12. 捍衛隊
ミャンマーのジャングルで、日本の志願軍が森林に潜む難敵のゲリラ部隊を追っていた。
軍はジャングルの開けた草地に簡素な駐屯キャンプを設営し、数多くの粗末なテントで構成されていた。
長髪で花のように美しい士官がテントから出てきた。腕章には五芒星が二つあり、日軍中佐であることを示していた。彼の歩みは優雅で、両手を背中に回し、軍人というより文人のようだった。
「中佐、キャンプに留まって2週間近くになりますが、ゲリラの痕跡は見つかりません。我が軍の損失は敵に比べ多すぎます。このままでは上層部に報告が難しい」と一人の兵士が中佐に急いで言った。
「大丈夫、すぐに分かるよ」と中佐は微笑み、穏やかで優しい男の声で答えた。声を発しなければ、彼が男性だと気づく者はいなかっただろう。
兵士は困惑した。これまでゲリラの拠点に関する情報は何も得られていなかったからだ。
兵士は中佐について審判が行われているテントに入った。そこでは一人の兵士が憲兵数人に縛られ、満身創痍にされていた。
「中佐、川辺で水を飲んでいた脱走兵を捕らえました。どう処置しますか?」と憲兵隊長。
中佐は前に進み、脱走兵をじろじろと見つめた。脱走兵は怯えた表情で、中佐に許しを乞う目をした。
「君、志願兵じゃないよね?」と中佐は微笑んで尋ねた。
中佐の優しい口調は陽光のように脱走兵の心を照らし、彼を少し落ち着かせた。
「政府に徴兵されて、数ヶ月訓練しただけで戦場に送られたんです」と脱走兵は哀れっぽく言った。
「そうか、かわいそうに…彼を解放して」と中佐。
「え?中佐、そんな…」と憲兵隊長は耳を疑った。
「我々は兵士に厳しすぎる。戦闘意欲のある軍人だけで十分だ。戦争を恐れる兵士を無理強いする必要はない」と中佐。
「中央はすべての脱走兵に極刑を課せと命じています。軍令違反は…」
「ここは私の管轄だ。私の決定を尊重して。不満なら上層部に報告してくれ」
憲兵隊長は怒りを抑え、脱走兵の縄を解いた。
「川辺での活動を邪魔して悪かった。まっすぐ行けば川がある。早く風呂に入れ、泥だらけだ。その後、家に送るよ」
「中佐の寛容に感謝します」と脱走兵は卑屈に礼を言い、立ち上がってテントを抜け、川へ走った。
だが、遠くへ行く前に「バン」と銃声が響き、脱走兵は倒れた。
中佐が45度下に銃を構え、銃口から煙が上がり、顔には穏やかな微笑みを浮かべていた。憲兵と同行の兵士は驚愕した。
脱走兵は右足首に被弾し、驚き、震えながら立ち上がり、左足でよろめき歩いた。
2秒も経たず、中佐は左足にもう一発撃ち、脱走兵は這うこともできなくなった。だが、強い生存本能で両手で体を引きずって進んだ。
「ナメクジみたいだと思わない?」と中佐は振り返り、笑顔で皆に言ったが、皆は恐怖で言葉を失った。
中佐は優雅な歩みで進み、ゆっくり足を上げ、脱走兵の背を踏み、動けなくした。
中佐は銃をホルスターに戻し、腰からナイフを取り、しゃがんで脱走兵の髪をつかみ上げた。ナイフを喉に当て、高級レストランでステーキを切るように左から右へゆっくり切り、喉仏に当たると自然にナイフを左右に動かし、甲状軟骨と気管を抉り出した。
脱走兵は抵抗できず、中佐に屠られた。口を開け、恐怖で目を見開き、息絶えた。
中佐は立ち上がり、気管を皆に見せ、漁師が釣果を誇るように振舞った。
「これで満足?憲兵のお兄さん」と中佐は血まみれの顔で温かな微笑みを浮かべた。
憲兵隊長以外は目を背け、後ろで吐く者もいた。
「こいつ、マジで狂ってる…」と憲兵隊長は心の中で思った。
「次に脱走兵を見つけたら、私に会わせず、ウサギ狩りみたいに仕留めていいよ」と中佐は笑って。
