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「ターゲットは人身売買の大元、伊沢圭哉。研究者を騙し、脅し、こき使うらしいです」
心底嫌そうな顔をして、吐き捨てる。
いい印象は抱かないけれど、所詮は他人。そこまで嫌悪感を露わにするものかと疑問にすら思う。
伊沢は日本でも、いや、世界躍進を遂げている製薬会社の新薬開発の顧問だったはず。
ソイツを殺せば日本は薬学や、先進医療で遅れを取るかもしれない。それでも害ありとなれば消す。そして現状維持をする。
後には研究結果とかを掠め取って我が物顔する司令の顔が浮かぶがね。
朝早い時間帯とはいえ学校は始まっているだろう。ダラダラと歩いている気だるげな学生を見ると、やるせない。
彼らは当たり前の中に生きている。
勉強をして、ひょっとしたら恋をして、就職をして、結婚をして子を育て死ぬ。
彼らはソレを平凡と言うだろう。
俺たちはソレを羨望する。地獄に身を置き他人の平凡を全うさせる。泣けるね。
「このご時世に奴隷商みたいな事を……嫌になっちゃうね」
「……先輩、今誰です?」
軽いノリで思ったことを口にした。
後輩ちゃんはビクリとして、何も知らない人ならば意味のわかんない事を言ってる。
そんな後輩ちゃんに体ごと向きを変えてヘラヘラと笑った。
「わたし?わたしはねー、誰でしょうかっ!?」
「あ、はい。分かりました、一凛ですね」
なんだがクイズを出されたみたいで、嬉しくなっちゃて勢い良く聞いてあげても、これ以上無いくらいの無表情で淡々と答えられてしまった。
可愛くないな。今夜にでも襲っちゃうぞ!
「なんでわっかるかなー?ま、いいや。で、どういう手筈なの」
人と話すのは久しぶりだから楽しいけど、やる事はやらなきゃ行けない。私自身の病気の事もあるしね。
生きる為に死線をくぐる。世知辛いわけですわー。
「証拠はコアが持ってますから」
「殲滅戦だねっ?」
「ええ、そうですけど……なんで嬉しそうなんですか」
「知らないかー。そうかそうか、この一凛ちゃんは人を殺したくって仕方ないんだよ」
太陽の様な笑顔でそう言えば、静かな夜の様に押し黙る後輩ちゃん。目も合わせずに歩いていってしまう。
「後輩ちゃーん。演技下手ねー」
歩き方が乱暴になってるね。歩幅が広くなった。肩が上がってる。
「何考えてるのかにゃー?」