ご苦労様」


「了解しました。それでは失礼します」と調査員は一礼し、書類を残して事務所を去った。


「『マンドフィル軍工』?」調査員が去った後、善正は依然として机の前で真剣に書類を読み続けた。


「3階に到着、ドアが開きます」とエレベーターの放送が響き、ドアが開いた。久史が中から急いで出てきて、事務所へ急ぎ足で向かった。


「副大臣、朝のご挨拶です」と経産省の公務員がいつものように久史に挨拶したが、久史はただ「朝」と軽く答えて自分の事務所に飛び込んだ。普段なら部下と雑談する久史のこの異常な行動を善正は見逃さず、彼の後を追って事務所に入った。


事務所に入ると、久史は慌ててポケットから紙切れを取り出し、引き出しにしまった。


「おい、こそこそ何してるんだ?」善正が事務所の入り口で久史に尋ねた。


久史はびっくりして半分魂が抜けたように引き出しを閉めた。


「い、いや…何も、遅刻してしまったのがバレるのが怖かっただけです。すみませんでした、弥永閣下」と久史は気まずそうに言った。


「はぁ、遅刻なんてお前が初めてじゃないんだから、そんな隠す必要はない。ちゃんと仕事しろよ。今日の午後に会議があるから、ちゃんと見張っててくれよ」


「了解しました!」


華やかな照明の会議場には、長方形のテーブルが中央に置かれ、テーブルの短辺の一方には豪華なヨーロッパ貴族風の椅子が一つ、両長辺には十数脚の普通の会議用椅子があった。この豪華な装飾の場所はまるで貴族の宮殿のようだが、実は首相官邸、日本の高官たちが普段会議を開く場所だった。


「瀬戸大臣閣下、久しぶりですね、相変わらずお元気そうで」と新任の防衛大臣、石堂悠輔が由隆の席に近づいて言った。


「そうだな、この数年、ミャンマーで奉仕してくれてご苦労だった。金岩首相が君を防衛大臣に抜擢したのも苦労が報われた証拠だ。君の実力は並外れている」と由隆。


「過分なお言葉です。国外の反日勢力を打倒することは我々の職務です。今、ミャンマーはようやく正しい道に戻った」と悠輔。


二人が話していたのは、2044年から2047年のミャンマー内戦のことだ。日本はミャンマー国内で親日政府の反乱を支援し、反日政府を打倒した。今のミャンマーは日本の衛星国だ。


「とにかく国家への貢献に感謝する。総理大臣閣下は君を裏切らない」


「瀬戸大臣閣下のご評価に感謝します」


高官たちが互いに挨拶を交わしている中、善正が会場に入ると、高官たちは一斉に話をやめ、軽蔑の視線で彼を見た。善正は無視して、貴族椅子の最も近い席に静かに座った。


間もなく、白髪で眼光鋭い60代のスーツ姿の男が一人で会場に入ってきた。彼の歩き方は威厳に満ち、場の全員を圧倒するオーラで瞬時に静寂が訪れ、全員が起立して迎えた。


「総理大臣閣下、午後のお時間を」と全員が声を揃えた。


「座れ」と男は貴族椅子に座った。彼こそが恐れられる日本首相、金岩武一郎だった。


「瀬戸、あの暇な大学生たちの処理はどうなってる?」金岩が隣に座る由隆に尋ねた。


「閣下の賢明な指導のおかげで、東京大学の学生デモは鎮圧されました。騒ぎを起こした学生たちは警察署に連行され、教訓を与えられました。次に騒ぎを起こせば拘置所行きだと警告しました」と由隆が恭しく答えた。


「この学生どもは少し本を読んだだけで調子に乗って、政府に反抗するとは?どれだけ補助金を出したと思ってるんだ。感謝するべきだ。学校の教師はどうやってるんだ?彼らにも責任がある」と金岩が怒って言った。そばで聞いていた善正は居心地が悪かったが、口に出せなかった。