中佐は気管を机に置き、兵士に脱走兵の遺体を川に捨てるよう命じた。
間もなく、憲兵が汚らしい兵士を連れてきた。日軍とは異なる軍服だった。
「中佐、ミャンマーのゲリラ戦士を捕らえました。敵の情報を得られるかもしれません」
憲兵は戦俘を縛り、厳しい拷問を加えたが、彼は口を閉ざした。
「最後に聞く、ゲリラの拠点はどこだ?」
戦俘は憲兵を睨み、全身鞭で傷だらけでも一言も発しなかった。中佐は傍観し、楽しんでいるようだった。
「中佐、何をしても一言も吐きません。処理しますか?」
中佐は答えず、ガラスキャビネットの鉄箱を開けた。
「何してる?それは軍医しか使えない」と憲兵隊長。
中佐は注射器と「GA」と書かれた透明な液体瓶を取り、水のようだった。
中佐は液体を注射器に吸い、針を弾いて戦俘の前に進んだ。
「これはタブン、数分で死ぬよ。その間、筋肉痙攣、呼吸不全、てんかんが起き、最後は恐ろしい死に様だ。私は命を尊重するから、10秒考える時間をあげる」と中佐は戦俘の耳元で囁いた。
10秒後、戦俘は黙って中佐を睨んだ。
「覚悟に感謝」と中佐は微笑み、慎重に針を腕に刺し、ゆっくり液体を注入した。
数秒で戦俘の瞳孔が縮小し、涙、唾液、鼻水が流れ、呼吸が困難になった。1分も経たず、体が痙攣し、目が赤くなり、口から泡を吹いた。呼吸が急になり、痙攣が激しくなり、目から血が流れ、3分も経たず息絶えた。
「可哀想だけど、情報は得られなかった…」と中佐は戦俘の壮絶な死に顔に近づいて言った。
「中佐、タブンは国連で大量破壊兵器に指定され、『化学兵器禁止条約』で厳格に規制されています。あなたは人道に対する罪で国際軍事法廷に送られます」と憲兵隊長。
中佐は全く動じず、むしろ悠然と、「国連の偽善的な条約や憲章は『勝者の正義』だ。私たちが常に勝者なら、法は我々が決める」と。
中佐はグラスに水を注いで飲み、憲兵隊長は目の前の狂人に汗だくだった。
首相官邸の会議室では、公安委員会委員長の由隆、防衛大臣の悠輔、数多くの五芒星と勲章を付けた高級士官たちが会議卓の両側に座り、武一郎を待っていた。皆は茫然とし、今日の議題が何か知らず、ざわついていた。
由隆は緊張していた。前回のデモ鎮圧で機動隊に不満を抱いた武一郎が、数日後に士官、国防、公安の要人を集めた会議を開いた。由隆はこれが関連していると感じた。
数分後、ドアが開き、武一郎が厳しい顔で入り、議長席に座った。
「総理大臣閣下、午後好」と全員が声を揃えた。
「午後好、座れ」と武一郎。
「今日、なぜ士官たちを呼んだか?新部門を設立したい。警察と軍の間に位置する特別な保安部門であり、軍事部門でもある」と武一郎。
「総理大臣閣下、国防には軍、治安には警察、戦場秩序には憲兵がいます。軍事と保安の混合部門が必要ですか?」と陸軍上将の吉平高浩。
「なぜこの部門が必要か説明しよう。先の十一暴動(選挙不正反対デモ)で、機動隊は鎮圧命令に躊躇し、野党指導者逮捕の好機を逃した。彼らは暴徒に同情し、哀れな姿に心を動かされ、命令に背いた。このままでは彼らは暴徒側に立つ」と武一郎。
「総理大臣閣下、当日命令違反の隊員は解雇し、消極的な者も処罰しました」と由隆は恐縮して。
「良い。だが、警察でデモを処理するのはリスクがある。そこで、『大和捍衛隊』を思いついた」と武一郎。
皆は困惑して武一郎を見た。
「簡単に言うと、この部隊の任務は:1. 党内指導者の人身安全確保、政治暗殺や襲撃防止。2. 政治警察と情報活動、異分子や反対者の鎮圧、国家の敵の調査と逮捕。3. 国防軍の軍事行動支援、訓練された軍ではないが戦場で補助できる。4. 占領地の統治、将来の戦争で他国地域を占領した場合、秩序維持、戦俘処理、住民の労働分配、反抗運動の鎮圧。5. 党内規律管理、各部門に潜入し、不忠な内通者やスパイを摘発、部門の運営を監督」と武一郎。
