14. 平将門行動
都立板橋高校の校門前で、郁美と自解党の党員たちは多くの保護者、学生、教師とともに抗議していた。対面には機動隊が待機し、彼らの主な任務は郁美と自解党の重要メンバーの逮捕だった。郁美は自分が日本一の指名手配犯だと分かっていたが、恐れずに街頭で民衆のために正義を訴えた。
「板橋高校の皆さん、保護者の皆さん、今日は重い日です。浜根清子さんが数日前、この学校で強姦殺害され、遺体には虐待の痕跡が多数残っていました。法治社会では、犯人は法で裁かれ、重い刑を受けるべきです。しかし、犯人が国会議員の息子だから、彼は野放しです。最も許せないのは、知情者を黙らせ、遺族に少額の口止め料で済ませようとしていること。そんなことで償えるのか?」と郁美。
「許せない!」と群衆が叫んだ。
「被害者の遺族は勇敢です。政府の報復や逮捕のリスクを知りながら、娘のために声を上げました。彼らに一言お願いします」と郁美。
清子の母がマイクを取り、涙目で、夫が肩を支えた。
「清子は良い子でした。勉強熱心で、教師や友人を尊敬していました。でも、愚かにも学校での嫌なことは話さず、いつも心に秘めていました。誰も傷つけなかったのに、なぜこんな目に?なぜ加害者が罰を受けず、庶民の私たちが罰せられるの…」と母は涙で声を詰まらせ、夫が抱きしめ、マイクを受けた。
「清子のために立ち上がってくれてありがとう。友人、クラスメイト、教師、誰であれ、感謝します。何が起きても、どんな結果になっても、真相が明らかになり、犯人が裁かれるまで闘います。娘を無駄死にさせない。加害者や庇う者、どんな権力者でも代償を払わせる」と父は言い、拍手が沸いた。
郁美が再びマイクを取り、「清子の両親、ありがとう。私たちは清子のために正義を求めます。これは清子のためだけでなく、同じ悲劇を繰り返さないため、子孫が普通で公平、自由な生活を送れるためです。権力者に、法を破れば責任を負うと知らしめよう。私たちは彼らの遊び道具のテディベアか!」
「違う!」と群衆が叫んだ。
昭英がマイクを受け取り、デモの流れと注意事項を説明。郁美は緊張しながら利美に近づいた。
「もし何かあったら、死ぬか捕まるかしたら、すぐ逃げて。残ったメンバーを率いて闘い続けて」と郁美は小声で利美に。
「首領、何だそれ?あなたなしじゃ無理だ」と利美。
「本気だ。私に何かあったら、あなたが次期首領」と郁美。
「でも、私、入党して1ヶ月だよ。昭英みたいな古参が適任でしょ」と利美。
「両親の遺志を継ぎ、親の手で仇を取れ。幼い頃、両親が殺された時の目で」と郁美。
「あなた何者?なぜ私のことそんなに知ってる?」と利美は違和感を覚え、話を変えた。
「話せば長い。後でゆっくり話すよ」と郁美はポケットから住所が書かれたカードを出し、「私に何かあったらここへ行って、白い口ひげの男を探せ。彼が助けてくれる」と。
「首領…」と利美が呼び止める前に、郁美は群衆に戻り、行進しながらスローガンを叫んだ。
「説明しろ!隠すな!犯人を引き渡せ!」と郁美が率いる群衆が叫んだ。
利美は激昂する群衆を見て、執念を脇に置き、カメラで撮影した。
「カシャ」と撮り終え、写真を確認。清子の両親が最前線で娘の正義を訴え、痛苦と決意の表情で叫ぶ姿が映っていた。
涙がカメラの画面に落ち、利美は国を闘う皆の姿に感動し、目を潤ませた。
「了解」と機動隊長がトランシーバーで応答。
「機動隊、鎮圧準備!連行しろ、抵抗者は即射殺」と隊長。
「嘘だろ、向こうはまだ十代のガキが多いぞ」と警官たちは命令に驚き、ざわついた。
「何騒いでる!早く隊列を整え、鎮圧しろ!」と隊長が怒鳴った。
「報告、隊長、命令間違えたんじゃ?…向こうは中学生が大半だ。こんな罪じゃないだろ?」と一人の警官。
「間違いない。連行、抵抗者は射殺。違反者は前回同様、軽ければ解雇、重ければ国家反逆罪だ」と隊長。
「国家反逆罪」に警官たちは黙り、冷や汗をか coste。皆、「すみませんでした」「神様許して」と呟き、罪悪感を軽減しようとした。
「行動開始!」と隊長。機動隊が突進。
突撃銃を持った機動隊が迫ると、デモ隊は数歩後退。自解党員だけは動かなかった。誰かが止めることを知っていたからだ。
「待て!」と孝太郎が元同僚たちを連れて現れ、機動隊を止めた。
「田口?お前ここで何してる?蔵野、外松、長塚…なんでみんなくそくらえ!」と警官が焦った。
