春の
三題噺もどき―にひゃくごじゅうに。
おい。
春だ。
外はピンク色に染まっている。ピンクというよりは、薄桃色か?桜色といった方が正解に近そうだな。
「……」
冬の寒さは少しずつだが、鳴りを潜めている。
まだ夜は冷えるかもしれんが、12月とかに比べたらマシになったと思わんか。
「……」
不思議なものだよなぁ。
ほんの数ヶ月で、ここまで気候が変わっていく。
まぁ、一巡を12個で分けているから、そう感じるのかもしれんが。月で数えると本の一桁で済むが、日で数えると二桁になる。
……ん?まぁ移動でもいんだそんなこと。
忘れてしまえ。
「……」
しかし、この部屋は暗いな。
なんでこんなにピッタリカーテンを閉じているんだ。おかげで、体感温度がものすごく低い気がしているんだが。
もう外は温かいと言うに、ここだけずっと冷蔵庫のなかみたいだな。思わず身震いしてしまったじゃないか。
「……」
ん?
これ、遮光カーテンか?
去年わざわざ普通のカーテンつけてやったのに、どこにやったんだ。
ただでさえ、外に出ないんだから、カーテンぐらい変えろと忠告したろう。
それでも変えないから、俺が変えてやったはずなんだが?
「……」
捨てた?
おいおい。あれは大事にしといてくれよ。
買いに行くのも通販するのも面倒だと言うから、わざわざ作り上げてやったのに。
あれは、ちょっとした虫よけもかねてるんだぞ……お前は他のやつにも狙われやすいから。
「……」
仕方ない……。もう一度編んでやるから、次こそは捨てるなよ。
一年ぐらい我慢してくれ。
何?眩しすぎる?
外に出ないからだよ。たまには外出でもしろ。
そしたら、このカーテンも変えてやるさ。遮光とやらに。
「……」
そんな目で見たって、変えないからな。
……よし。
これでオッケー。
おお、少しはあったかくなったんじゃないか?いや、明るさって大事だなぁ。
「……」
おいおい。
そんなちっこくなるな。
まぶしくないまぶしくない。
カーテン越しだから、何もないだろ。
「……」
というか、今気づいたが。
部屋が明るくなったおかげで気づけたが。
……なんだこの大量のえんぴつ。去年はなかっただろう。
「……」
ん?ヒマだったから削ってた?
何を言ってやがる。ヒマなら外に出ろ。
……そういや、去年は大量にクッキー作ってたな。なんだ、大量生産するの好きなのか?去年のありゃ、食えたし、うまかったからよかったが。こんなもんどうすんだよ。
捨てるのか?もったいないことすんなぁ。
どうせなら使ってやれよ。
お絵描きとかなら、外に出なくてもできるだろう?たしか、趣味で昔書いてたはずだよな。
なんなら、スケッチブックでも作ってやろうか?
ほれ。
この大量のえんぴつ無駄にするよか、いいだろ。
「……」
心底面倒みたいな顔すんな。
今年の暇つぶしはお絵描きってことで良いだろ。絵を大量生産しろよ。
よかったな、暇つぶしの準備ができて。
……足りなくなったら?買いに行け外に。
「……」
ん?
あぁ、もうそろそろ時間だな。
なぁんかあっという間だな。
お前がそうやって毎回だんまり決め込むから、俺一人で話してるだけだが。
毎年、悪くはない時間だぜ。
「……」
ん?この後か?
俺はこの後は、いつも通りの仕事に戻るぜ。
お前もずっとそんなしてないで、お絵描きでもしておけよ。
んで、来年それを見せろ。
それが、今年の約束な。
「……」
しかしなぁ、この後の仕事場所が分かりずらいんだよ……。
なぁ、この辺に観覧車がある場所ってわかるか?
なんかなぁ、今日そこで大量に出るらしいから、連れてけって言われてんだが。
他のやつらは別件で忙しいしよ……ほかに聞ける奴いないんだよ。
「……」
はぁ……あの辺か。ああ、わかったわかった了解。そこならわかるわ。
なに、最近できたの?
ふーん。なんで外に出てない癖に知ってるんだ?
……インターネット?はあ、今は何でも知れていいな。
「……」
おっと、そろそろ時間だ…。さすがに急がねぇと。
「……」
ん?なんだ。
死にたくなったか?
ちがう?
ま、約束は守ってくれよ。
何なら、俺の絵でも描いてていいぜ?
え?書かない?なんでだよ、描けよ。
「……」
ま、じゃな。
来年まで、生きてろよ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
目の前にあった影は消え、訪れた春の日差しが部屋に差し込む。
死にたがりの私の前に、毎年春に訪れる死神は。
今年も私を。
連れて行ってはくれなかった。
お題:えんぴつ・クッキー・観覧車