士官たちは顔を見合わせ、疑いの目を隠した。これは武一郎のための軍だと感じた。
「総理大臣閣下、そんな多岐にわたる任務の部隊に、どこからそんな人材を?」と悠輔。
「その通り。この部隊は上記の任務に精通する必要はない。全く知らなくてもいい」と武一郎。
皆は唖然とした。
「必要なのは党と民族への絶対的忠誠、人間性を捨てる忠誠だ。今日、親を殺せと命じられても、ためらわず引き金を引く者。候補はファシスト熱狂の若者や高官の子女で、党への絶対的忠誠を保証する」と武一郎。
「反対だ!」と松安旭元帥が洪亮な声で。
松安旭は白い口ひげに顔の傷跡、凶悪な面構えで、軍での威信が高く、武一郎に逆らえた。
「これは国防軍の権力を削ぐ行為だ。自分に忠実な軍を育て、俺たちを空洞化し、放棄、粛清する気だ。絶対に許さん」と松安旭。
「松安元帥、考えすぎだ。捍衛隊で国防軍を置き換える気はない。機能も全く違う。なぜそう思う?」と武一郎。
「誰がお前の狡猾な考えを知るか。捍衛隊はお前が指揮し、言うことを何でも聞く。松安元帥に賛成、断固反対だ」と陸軍中将の神内良忠。松安の忠実な部下ゆえ、武一郎に無礼に振る舞えた。
「実は、この軍は私が指揮しない。今日、捍衛隊の指導者を連れてきた。坂谷、彼を呼べ」と武一郎。
坂谷保生がイヤホンを押し、数語話すと、1分も経たずドアが開いた。
精緻な顔立ちに長髪の士官が優雅な歩みで入り、清らかな笑みを浮かべ、西施のような美貌だった。
誰も彼がミャンマー戦場で殺人鬼と知られる安原真敏中佐だと気づかず、ただその美貌に見とれた。今回は国防軍の制服ではなく、旭日腕章の捍衛隊の軍服だった。
「女を指導者に?」と松安旭が武一郎に問うた。
「誤解です、元帥。私は男です。安原真敏、元国防軍中佐、よろしく」と真敏は優しく微笑んだ。
「じゃ、女々しい奴か?」と良忠が嘲笑。
「控えろ。見た目は穏やかだが、彼は『微笑む悪魔』安原真敏だ。ミャンマーで無数の人を殺し、脱走兵や戦俘を極刑に処し、人体実験までした」と高浩。
「へぇ、怖いね。悪口言ったらどうなる?切り取られて口に詰められる?」と良忠はなおも嘲笑したが、真敏が微笑んで見つめるのに気づかなかった。
「安原は元中佐で、悠輔の部下だった。彼なら捍衛隊の指導者にふさわしい」と武一郎。
「安原の能力と効率は軍のエリートだ。総理の決定を支持する」と悠輔。
「佐官をそんな高位に?将官の才能はゴロゴロいる。どうした?彼が口で奉仕したから抜擢か?」と松安旭は言い、側近たちが笑い出した。
「松安元帥、言いすぎだ!」と武一郎。
「理解不能なのはお前の選択だ。忠実な犬どもで楽しめよ、俺たちは行く!」
松安旭は側近を連れて退場し、会議卓には武一郎、由隆、悠輔、真敏、陸軍上将の清光復典が残った。
松安旭派はドアを叩きつけて出て、武一郎は平静を装い、内心激怒し、「意見は?」と尋ねた。
「この部門は国家の風紀を正し、総理の眼力も信じる」と由隆。捍衛隊は警察の権力を削ぐが、武一郎に従うのが賢明だと考えた。
「安原は私の下で鍛えられた。彼なら水を得た魚のようだ」と悠輔。
「清光上将、意見は?」と武一郎。
「内政は興味ない。戦争にしか熱中しない。後はお前らで」と復典は無関心に。
「では、全員賛成とみなす。大和捍衛隊は真敏に任せる。部門の拡大と整備を頼む。期待してるぞ」と武一郎。
「はい、総理大臣閣下。皆様のご期待に応えます」と真敏は微笑んだ。