「はい、金岩総理大臣閣下、関連部署に学生教育の改善を反映させます」と由隆。


「それだけじゃ足りない。名倉、愛国教育の普及はどうなってる?」


「はい、総理大臣閣下、全ての中学校・高校で愛国主義教育を全面実施し、公民科で党国への忠誠と大日本の栄光復興のための奮闘を教えています。大学では『政治課』を必修科目として追加し、内容は中高の公民科と同様で、思想的に誤った学生が反政府デモを行うのを防ぎます」と宣伝教育大臣(旧文部科学大臣、復興党執政後に改名)の名倉良知が言った。


「良い。公民科だけでなく、すべての授業、学生が学校にいる全時間に愛国主義教育を徹底的に浸透させ、幼い頃から国家の鉄壁となるよう育てろ」


「了解しました」


「名島、韓国のあの野郎どもはどうなってる?」


「我々は厳重に警告し、対馬海峡以西の地域に撤退し、東海の覇権を争うのをやめるよう求めましたが、相手は退く気配がありません」と外務大臣の名島恒之が言った。


金岩は突然怒ってテーブルを叩き、大臣たちを驚かせた。


「下劣な民族め、敬意を示さず罰を受けるがいい。遅かれ早かれ片付けてやる!石堂、この2週間で対馬海峡で軍事演習を準備しろ」


「申し訳ありません、総理大臣閣下、武器の備蓄が…」石堂が慌てて言いかけ、途中で止まった。


「どうした?ミャンマー戦場でそんなに消耗したわけじゃないだろ、十分のはずだ」


「は、はい、十分のはずです。軍に確認する必要があります、申し訳ありません、金岩総理大臣閣下」


「それでいい。名島、北朝鮮はどう反応してる?」


「北朝鮮政府は我々の東海および対馬海峡の主権主張を完全に支持しており、韓国との戦争になれば援助を提供すると表明しています」と名島。


「良い。今、万事揃い、あとは東風を待つだけだ。両韓は同じ大韓民族で劣等だが、彼らが我々と協力する気なら、ひとまずわだかまりを置いておこう。名島、石堂、北朝鮮を説得して東海で合同演習を行い、韓国人を脅かしてみろ」


「はい、総理大臣閣下」と名島と石堂が答えた。


善正は心の中で疑問を抱いた。金岩が韓国と開戦する計画があるとは全く聞いていなかった。金岩は以前から韓国人を嫌っていたが、口だけだった。しかし、今の話を聞く限り、本気で戦争を考えているようだ。もしそうなら、日本は世界的な制裁と包囲に直面し、経済はさらに低迷し崩壊する。善正は考えるほど不安になった。


「弥永、どうした?」金岩が机を見つめてぼーっとする善正を呼び覚ました。


「い、いえ、何でもありません、総理大臣閣下」


「会議では集中しろ。昔のお前はこんなじゃなかった。仕事のプレッシャーが多いのか?」


「いえ、そうではありません。ご心配をおかけして申し訳ありません、総理大臣閣下」


「遠慮するな、20年以上の親友だろ。率直に言え。それじゃ、君の部署の状況を話してみろ」と金岩は善正と話す時だけリーダーの威厳を下ろし、気軽に話した。


「経産省はここ2週間で『廉政署経産省支部』を設立し、調査員を派遣して部署内の汚職を調査しました。結果、汚職問題が深刻で、約7割の部署員を排除し、現在彼らは法の裁きを受けています。調査結果では、経産省の汚職者の資金源の多くが『マンドフィル軍工』という軍需企業に由来することが分かりました。総理大臣閣下には、廉政署本部にこの企業への調査を許可してほしいと希望します」


「プッ、君の部署はもう使える人間がいなくなったってことか?法務省に届く案件は全部経産省の古株ばかりだ。君の部署は今、3割の新米しか残ってないんじゃないか?どうやって運営するんだ?」由隆が善正を嘲笑した。