「ここは危険だ、早く離れろ。誤射したくない」と警官。
「何言ってる、計屋。お前らこれ以上堕ちるな。俺が止めなきゃ、未来の国の柱となる若者を殺すぞ」と孝太郎。
「上からの命令だ。従わなきゃ反逆罪で死ぬ」と計屋。
「お前は子供を殺せと言われりゃ殺す殺人マシンか?」と孝太郎。
「もちろん違う、俺たちには原則がある」と計屋。
「じゃ、なぜ誰かの娘が殺され、犯人を庇い、他の子を殺せる?」と孝太郎。
皆は言葉を失った。
「何やってる!逮捕しろ!」と隊長が後ろから叫んだ。
「殺人マシンじゃない、原則があるなら、銃を邪悪な側に向けろ。俺たちは血肉ある人間だ。悪魔の手先になるな。皆が立ち上がれば、彼らは恐れる。日本の民主と自由を取り戻すチャンスだ」と孝太郎。
彼の真摯な演説は警官の心を揺さぶった。かつての仲間が民衆側に立つ姿を見て、暴政に仕える顔が立たなくなった。
「俺たちと一緒に」と孝太郎が手を差し伸べた。握れば機動隊は民衆の味方になる。
その時、郁美に舞夏からの電話。
「舞夏、どうした?」と郁美。
「首領、まずい!今すぐデモ隊を撤退させて!」と舞夏。
「何が?」と郁美。
「警察が機動隊に最後通牒。『隊長と即帰還、さもなくば到着する処理者が命の保証なし』。すぐ逃げて!」と舞夏。
「到着する処理者?軍は介入しないはず、誰が?」と郁美は眉をひそめ、遠くの道路の眩しいヘッドライトに不吉な予感。
計屋が手を伸ばしかけた瞬間、後ろからエンジン音。
「裏切り者め!」と隊長は自ら処理しようとしたが、エンジン音に足を止めた。
数台の装甲車が校門前の空き地に停まり、機動隊の後ろ数十メートルに大和捍衛隊の若者10人ほどが降り、初任務に興奮していた。
「急な任務で申し訳ない。コードネーム『平将門』。目標はデモ隊と機動隊全員の殺害。ただし、指名手配の自解党員は生け捕りだ。1人殺せば2万円、指名手配者は5万円。幸運を、ウサギをたくさん狩れよ!」と真敏が装甲車から軽快に。
装甲車が止まり、数十人の捍衛隊の若者が「大和民族万歳!復興党万歳!」と叫び、群衆にサブマシンガンを乱射。
郁美は民衆を後退させたが、デモ隊はパニックで逃げ惑った。
機動隊は自分たちが裏切り者と見なされ、腰の手銃を元同僚に配り、柵や木の陰で捍衛隊とゲリラ戦を展開。
機動隊長は掩体から出て、両手を上げて降伏した。
「俺は味方だ、党と国を裏切ってない、許してくれ」と隊長は慌てて。
2人の青年軍が銃を向け、互いにどうするか迷った。
「バン」と後ろから銃声。隊長は額を撃たれ倒れた。真敏が銃を構え、2人に近づき、彼らは敬礼した。
「命令はデモ隊と機動隊の全員殺害だ。躊躇はいらない。国の害虫を駆除するんだ、負担に思うな。さ、行け」と真敏は笑顔で。2人はデモ隊と警察を追った。
青年軍は情け容赦なく乱射し、学生、保護者、教師、自解党員を問わず殺した。殺人に罪悪感はなく、むしろ誇らしげで、訓練不足でも警察より効率的だった。
利美はカメラをしまい、群衆と逃げたが、後ろで女子高生が転び、助けを叫んだ。
利美は迷わず戻ったが、郁美に止められた。
「皆を連れて逃げろ。私が対処する」と郁美。
「首領はどうするの?」と利美。
「私のせいで皆を巻き込みたくない」と郁美。
利美は涙目で言葉を失った。
「早く逃げろ、皆を頼む」と郁美は女子高生の手を引き、利美に預け、狂気の青年軍に向かった。利美は女子高生を連れて逃げ、振り返り郁美を心配した。
一方、孝太郎と機動隊は消耗戦を展開。掩体を頼りに戦ったが、青年軍は命を顧みず自殺的突撃を繰り返した。
訓練された機動隊でも、1対5の戦力差で人海戦術に囲まれ銃殺された。
「計屋!」と孝太郎は被弾した計屋を見て悲痛に叫んだ。
計屋は絶望の目で孝太郎を見、5秒も経たず青年軍に包囲され処刑された。
孝太郎は慟哭し、「逃げろ!何してる!」と仲間が彼を引っ張って逃げた。
「私を捕まえたいなら、ここにいる。無辜の民は巻き込むな」と郁美は遺体の道を歩き、両手を上げて捍衛隊に。
青年軍は立ち止まり、互いを見た。
「停火、生け捕りにしろ」と真敏が命令。
青年軍は郁美に手錠をかけ、彼女は抵抗せず従ったが、電撃銃で気絶させられた。
2台の装甲車が残りのデモ隊と自解党員を追跡し、他の装甲車は郁美を本部に連行。
騒ぎの後、校門前は死寂に包まれ、通りは遺体で溢れた。