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「ま、依頼主に会いに行きましょましょ」
基本的に私たちな仕事は依頼を請け負って其れをこなす。普通の依頼もこれば私達のような者にしか出来ない以来も来る。
依頼主如何によっては気分も最悪になる。政府も一枚岩では無い。どんな組織にも派閥や覇権はある。
私達エージェントにもあるっちゃーある。興味は無いけどね。
一般の人の依頼ではなく、国からのものが多い。それは、ほら、ふつーに暮らしてる人が薬物密売を消して欲しい!とか、あの会社ヤバいから潰そう!とかならんし。
でも今回は珍しいかな。拠点からメールやら何やらでやれやって、コレやってが殆どなのに。あ、電話も秘匿回線であるか。
「応援って来ないんですよね、ココ」
「来ないよー、ココ。残念だったねぇチミぃ。生じ特異能力があるとどこの世界でも爪弾きー」
手の平に顎を乗せて軽い気持ちで言う。
後輩ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
少し騒がしい店内と、店内BGMで掻き消えそうな弱々しい声。
弱気になる気持ちは大いに分かる。
後輩ちゃんは今まで単独で動いてこなかったタイプの子だろうし。
単騎でやる任務はそれこそ夜道で後ろからズドンだったり。
相手が動く前に殺したり。そういうのは事前に情報が開示されるからね。一体どうやってんのかは知らんけど。
スパコンで日本を監視でもしてるのかね。
で、バディを組まされた以上、結構な大きさの任務だったりする。そういう場合は大規模な人員を使う。
けど、私はそれが出来ないからね。
でもソロじゃないって事は何かしら意味はありそうだ。
ろくでもない意味だろうけどね。
「……すいません」
「はい、お伺いします」
水の入ったコップを弄っていると、後輩ちゃんが手を挙げて、店員さんを呼んだ。
後輩ちゃんは私がもうメニューを決めたと思ったらしい。
実はなんにも目を通してなかった。慌ててメニューをペラペラみる。
うん、珈琲系ばっかりだ。他の子なら良いのかもしれないけど、私は苦手だからジュースを、探す。
「アイスコーヒーを。先輩は?」
後輩ちゃんは初めから決まっていたみたいだ。当たり前みたいな顔で頼んでる。
バタバタしている私に冷めた目を向けないでくれ。
「オ、オレンジジュース!」
「お願いします」
子供みたいに勢い良く叫ぶ私とお母さんみたいに落ち着いた後輩ちゃん。物凄く情けなくなってくる。
店員さんも、クスッと笑って行ってしまった。
「先輩はその多重人格ですか?」
「んー、なにが」
後輩ちゃんが溜息を押し殺して話題を変えてくれた。できる後輩だ。
お、だんだん可愛く思えてきたぞ。でも質問の意味がよく分からなかったから再度尋ねる。
「特異能力」
まあ、気になるか。
さっき後輩ちゃんにココには応援は来ないと言ったけど。そうそう変な能力持ってる子なんて居ないし、気になるのかな。
後輩ちゃんが何でバディに選ばれたのかもそういえば聞いてないけど、まあいいか。気になる様だから答えてあげる。勿体ぶるようなことでもないしね。
恐らく後輩は多重人格者という点だとアタリをつけて、答え合わせをしたかったのだろうけど。
「んいや。目がいいだけ」
「たったそれだけ?」
目をパチパチとさせて、からの?みたいな表情をされる。
そんな顔されても事実は変えられないのだ。
全くの予想外の答えに、わなわなと震え初めてしまった。
なんだか悪いことをしてしまった気になるからやめて欲しいな。
「まあ。異常だよ?視力8だから」
「8」
「8」
そして信じて貰えない。このままでは印象がお子ちゃまで、嘘つきみたいになってしまう。
何もしていないのに名誉挽回をしなくては行けなくなっている。
スマホを見て付近で誰か何かしらやってないか調べる。
真正面から特定の角度でしかまともに画面が見えないために使いづ辛くて仕方ない。
勿論支給品、秘匿回線の物だ。プライベート用は別にある。ソシャゲしかやってないプライベートスマホだ。
まあ、その。なにかな。友達はいないものでね……。
支給品のスマホは別のエージェントの現在の依頼とかも見れる。しかし見にくい。
ちょうど向かいでやってるみたいで、目を凝らす。
「あー、いま向かいのビルで発砲あったね。私達と一緒の子達だ」
知られては行けない影の出来事は平和な日常とは切っても切り離せない。太陽があり、物体がその下にある限り影ができるのと一緒。
私達がこれから行う事。今、目と鼻の先で起きていることは、別の事であり、同じ事でもある。
あれは、雑居ビルだ。テナント店が多く含まれる中、道路にはパトカーやら救急車やら勢揃い。
報道規制ももちろん掛けられるだろう。
何処かの電波信号をジャックしてジャミングしてるはず。
情報社会で隠蔽も楽じゃないね。
目を凝らすと、なんと銃撃戦してるね。
くっきりとは見えないけど、発砲もしてる。無茶苦茶な動きしてるなぁ。
銃撃戦で走り回ってる。
「えっ!?……なんにも分かんないですけど」
「そうかなー。……あ」
ガバッと振り返ってどうにかこうにか見ようとしてる後輩ちゃんの無邪気な感じは好きだな。
望遠鏡まで持ち出して見てるけど、結局分からなかったらしく、座り直して軽く頭を振った。
その様子を見て、ちょっくら本気を出しますかーっと目を凝らして走り回ってるエージェントを見てちょっと嫌な事に気が付いた。
「どうしたんですか?」
体が固くなった一瞬を後輩ちゃんは見逃してくれなかった。
厳しがる様に尋ねられる。
私は顔見知りでなるべく会いたくない人物の名前を言ってから舌を出す。
「泪が居た」
「ああ、あの人」
見た目がお嬢様だし、振る舞いもそう。今もきっとフリフリの服を着て血にまみれてダンスしてるだろう。
泪。同じネイルの所属で、有名人だ。
曰く、親殺し。曰く、生粋の快楽殺人犯とか。
珍しい一般人からの引き抜きらしいけど、マイクロチップを埋め込んで行動規制してるらしい。
そんなヤツ生かすなと思ったし、言ったけど「有能で従順。問題が?」と突っぱねられた事もあって余計に嫌いだ。
1度バディを組んだ時は目が死んでるし、私と話が全く合わない。人を殺すという事に優越感と、達成感を見出す私と、人の苦痛な表情や悲鳴が何よりも好きなんだそう。
彼女が聞く賛美歌は悲鳴で演奏してるだろう。悪趣味だ。