「経産省の清廉な職場環境を守るためにそうせざるを得なかった。逆に瀬戸大臣閣下、君と君の部署は汚職を頻繁に扱うのに、部署の整頓の気配がないな」


「それは我が部署が常に清廉で、私が手を下す必要がないからだ」


「では、大臣閣下と君の部下の数え切れない高級車や豪邸はどう説明する?君の部署の公務員の全個人資産を公開する勇気があるか?我々は公開できる」


「それは君の部署の効率が低いだけだ。我々は優秀だ。経済改革の大旗を掲げるが、自分の部署の経済が先に崩壊するとは皮肉だな」


「経済改革は君のような者を整頓し、国家の財を国民に還元するためだ!」


「もういい!」金岩の一声で争いは収まった。


「弥永、君の正直で清廉な姿勢は高く評価するが、部署の7割を切るのはやりすぎだ。短期間で人材を補充するのは難しく、部署の運営が厳しくなる」


「しかし、彼らは国庫を食い潰す恥ずべき輩だ」


「分かる。だが、才能や利用価値があるなら、生かす道を残してやってもいいじゃないか。軍需企業の件は私が調査させる、君は心配するな」


「はい、総理大臣閣下。では、経済改革の件は予定通り進められますか?」


「それは難しい。君の提案は見た。西側と妥協して外資や自由貿易を導入したいのは分かる。だが、それは西側列強に膝を屈し、付け入る隙を与えるようなものだ。あいつらは他国を混乱させるのが大好きだ。浸透されて、日本人に民主憲政を扇動され、政府を転覆されたらどうする?」


「でも、我々も民衆を扇動して政府を倒して始まった…」


「だから、先祖の誤った道を繰り返してはならない。国民を政府に忠誠させるんだ」


金岩は真剣に善正の目を見て語り、善正は少し無力感を覚えた。対面の由隆は得意げに軽蔑の笑みを浮かべた。


首相官邸を出ると、空はすでに暗くなっていた。善正は重い気持ちで事務所に戻った。金岩は彼の提案を全く採用する気がないようだった。


事務所に戻ると、残った数人の職員がまだ働いていた。善正は不思議そうに彼らを見た。


「弥永大臣閣下、こんばんは」と職員が声を揃えた。


「まだ帰らないのか?もう7時近いぞ」


「まだプロジェクトが終わってないので、帰れません」


「もういい、早く帰って休め。明日は日曜だ、家族と過ごせ」


「でも、月曜に方案が…」


「いい、いい。主管に遅らせると言う。行け、行け」


「はい!ありがとう、弥永大臣閣下」


そう言うと、数人は素早く荷物をまとめ、軽やかに去った。


「飲みに行こうぜ!」


「前回の店か?」


「前回はお前が酔いつぶれて、俺たちが家まで送ったろ。今回はお前のおごりな!」


「え?そ、そんな…なかっただろ!」


「しらばっくれるなよ」


数人は笑いながらエレベーターに入った。善正は彼らを見て安堵の笑みを浮かべ、「こいつらめ」と呟き、久史の事務所に向かった。


「久史?」善正は久史を呼んだが、事務所は誰もいなかった。


「アイツも帰ったか…机に書類を山ほど放置して」


善正は久史の書類を引き出しに片付けようとした。引き出しを開けると、奇妙な紙切れが見つかり、そこには「35.976361, 139.240472」と書かれていた。善正は書類を置いて紙切れを手に取った。


「これは何だ?」と善正は思った。


突然、善正は今朝、久史が会社に戻った時にこそこそと紙切れを引き出しにしまい、善正が事務所の入り口にいるのを見ると平静を装ったことを思い出した。


善正はこの紙切れに何か問題があると確信し、スマホで数字を撮影し、物を元の位置に戻した。久史に気づかれないよう、書類も引き出しに入れず、机に積んだまま事務所を去った。

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